第2章:第21話:祈りの砦と、試練の森
第2章:第21話:祈りの砦と、試練の森
教会の厚い扉が閉まると、外の不気味な静寂が嘘のように遠のき、微かな聖なる気配が二人を包み込んだ。
「……ここは、結界が生きています。あの忌まわしき歌声も、ここまでは届かぬ……」
神父は、祭壇の脇に大切に並べられた備蓄のパンと干し肉を指し示した。 真司たちが村に入った時、耳に届くのは虚しく回る風車の音だけだった。だが、それがいつ、あの抗いがたい死の安らぎへと変わるのかは誰にも分からない。
「……神父さん、わかった。俺たちが、あの歌声の主を叩き潰してくる。次にあの歌が響く前に、必ず」
真司はミーシャと視線を交わし、力強く頷き合った。 再び重い扉を開け、一歩外へ踏み出そうとした、その時だった。
「待ってください! お二人さん!」
神父が慌てた様子で駆け寄ってくると、震える手をそれぞれの肩に置いた。
「……まともな加護も受けぬまま、あの森へ行かせるわけにはいきません。私の祈りがどこまで通じるか分かりませんが……多少は、効果があるかと……」
神父が掠れた声で聖句を唱え始めると、柔らかな光が真司とミーシャの身体をふわりと包み込んだ。
「これは……身体が、少し軽いな」 「ええ、神父様、ありがとう。心強いわ」
神父の「祝福」を背に、二人はいつ「歌」が降り注ぐか分からない、異様な沈黙を湛えた村を抜け、北に広がる『まどろみの森』へと向かった。
だが、森へ一歩足を踏み入れた途端、これまでの街道とは格の違う圧力が二人を襲った。
「シンジ、上よ!」
ミーシャの鋭い警告が飛ぶ。 直後、樹上から猛毒を持つ巨大な蜘蛛が、糸を引きながら真司の頭上へと襲いかかった。
「――っ!」
真司は反射的に地面を転がり、間一髪でその牙をかわす。すかさずミーシャが鋭い踏み込みから棍を突き出し、蜘蛛の脚を叩き折って真司を援護した。
「助かった! ……こいつら、数も力も今までとは段違いだ……っ!」
レベル5の真司ですら、一歩間違えれば命を落としかねない激戦。二人は辛うじて蜘蛛を退けたが、肩で息をしながら顔を見合わせた。
「……シンジ、このまま奥へ進むのは自殺行為よ。今の私たちじゃ、あの歌を止める前に食い殺されるわ」
「ああ、悔しいが……ミーシャの言う通りだ。一旦、教会へ引こう」
それから、二人の「決死の修行」が始まった。 昼は森の入り口付近で、命を削るような戦闘を繰り返して経験値を稼ぐ。 夜は教会の結界の中で、いつ聞こえ出すか分からない歌声の恐怖に背を向け、ボロボロになった体を休める。
「真司、背中の傷……染みるわよ。動かないで」 「……ああ。……ごめんな、ミーシャ。俺がもっと強ければ……」 「馬鹿ね。二人で強くなるのよ。……明日は、今日よりもっと先まで行けるわ」
聖なる結界の守りの中、ミーシャが薬草を塗る手の温もり。 二人は互いの傷を癒やし、絆を深めながら、着実にその牙を研ぎ澄ませていく。 眠れる村を救うため。そして、二人で生きて帰るために。




