第3章:第46話:司祭の素顔
第3章:第46話:司祭の素顔
里の最奥。古木をそのまま彫り出したかのような、圧倒的な威厳を放つ大屋敷へと、真司たちは守備隊に連行されていた。
道中、突き刺さるような視線と、さざ波のような囁き声が絶えることはない。
「……見て、司祭様の娘のフィリアよ」 「信じられない……。この不自由のない里を『退屈だ』なんて言って飛び出した罰当たりな子が、よくもまあ、のうのうと戻ってこれたものね」 「連れているのは人間? 穢らわしいわ……」
冷ややかな陰口が耳に届くたび、フィリアの肩が小さく震え、うつむき加減になる。真司は何も言えず、ただ彼女の背中を見守ることしかできなかった。
やがて重厚な扉が開かれ、三人は屋敷の奥にある広間へと通された。 「ここで待て」と守備隊に言い残され、静寂が支配する。シルフィアのあの冷徹なまでの美しさを思い出し、真司はこれからの「沙汰」に胃がキリキリと痛むのを感じていた。
だが、その緊張は唐突に、そしてあまりにも無残に粉砕された。
「——フィ、フィアちゃあああああん!! 心配したのよぉぉぉ!」
凄まじい勢いで扉が蹴破られんばかりに開き、飛び込んできたのは、先ほどまで「高潔な司祭」を演じていたはずのシルフィアだった。
彼女はなりふり構わずフィリアに抱きつくと、その銀髪に顔を埋めて、子供のようにわあわあと泣き始めた。
「生きててよかったぁ……! 悪い人間に攫われて、あんなことやこんなことをされてるんじゃないかって、お母さん夜も眠れなくてぇ……っ!」 「……っ、ちょ、お母さん! 苦しい、苦しいからぁ!」
ギュウギュウと力任せに抱きしめられ、フィリアの顔がひん曲がる。 さっきまでの神々しいオーラはどこへやら。今のシルフィアは、ただの「行方不明だった娘が帰ってきて理性を失った母親」そのものだった。
「…………」 「…………」
その様子を、真司とミーシャは一言も発さず、完璧なまでの「ジト目」で見つめていた。 34歳童貞男、真司。憧れたエルフの神秘性が、音を立てて崩壊していくのを感じる。
「……や、やめてよぉ、お母さん……っ。と、友達が見てるでしょ! 恥ずかしいから離してぇ!」
真っ赤になったフィリアが、シルフィアの美しい頬を両手で必死に押し返そうとする。だが、シルフィアは「絶対に離さない!」と言わんばかりに力を込め、ぐずぐずと鼻を鳴らして泣き続ける。
「お友達? そんなの関係ないわぁ! フィアちゃんが無事ならそれでいいのぉ……っ!」
外での冷徹な司祭と、家での親バカな母親。 そのあまりの落差に、真司はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。




