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第3章:第48話:外の世界、人の温もり

第3章:第48話:外の世界、人の温もり


シルフィアは、組み上げた指の上に顎を乗せ、微動だにせず真司の言葉を待っていた。 先ほどまでの取り乱した様子は影を潜め、そこにはエルフの里を束ねる司祭としての、静謐で重厚な威厳が戻っている。


真司は一度、深く息を吐いた。 彼は現役時代の商談以上に神経を研ぎ澄ませ、静かに、そして丁寧に語り始めた。


「……まず、私たちがフィリアと出会ったのは、里から遠く離れた北の洞窟でした。彼女はそこで、ジェネラル・ゴブリンという狡猾な魔物に囚われていたのです」


そこから語られる事実は、シルフィアにとって衝撃の連続だった。 その魔物が「魔物の植物」を使い、フィリアの強大な魔力を吸い上げ、媒体として利用していたこと。その力を増幅させて「眠りの呪い」を撒き散らし、ムサカ村の村人たち全員を、未だ覚めぬ眠りの中に閉じ込めていること。


「そんな……。フィアちゃんの魔力が、魔物の道具に……村の人たちを苦しめるために使われていたというのですか……」 シルフィアの顔が、恐怖と悲しみで白く染まる。


「はい。ですが、彼女は自らの意志でその束縛を振り切ろうとしました。私たちは、彼女を救うために……そして、今も眠り続ける村人たちを救うために、『妖精の笛』の力を必要としています」


真司の説明に続き、ミーシャも補足した。普通の人間である彼女の言葉は、飾らないからこそ、そこにある悲劇の真実味をシルフィアに突きつけた。


説明が終わると、部屋には重苦しい沈黙が流れた。 シルフィアは、震える視線をフィリアへと向ける。


「……フィリア。なぜ、私に話してくれなかったのですか? 里の外がそれほどまでに危険だと知っていながら、なぜ黙って出て行ったのですか……?」


母親の、悲鳴に近い問いかけ。 それに対し、フィリアは俯いていた顔をゆっくりと上げた。


「……お母さん。ごめんなさい。でも……私、この里での生活が、ずっと息苦しかったの」 「え……?」


「毎日同じ景色、決まった教え、外を拒絶する空気……。私、もっと広い世界を見たかった。何があるのか、自分の目で確かめたかったの。……だから、あの日、結界を抜けたことは……後悔してない」


シルフィアは絶句した。自分の守ってきた安寧が、娘にとっては檻でしかなかったという事実に。


「外の世界は、お母さんが言うように怖いこともあったよ。魔物に捕まって、死ぬほど心細かった。……でも、それだけじゃなかったの」


フィリアは隣に座る真司とミーシャを見つめ、誇らしげに胸を張った。


「シンジとミーシャを見て! 二人とも、お母さんが言っていた『卑怯で強欲な人間』なんかじゃないよ。私のために命を懸けて戦ってくれて、居場所をくれて……。人間って、お母さんが思うよりずっと、ずっと優しいんだよ!」

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