第2章:第25話:紅蓮の舞、そして静寂の刃
第2章:第25話:紅蓮の舞、そして静かなる刃
真司の姿は、すでに闇の中に溶けていた。 一週間、魔物との実戦で磨き上げた『隠密』のスキルは、今やジェネラル・ゴブリンの感覚さえ欺く。
「……死なないでよ。シンジ」
ミーシャは、自分のすぐそばに感じる彼の気配に向かって、そっと呟いた。その想いに応えるように、神父から授かった『聖なる加護』が二人の周囲で淡く、白光を放つ。洞窟を満たすおぞましい眠りの歌声は、その光の膜に触れた瞬間、パチンと音を立てて霧散していった。
「ああ、約束だ。……いくぞ!」
影の中から、真司の低い、けれど確信に満ちた声が届く。 それが合図だった。ミーシャは岩陰から広場の中心へと、迷いなく躍り出た。
「――そこどきなさい! この……下品な合唱団ども!」
ミーシャが『棘の鞭』を天高く振り上げる。レベル11に達し、格段に増大した彼女の身体能力が、新武器の性能を極限まで引き出した。
「『スウィープ・ブレイズ』!!」
一閃。鞭が黒い閃光となって空気を引き裂き、巨大な円を描く。周囲の雑魚ゴブリンたちの喉元を正確に薙ぎ払うと、歌に酔いしれていた群れは断末魔と共にパニックに陥った。
「グギャッ!?」「ギギィ!!」
「こっちよ、醜い緑の顔した子たち! 私がもっと熱い『歌』を聞かせてあげるわ!」
次々と襲いかかるゴブリンを、ミーシャは軽やかなステップで躱しながら、鞭をまるで生き物のように操り、一箇所にまとめ上げていく。その凛々しくも苛烈な戦いぶりは、まさに戦場の女神……!
「――今よ、シンジ!!」
その叫びが洞窟に響き渡る。 混乱する群れの背後、ようやく異変に気づいたジェネラル・ゴブリンが重い剣を振り上げようとしたその瞬間、その背後の影が、音もなく立ち上がった。
「……遅いな、大将。……『バックスタブ・ヴェノム』!!」
脳内のシミュレーションを完全に現実にトレースした、真司の最速の一突き。毒を纏わせた漆黒のナイフが、ジェネラルの鎧の隙間――延髄へと深々と突き立てられた。
ジェネラルは断末魔すら上げられず、その巨体を大地に沈める。 守護者を失い、歌声が一瞬乱れた「人喰い植物」が、怒り狂ったように巨大な蔦を振り回し始めた。
「シンジ、合わせるわよ! 私たちが、ムサカ村の夜明けを呼ぶんだから!」
「ああ……これで、おしまいだッ!!」




