第2章:第18話:北へ、消えた村の足跡を追って
第2章:第18話:北へ、消えた村の足跡を追って
「……わかったわ。その依頼、引き受けましょう。……でも、命懸けの仕事になるかもしれない。無事に戻ってきたら、約束の報酬はきっちりいただくわよ?」
ミーシャが青年の震える手を取り、商談成立の固い握手を交わすと、真司は感心したように、けれどどこか頼もしさを感じながら肩をすくめた。 「……流石だな、ミーシャ。話が早い」
「当然よ。タダで危ない橋は渡らないわ。……でも、真司。北へ行く道は、ここより魔物が一段階強くなるわよ? 自分の身は自分で守る。……いい? レベルアップには絶好のチャンスなんだから、気を引き締めてね!」
「ああ。……望むところだ。俺たちが、その『ムサカ村』の正体を暴いてやるよ」
二人はすぐに宿を立ち、出発の準備を整え始めた。 馬車の車輪に油を差し、予備の薬草と保存食を隙間なく詰め込む。
今朝、食堂で不機嫌そうにスープをかき混ぜていた時は、その髪をそのまま肩に流していたミーシャだったが、出発を前にそれを高い位置で一つに結い上げ、快活なポニーテールに整えていた。うなじを露わにして「仕事の顔」になった彼女の仕草に、真司は思わず目を奪われる。
真司は、昨日手に入れたばかりの「盗賊の短刀」を布で丁寧に拭い、その冷たい感触を掌に馴染ませながら北の空を見上げた。そこには、青年の言葉を裏付けるような、重苦しい灰色の雲が低く垂れ込めている。
「……よし、出発だ!」
真司の合図に、ポニーテールを揺らしたミーシャが力強く手綱を握る。 ガラガラと乾いた音を立てて動き出した馬車は、数日を過ごした村の門をくぐり抜け、未知の険しさを秘めた北の山道へと足を踏み入れた。
街道を進むにつれ、周囲の空気は肌を刺すような冷たさを帯びていく。 時折、深い茂みの奥から聞こえる鋭い獣の鳴き声。レベル3になった真司の感覚は、これまで以上に「殺気」の揺らぎを鮮明に捉えるようになっていた。
「……ミーシャ、くるぞ。……左だ!」
真司が鋭く叫ぶと同時に、枯れ草を蹴散らして、巨大な牙を持つ狼が影のように飛び出してきた。
「――まかせたわよ、真司!」
ミーシャの激励が背中を叩く。
真司は馬車の荷台からしなやかに大地へと飛び降りた。
34年間の平穏な生活では決してあり得なかった、軽やかな身のこなし。冷たい風を切り裂き、自らの生存を懸けて、真司は不気味な沈黙に包まれた「ムサカ村」へと繋がる一歩を、力強く踏み出した。




