第2章:第33話:罪を越えて、再会の空へ
第2章:第33話:罪を越えて、再会の空へ
「……顔を上げて、フィリア」
馬車の車軸を弄っていた手を止め、シンジが焚き火の薪をくべ直しながら、静かに、けれど力強く言った。
「フィリアの好奇心がなきゃ、俺たちは出会うこともなかった。……何もしないで何百年も生きるより、一歩踏み出したフィリアの勇気を、俺は否定したくない」
「そうよ、フィリアちゃん!」
ミーシャがフィリアの両手を、包み込むようにギュッと握りしめる。
「確かに、悲しいことが起きてしまったかもしれない。底なしの絶望に見えたかもしれない。でも、それを終わらせる力も、今こうして目の前にある。……私たちがついてるわ。一緒に里へ行って、みんなを目覚めさせましょう!」
「……シンジ、ミーシャ……っ……」
フィリアの瞳から、今度は悲しみではなく、決意の涙が溢れ出した。自分が壊してしまったものを、自分の手で取り戻す。それが、彼女が見つけた「退屈ではない、本当の生きる意味」だった。
「……はい! 私、逃げません。里に戻って、司祭様に怒られても……どんな罰を受けても、必ず『目覚めの笛』を手に入れてみせます。……案内させてください、私の、故郷へ!」
それから、しばらくの時間が流れた。 夜は更け、泣き疲れたのか、フィリアは馬車の荷台に敷かれた毛布に包まれ、静かな寝息を立てている。
焚き火の傍らには、シンジとミーシャが二人だけで座り、パチパチとはぜる炎を眺めながら明日の打ち合わせを始めていた。
「……これから向かう西の連峰だけど、道は相当険しいわ。私も商人としてあちこち回ったけれど、エルフの里がある方面は街道さえ通っていない未知の領域。噂に聞く通り、近づくことさえ難しい場所よ」
ミーシャが地図を広げながら、眉をひそめて言う。シンジは焚き火の熱で温まった手を擦り合わせながら頷いた。
「ああ。街道がないんじゃ、これ以上馬車を進めるのは無理だ。馬車はこのままムサカ村に置いていく。神父様に、馬の世話をお願いしておいた」
シンジは、広場の隅に停めた愛車を振り返った。
「……さっき荷台の側面をいじって、あのおおきづちを工具として引っ掛けておけるようにしたんだ。ここに戻ってきた時、すぐに馬車の本格的な整備ができるようにな」
シンジが指差した馬車の側面には、特製のフックに重厚な槌がしっかりと収まっていた。自分たちが山を越え、戻ってくるその時まで、村で静かに馬車を守る守護神のようにも見えた。
「ふふ、流石ねシンジ。戻った後のことまで考えてるなんて。備えに抜かりはないわ」
「……フィリアを連れて、俺たち二人でどこまで行けるか。……いや、行かなきゃな。あいつの覚悟に応えるためにも」
二人の低い話し声が、夜の静寂に溶けていく。 明日から始まる未知の旅路。険しい山脈を前に、二人はそれぞれの想いを胸に、静かに闘志を燃やしていた。




