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第3章:第45話:高貴なる再会

第3章:第45話:高貴なる再会


「……そこまでになさい。弓を引きなさい、皆」


一触即発の殺気を霧散させたのは、冷徹な命令ではなく、静かな湖面を渡る風のような、透き通った声だった。


周囲を囲んでいた守備隊のエルフたちが、弾かれたようにその場に直立する。そして、流れるような所作で道を開けた。その中央から、ゆっくりと、だが確かな品格を纏って歩み寄ってきたのは、一人の女性だった。


真司は、思わず息を呑んだ。 34歳の営業マンとして、それなりに綺麗な女性を見てきた自負はあった。けれど、目の前に立つその人は、なんというか……次元が違った。


月の光をそのまま織り込んだような銀の髪に、すべてを見透かすような深い碧の瞳。高貴な法衣すら、彼女の美しさを引き立てるための添え物に見える。


(……おいおい、マジかよ。……エルフって、こんなに綺麗なものなのか……?)


真司の思考が、一瞬だけ真っ白になる。無理もない、中身は34歳童貞男だ。圧倒的な「本物」の美貌を前にして、男としての本能が完全に固まっていた。


「……ちょっと、シンジ。魂がどっか行ってるわよ。鼻の下、伸ばしすぎ!」


隣でミーシャが、呆れ返った顔で真司の脇腹を思い切り肘で突いた。その痛みでようやく現実に引き戻された真司だったが、ミーシャの視線もどこか複雑だった。同性から見ても、その女性の美しさは反則の領域だったからだ。


だが、そんな真司たちのやり取りも耳に入らないほど、激しく動揺している者がいた。


「……っ、お……お母、さん……」


フィリアが、消え入りそうな声で、絞り出すように呟いた。 その顔は、懐かしさと、それ以上の「バツの悪さ」……そして、犯してしまった過ちへの怯えで歪んでいる。


高貴なエルフの女性——フィリアの母であるシルフィアは、娘の姿を認めた瞬間、その冷徹な瞳をわずかに揺らした。一歩、また一歩と娘に歩み寄る足取り。その瞳には、一瞬だけ、母親としての激しい情愛が浮かび上がり、目尻が熱く潤んだように見えた。


「……よく……よくぞ、無事で……」


その掠れた声には、行方もわからず、生死さえ定かではなかった愛娘を案じ続けてきた、張り裂けそうな苦悩が詰まっていた。 だが、彼女はすぐに周囲の視線を思い出したかのように、ハッと表情を引き締めた。再び、里を統べる高潔な司祭としての、凛とした表情へと戻る。


「……フィリア。貴女の勝手な行いについては、後ほど正式に沙汰を下します。そして、その連れの方々も」


彼女は真司とミーシャを一度だけ、品定めするように見つめた。真司は、その視線の鋭さに思わず背筋を伸ばし、営業スマイルすら忘れて直立不動になる。


「この三人を、私の屋敷へ。……ここでは話せぬこともあります。皆、兵を引きなさい。この者たちの身柄は、私が預かります」


シルフィアはそう言い残すと、一度も振り返ることなく、優雅な所作で里の奥へと歩き出した。


「……。行きましょう、シンジ、ミーシャ……あれが、私の母です」


フィリアの沈んだ声に促され、真司たちはまだ納得のいかない様子でこちらを睨む守備隊の間を通り抜ける。 ようやく一難去った。だが、真司の胸の高鳴りはまだ収まらない。 あの美しすぎる母親の屋敷で、一体何が待ち受けているのか……。

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