第3章:第50話:母の贈り物
第3章:第50話:母の贈り物
「……ふぅーっ」
ひとしきりおどけて見せたシルフィアは、今度こそ深く、落ち着いた吐息を漏らした。 彼女は居住まいを正すと、穏やかな、だが真摯な瞳でフィリアを見つめる。
「……寂しいのは本当よ、フィリア。あなたはいつまでも私にとっては可愛い子供だもの。でも……私が本当に怒っていたのは、あなたが何も相談せず、黙って里を飛び出したこと。その一点だけよ」
「……お母さん……」
「里を出ることが、絶対に許されない罪だなんて……私は一度も言ったことはないわ。私も、人間の中に素晴らしい人がいることは知っているもの」
その言葉に、真司、ミーシャ、そしてフィリアまでもが「え?」と声を揃えて絶句した。
「……ちょ、ちょっと待ってください。里の掟では、人間は邪悪で、外の世界は魔窟のような場所だと教えられてきましたが……」
真司の困惑した問いに、シルフィアは少し困ったように微笑んだ。
「それは……あの子たちが勝手に外へ行って、危ない目に遭わないようにするための、ちょっとした『躾』のようなものよ。幼い子供に『外は怖い場所よ』と言い聞かせるのは、どの種族も同じでしょう?」
あまりにも現実的な理由に、三人は肩の力が抜けるのを感じた。
「フィリア。あなたは外の世界に興味があり、冒険がしたいのね? ……そして、この人間さんたちと一緒に、眠れる人々を救いたい。その決意は本物かしら?」
「……うん! 私は、シンジたちと一緒に行きたい!」
フィリアの真っ直ぐな返答に、シルフィアは満足げに頷くと、部屋の奥へと消えた。 やがて彼女が抱えて戻ってきたのは、古びているが手入れの行き届いた、美しい武具の数々だった。
「なら、分かったわ。……これは、私たちの里で古くから使われている一般的な装備よ。これをフィリアに授けます」
差し出されたのは、驚くほど軽量で丈夫な**『エルフの鎧』と、小柄なフィリアでも扱いやすく、吸い付くように手に馴染む『エルフの弓』**。
「それから、これがあなたの求めていたもの……」
シルフィアは最後に、透き通るような美しい輝きを放つ小さな笛を取り出し、大切そうにフィリアの手へと預けた。
「……**『目覚めの笛』**よ。これで、あなたの友人たちの村に、朝を届けてあげなさい」
手渡された笛の重みに、フィリアは強く、強く頷いた。




