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第1章:第3話:星空の下のスカウト

第1章:第3話:星空の下のスカウト


ガタつき一つない、滑らかな走り。 馬車が夜の街道を静かに進むたび、御者台に座るミーシャは何度も驚きの声を上げていた。 街の喧騒が遠ざかり、リーベルの明かりが地平線の向こうに消える頃。俺たちは街道沿いの開けた草原で、夜を越すための野営の準備を始めた。


パチパチと、焚き火の爆ぜる音が静まり返った夜のとばりに響く。 ミーシャが差し出してくれた、木のお椀に入った温かいスープ。それは干し肉と地元の野菜を煮込んだだけの簡素なものだったが、空腹の身体にはどんな高級料理よりも滋味深く染み渡った。


「……改めて、私はミーシャ。この辺りの村々を回って商売をしてる、流れの商人よ。さっきは、本当に助かったわ。お兄さん……名前、なんていうの?」


火影ほかげに照らされた彼女の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜く。


「シンジだ。……名字は、こっちじゃ名乗るほどのもんじゃない」


「シンジ……ちょっと変わった響きだけど、響きが強くていい名前ね。……ねぇ、シンジ。あんたのあの手つき、ただの旅人じゃないでしょ? どこかの国のお抱え技師か、それとも腕利きの手細工職人だったとか?」


俺は自嘲気味に笑って、首を振った。 「まさか。……ただの、しがない会社員……いや、何でも屋みたいなもんだったよ」


嘘ではない。 かつての世界で、上司に詰められ、後輩に突き上げられ、自分を殺して必死に「こなして」きた日々の残骸。 けれど、そんな虚しい毎日の中で、唯一自分を救ってくれた模型作りの指先が、今この異世界で熱を持って宿っている。


ミーシャは焚き火の光をその大きな瞳に反射させながら、俺の顔をじっと覗き込んできた。


「ねぇ、シンジ。もし行く先が決まってないなら……私と一緒に来ない?」


「えっ……?」


予期せぬ誘いに、スープを啜る手が止まる。


「あんたのあの腕があれば、馬車の修理はもちろん、もっと色んなことができるはずよ。私は商売のノウハウを持ってる。あんたは『造る』力を持ってる。これって、最高の組み合わせだと思わない?」


彼女はそう言って、少し照れくさそうに、でもこれ以上ないほど真剣な眼差しで、俺に右手を差し出してきた。


「私一人じゃ、行ける場所に限界があるの。でも、あんたがいれば……もっと遠くの、大きな街まで行ける気がするんだ。……どうかな、私の『相棒』になってくれない?」


焚き火に照らされたミーシャの笑顔は、昼間の小生意気な少女のものよりずっと大人びて、そして眩しく見えた。 34年間、誰かに「必要だ」と、こんなに真っ直ぐに、濁りなく言われたことがあっただろうか。 会社での俺は、いつだって「誰か」の代わりでしかなかったのに。


「……ああ。俺で良ければ、よろしく頼むよ、ミーシャ」


俺はその小さな、でも驚くほど力強い温もりを持った手を、しっかりと握り返した。 見上げれば、この異世界の夜空には、元の世界では決して見ることのできなかった無数の星々が、俺たちの新しい旅出を祝福するように瞬いていた。



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