第2章:第40話:二つ目の嶺、静寂の誓い
第2章:第40話:二つ目の嶺、静寂の誓い
二つ目の山の麓。夜の帳が下り、パチパチと爆ぜる焚き火の音が、静まり返った森の奥深くに吸い込まれていく。 三人は、一つずつ上がったレベルの重みをその身で噛み締めながら、干し肉とスープの質素な夕食を終えたところだった。見上げる夜空には、下界よりも近く、鋭い光を放つ星々が散りばめられている。
「……身体の芯が、昨日までより熱い気がする。盗賊として、周囲の気配を探る感覚がより鋭くなった。風の音と、何かが動く音……その違いが、考えなくても勝手に頭に入ってくるんだ」
真司が、暗闇の奥を見据えながら低く呟いた。 【真司:盗賊Lv.10】 大台に乗ったその力は、単なる筋力の向上だけではない。無意識に短剣の柄に置かれたその指先は、闇に潜む危険に対して、獲物を待つ獣のような鋭敏な反応を示していた。
「不思議ね、私も同じだわ。商人の勘というか、荷物の重心を逃がすコツや、岩場での疲れにくい歩き方が、理屈じゃなくて身体が勝手に理解している感じがするの。Lv.13になって、ようやくこの過酷な道中を楽しむ余裕が、一欠片だけ出てきたみたい」
ミーシャが柔らかな微笑みを浮かべ、焚き火の熱で温まった自分の足を軽く揉みほぐす。彼女の明るい声は、冷え込む夜の空気を物理的に和らげる灯火のように三人の間を照らした。
「私は……まだまだ、お二人には及びません。でも、Lv.8になってから、不思議な感覚があるんです。弓を引くときの呼吸が、森のざわめきや木々の揺れと、ふっと重なる瞬間があって……。そうすると、矢が吸い込まれる場所が、放つ前からわかるような気がするんです」
フィリアが細い拳を握り、決意に満ちた瞳で二人を交互に見つめる。 里を出たばかりの頃、泥に汚れ、獣の咆哮に震えていた少女の面影は、そこにはもうなかった。火に照らされたその横顔には、自分の足で立ち、自分の意志で運命を切り拓こうとする「冒険者」の凛とした気概が宿っている。
「……明日、この二つ目の嶺を越えるときは、もっと皆さんの力になれるはずです。いえ、なってみせます……!」
フィリアの力強い宣言に、真司はわずかに口角を上げ、ミーシャは優しく彼女の頭を撫でた。 明日、この峻険な二つ目の山を越えれば、いよいよ目指すべき目的地がその姿を現すだろう。
三人は、それぞれの成長を言葉以上に肌で感じ取っていた。 かつては「保護者」と「保護対象」だった関係が、今は互いの背中を預け、命を共有する「仲間」へと作り替えられていく。夜の静寂の中、パチリと爆ぜた火の粉が夜空へ昇っていくのを、三人はいつまでも静かに見守り続けていた。




