第3章:第49話:司祭様の秘密
第3章:第49話:司祭様の秘密
「……フィアちゃん、フィアちゃんが居ないとお母さん寂しいよぉ……っ! 毎日枕を濡らしてたんだからぁ……っ!」
つい数秒前まで、里を統べる冷徹な司祭の顔をしていたはずのシルフィアが、突然ソファーに崩れ落ちて子供のように泣きじゃくり始めた。 あまりの豹変ぶりに、真司とミーシャは言葉を失い、開いた口が塞がらない。
「ええ……。なに、この展開……」 「……し、しんみりした空気が台無しだな……」
ミーシャが引き気味に呟き、真司も同情の眼差しを向ける。 そんな母の姿に、フィリアも胸を痛めたように眉を下げ、しゃがみ込んだシルフィアの肩にそっと手を置いた。
「……お母さん。ごめんなさい、そんなに心配してたなんて……」
フィリアの瞳にも涙が浮かび、親子が再び絆を取り戻そうとした、その時だった。
「――もう! お母さん、フィリアを可愛がり過ぎよ!」
勢いよく扉が開き、一人の美しいエルフの女性が部屋へ踏み込んできた。 長く艶やかな金髪をポニーテールにまとめ、意志の強そうな瞳をした彼女は、泣いているシルフィアを指差して言い放つ。
「フィリアももう子供じゃないのよ! いい加減子離れしろっての、この親バカ司祭!」
「……っ、お、お姉ちゃん……?」 呆然と呟くフィリア。彼女の姉、リリアーヌは呆れたように肩をすくめた。
「大体、お母さんだって昔、司祭なんてやだーってこの里から抜け出して、わがまま言ってたってお婆ちゃんから聞いてるわよ? 人間の街で何十年も好き勝手やってたって話もね!」
「…………えっ?」 フィリアの動きが止まった。真司とミーシャの視線が、一斉にシルフィアへと突き刺さる。 すると、さっきまで号泣していたはずのシルフィアが、涙を一瞬で引っ込めると、可愛らしく舌をペロリと出した。
「えへっ。……バレちゃったかぁ」
屈託のない笑顔。そこには罪悪感など微塵も感じられない。 「……嘘泣きだったの!?」 ミーシャの絶叫が部屋に響き渡り、真司はただただ、エルフという種族の底知れなさに深く溜息をつくしかなかった。




