第2章:第35話:震える弦(いと)、初めての戦場
第2章:第35話:震える弦、初めての戦場
村の境界を越え、道なき道を進む三人の足取りは、西の山脈が近づくにつれ慎重なものになっていった。
「……はぁ、はぁっ……。山登りって、こんなに……体力が要るものなのね……」
新調した皮の防具の重さに、フィリアが額の汗を拭う。里でのんびりと暮らしていた彼女にとって、道なき荒野を歩くこと自体が大きな挑戦だった。
「フィリアちゃん、大丈夫? 少し休みましょうか」
ミーシャが気遣うが、その時。前方、うっそうと茂る草むらが激しく揺れた。
「ギギャギャッ!」
飛び出してきたのは、鋭い鉤爪を持つ三匹の「ハイエナウルフ」。獲物を見つけた飢えた瞳が、最後尾のフィリアに狙いを定める。
「敵だ! フィリア、弓を構えろ!」
シンジが瞬時に抜刀し、先頭のウルフの突進を受け止める。 フィリアは慌てて背中の弓を手に取った。けれど、いざ獣を目の前にすると指先が小刻みに震え、矢をつがえる手が思うように動かない。
(えっと……まず重心を下げて、魔力を指先に……。でも、どの魔法を先に? 補助魔法? それとも直接……っ!?)
頭の中には知識が溢れているのに、目の前の獣の咆哮がそれを真っ白に塗りつぶしていく。
「……あ、……あわわ……っ」
「フィリア! 落ち着いて、一匹に集中して!」
ミーシャの鞭が空を裂き、フィリアに飛びかかろうとした一匹を弾き飛ばす。その凛とした声に、フィリアはハッと我に返った。
「……っ、……はい! ……お願い、火の精霊さん、当たって! 『火炎の矢』!」
放たれた一本の矢が、不器用ながらも魔力の軌跡を描き、ウルフの足元で弾ける。直撃は免れたものの、炎に驚いた獣が怯んだ隙を逃さず、シンジの刃がその首を狩り取った。
「……はぁ、……はぁ……。……ごめんなさい、私……」
「気にするな。最初はそんなもんだ。……次はもっと、早く動けるようになる」
シンジがぶっきらぼうに、けれど彼女の勇気を認めるように呟く。フィリアはまだ震える手で弓を握りしめ、自分に言い聞かせるように力強く頷いた。




