第2章:第23話:深淵の贈り物と、研ぎ澄まされる刃
第2章:第23話:深淵の贈り物と、研ぎ澄まされる刃
森の最深部へと続く、歪な大樹の根が絡み合う広場。そこには、古びた鉄の装飾が施された一つの宝箱が、まるでおびき寄せるように置かれていた。
「……待て、ミーシャ。罠がないか調べる」
レベル8になった真司の指先が、宝箱の隙間を慎重になぞる。微かな魔力の糸を、今の彼は鋭くなった感覚で見逃さない。
「――よし、解除完了だ」
カチリ、と静かな音がして蓋が開く。中から現れたのは、鋭い棘が幾重にも埋め込まれた、鈍く黒光りするしなやかな**『棘の鞭』**だった。
「……これ、私に? いいの、真司」
「ああ。ミーシャは多勢を相手にすることが多い。この鞭なら、一度の旋回で複数の魔物を牽制できるはずだ」
真司はその黒くしなる鞭を見つめながら、無意識に想像を飛ばしていた。 露出の激しいボンテージ姿に身を包み、この鞭を手に持って妖艶に微笑むミーシャ。「さあ、お仕置きしてあげる♡」……なんて言われながら、自分を跪かせる彼女の姿を――。
「……っ。……に、似合ってるよ、ミーシャ」
真司は喉の渇きを覚えるほどに顔を赤くし、意味深にその鞭を手渡した。
「?……いいわね。これなら、あなたに近寄らせる前に私が一掃できるわ!」
最初は不思議そうに受け取ったミーシャだったが、その手馴染みの良さに目を輝かせ、嬉しそうに試し打ちを始める。シュッ、と鋭い風切り音を立てて鞭がしなる。 真司は、少し照れくさそうに鼻の下をこすりながら、喜んで鞭を振るうミーシャの姿をじっと見つめていた。その視線は、戦技としての鋭さを確認すると同時に、彼女のしなやかな体の動きや、さっきの不謹慎な妄想をどうしても重ねてしまっている。隠しきれない下心が、わずかにその瞳に滲んでいた。
「……さて。……行くか、ミーシャ」
「ええ!」
二人は、最深部の「主」の気配が漂う大きな洞穴を前に、最後のおさらいを始めた。そこへ、森の番人である凶暴な大猿の群れが牙を剥いて飛び出してきた。
「シンジ、正面の三体は私が止めるわ! ――『スウィープ・ラッシュ』!」
しなる鞭が円を描き、三体の魔物の足を同時に切り裂く。動きが鈍ったその隙を、真司が見逃すはずもなかった。
「助かる! ――『シャドウ・ストライク』!」
真司は気配を消し、敵の背後から急所を貫く。ミーシャが複数の敵を翻弄し、真司が確実に仕留める。一週間、死線を共に潜り抜けてきた二人の連携は、さらに精度を増し、確かな手応えとなって二人の自信に変わっていった。
「……完璧ね。真司、呼吸も乱れてないわ」
「ああ。……ミーシャ、その鞭。……さっきの戦い方、すごく格好良かったぞ」
「……っ、もう。そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。……さあ、いきましょう。この先に、あの『歌声』の主がいるわ」




