第2章:第42話:繋がれた体温、夜明けの誓い
第2章:第42話:繋がれた体温、夜明けの誓い
焚き火の爆ぜる音が、フィリアの切実な告白の余韻を優しく包み込んでいく。 夜の冷気が岩棚を撫でる中、三人の間にあるのは、もう言葉による説明を必要としないほどの濃密な信頼だった。
「……里の掟なんて、私たちには関係ないわ。フィリアちゃんが守りたいものを、一緒に守るって決めたんだもの。……ね、シンジ?」
ミーシャが力強く、一点の曇りもない声で言い切った。その言葉に、真司は少し照れくさそうに視線を泳がせた後、焚き火を見つめたまま静かに口を開いた。
「ああ。……今さら、一人で行かせるなんて選択肢、俺の中にはないよ。俺たちはずっと二人で旅をしてきたけど、お前が加わってくれた今のこの空気が、俺は……すごく気に入ってるんだ」
一瞬、言葉を切り、真司は自分の手のひらを見つめた。 「……俺、元々あんまり人付き合いが得意な方じゃなくてさ。どこにいても、ずっと一人でいるのが当たり前だと思ってたんだ。だから、最初にミーシャに会って、一緒に旅をすることになって……。そこにさらにお前が加わって、こうして飯を食って背中を預けてるのが、なんていうか……人生で初めて『仲間』ってものができた実感が湧いてるんだよ」
34年間の孤独な記憶を「昔からの性格」として濁しながらも、その言葉には嘘偽りのない実感がこもっていた。 「レベルも10まで上がったし、エルフの守護者相手でも、必死に食い下がれば道は開けるはずだ。だから、その……。心配すんな。俺たちが、お前を一人になんてさせないから」
かつての彼なら、自分の安全だけを考えて逃げ出していただろう。けれど、ミーシャという最高の相棒に支えられ、フィリアという守るべき仲間を得たことで、彼の臆病な殻は、内側から熱く突き破られていた。
その不器用で、けれど魂がこもった温かい言葉に、フィリアの瞳が大きく揺れ、やがて溜め込んでいた感情が一筋の涙となって頬を伝い落ちた。
「……ありがとうございます。……本当に、ありがとうございます……っ」
やがて夜も更け、三人は寄り添うように横たわった。 真ん中にフィリアを挟み、両脇を固めるように真司とミーシャが陣取る。けれど、フィリアの眉間にはまだ、消し去れない不安の影が深く落ちていた。
暗闇の中でその微かな震えを察知したのは、常に周囲の気配を、そして何より仲間を大切に想ってきたミーシャだった。
(……まだ、震えてる。……怖いのは、当たり前よね……)
ミーシャはそっと毛布の中で、探るように手を伸ばした。そして、冷たくなって震えていたフィリアの小さな手を、自分の両手で包み込むようにギュッと握りしめる。
「……大丈夫よ、フィリアちゃん。……私たちが、ずっとそばにいるんだから。……ね?」
耳元で羽毛のように優しく囁かれたその言葉。フィリアの強張っていた身体が、雪解けのようにふっと解けていった。
「……はい、ミーシャさん。……おやすみなさい……」
繋がれた手の温もりを道標にするように、フィリアは深い、安らかな眠りへと落ちていった。
それを見届けてから、ミーシャもまた、反対側に感じる真司の静かな寝息を……自分を「最初に会った相棒」として特別に扱い、今の時間を「気に入っている」と言ってくれた男の背中の広さを感じながら、静かに、そして満たされた気持ちで目を閉じた。




