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第2章:第41話:峠の向こう、黄金の檻

第2章:第41話:峠の向こう、黄金の檻


二つ目の山の麓。夜明けと共に、三人はさらに険しさを増した山道へと足を踏み入れた。 一つ目の山が「土と泥」の試練だったなら、この二つ目の山は切り立った「岩と断崖」の試練だ。道と呼べるものはとうに消え、三人は指先を岩の隙間にかけ、一歩ずつ慎重に高度を上げていく。


「……ッ、この辺りの岩は脆いな。足元に気をつけろ!」


先頭を行く真司が、崩落しそうな箇所を避けながら後続の二人に鋭く注意を促す。盗賊レベル10に達した彼の身体能力は目覚ましく、重いバックパックを背負っているとは思えないほど軽やかな身のこなしで斜面を攻略していった。


その道中、彼らの行く手を阻むように「ロックガーゴイル」の群れが空から急降下してきた。


「来たわね……! フィリアちゃん、左の一匹をお願い!」


ミーシャが叫ぶと同時に、鞭が空を裂く。レベル13となった彼女の攻撃は、商人の計算高さを反映したかのように、ガーゴイルの翼の関節を的確に捉え、その飛行能力を奪った。


「はい! ……精霊さん、その翼を繋ぎ止めて! 『氷結の矢』!」


フィリアが放った魔力の矢が、落下しかけたガーゴイルに直撃する。青白い氷が石の身体を覆い、地面に激突する衝撃で魔物は砕け散った。 連戦の疲れは見られたが、今の三人の連携に迷いはない。数回の激しい戦闘を潜り抜け、彼らはついに八合目付近、峠の全貌が見える岩棚へと辿り端り着いた。


夜が訪れ、三人はミーシャが作った「薬草サラダ」を口に運んでいた。道中で摘んだ生の薬草をサッと湯掻き、ミーシャが荷物から取り出したハチミツのドレッシングをかけたものだ。薬草特有の爽やかな苦味とハチミツの濃厚な甘みが、疲れた身体に染み渡る。


その独特な味わいを噛み締めながら、フィリアがぽつり、ぽつりと語り始めた。その視線は、明日越えるべき峠の先、まだ見ぬ闇の向こうを見つめている。


「……あの嶺を越えれば、私の里……『常盤ときわの森』が見えてきます。……でも、近づくのが少し、怖いんです」


彼女は膝を抱え、自分の細い肩を抱くように身を縮めた。


「里には、何千年も変わらない厳格な掟があります。外の種族とは関わらず、ただ静かに朽ちていくのを待つ……。私は、それが嫌だった。……空の色も、風の匂いも、毎日同じなのが耐えられなかったんです。私にとって、そこは美しすぎる『黄金の檻』でした」


真司とミーシャは、木製のフォークを動かす手を止めず、彼女の静かな独白を受け止める。薬草の苦味が、まるで彼女の抱える葛藤の味のように感じられた。焚き火の爆ぜる音が、彼女の告白の合間に静かに響く。


「だから外に飛び出した。……里を捨てた私が、今さら『目覚めの笛』を貸してほしいなんて言っても、きっと司祭様は許してくれない。……でも、私のせいで村の人たちが眠らされたままなのは、もっと嫌なんです」


フィリアの瞳に、焚き火の炎とは違う、強い意志の光が宿る。


「明日、山を越えたら……そこはもう、エルフの領域です。人間であるお二人が入れば、里の守護者たちに狙われるかもしれません。……それでも、一緒に行ってくれますか……?」


フィリアの問いかけに、真司は最後の一口を飲み込み、静かに短剣を鞘に収めた。ミーシャはハチミツのついた指先を拭い、優しくフィリアの手を握る。その沈黙は、拒絶ではなく、彼女と共に未知の領域へ踏み込むという無言の誓いだった。

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