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第5章:第113話:再編の誓い、バルディアへの逆行

第5章:第113話:再編の誓い、バルディアへの逆行


…あの、バルディアの惨劇から二日が経過した。


地方都市カルディアは、北の要『グランレガリア』から到着した大規模な増援部隊によって街が活気付いていた。


広場を埋め尽くしていた避難民たちは、街の教会や空き家へと順次誘導され、代わりに街の通りを埋めたのは、磨き上げられた鎧の擦れる音と、規律正しい軍靴の轟音だった。



シンジたち四人は、その喧騒から少し離れた路地で、預かっていた荷物の引き渡しを終えたところだった。


避難民の中から探し出した商人は、家族の無事に涙しながら、シンジの手を何度も握った。


「……これで、仕事は完了ね」


ミーシャが手帳を閉じ、冷淡な、けれどどこか安堵した表情で呟く。


道中で使いってしまった薬草や道具など、そして自分たちの指に嵌まった三つの『祈りの指輪』。

それらの代金は、ミーシャが商人としての冷徹な計算……あるいは、それ以上の『何か』を込めて、全額を立て替えて支払いを済ませていた。


四人は、荷馬車の車輪を点検し、カルディアを去る準備を整えていた。

その時、大通りを埋め尽くす青い外套の集団が、一人の男に統率されていくのが見えた。


「……ガルド隊長だ」


シンジが声を漏らす。 ガルドは、ボロボロだった外套を新調し、グランレガリアから来た精鋭たちを厳格な面持ちで閲兵していた。



「よお、出発か」


シンジたちの姿に気づいたガルドが、軍列を離れて歩み寄ってくる。


「増援が来てくれたよ。これでこの街の防衛線は盤石だ。……お前さんたち、街を出る準備をしていたのか」


ガルドの問いに、ミーシャが短く頷く。


「ええ。戦火に巻き込まれるのは、商売人の本意じゃないわ。……少し休ませてもらったし、私たちは次の街へ向かうわよ」


「……そうか。それがいい。早くこの街を出た方がいい」


ガルドは、どこか遠くを見つめるようにそう言った。その声には、深い慈しみと、隠しきれない覚悟が混じっていた。


「……ガルド隊長は、これから防衛線に?」


シンジが、その青い背中に問いかける。


ガルドは足を止め、周囲に聞こえないよう、低い、掠れた声でシンジの耳元に囁いた。


「……俺は、選りすぐりの精鋭三十名を率いて、バルディアへ向かう。……あの黒い騎士の正体と、魔物の本拠地を叩くための、挺身攻撃レイドだ」



「……っ、そんなの、死にに行くようなものじゃ……!」


シンジが息を呑む。


ガルドは何も答えず、ただ優しく、今生の別れを告げるかのような穏やかな微笑みを浮かべた。そして、シンジの肩を強く、温かく叩いた。


「……達者でな。いい旅を」


ガルドが翻した青い外套が、風に鳴る。 背中を向けて歩き出すその姿は、あまりにも孤独で、そして死の色に染まっていた。


シンジは立ち尽くした。


脳裏に浮かぶのは、雨の中で自分たちを逃がすために盾となったガルドの姿。 そして、あの黒い盾に跳ね返された、自分たちの無力な攻撃。


(……あんなの、放っておけるわけないだろッ!!)


シンジはガバッと振り向き、馬車の上に座るミーシャを見上げた。


何も言わず、ただ、悲痛な、けれど燃え上がるような意志を込めた瞳で、彼女を訴えるように見つめる。



ミーシャは、深い溜息を吐いた。 肩をすくめ、やれやれと言わんばかりの表情で、ガルドの背中に向かって声を張り上げた。


「……ちょっと、隊長さん! 待ちなさいよッ!!」


ガルドが怪訝そうに振り返る。 ミーシャは馬車から飛び降りると、シンジの隣に立ち、腰に手を当てて言い放った。


「……その部隊に、私たちも入れてくれないかしら?」


「……正気か、商人。戦火に巻き込まれたくないと言ったのは、どこのどいつだ」


ガルドが呆れたように問い返す。


「ええ、正気よ。……でも、そこの不器用な盗賊が、あんな捨てられた仔犬みたいな目で私を見てくるのよ。……それに…私も色々と気になるしね。……フィリア、セシリア、いい?」


「……はい! 世界を見る旅ですから。あの黒い騎士の正体、私もこの目で見届けたいです!」


フィリアが、新しく嵌まった指輪を握りしめ、無邪気な、けれど揺るぎない覚悟で微笑む。


「……私も、お供します。ガルド隊長、皆さんの傷は、私が癒やしますから……っ!」


セシリアもまた、泥に汚れた聖杖を強く握り直した。


ガルドは、呆然と四人を見つめた後、こみ上げてくる笑いを堪えきれないように、天を仰いだ。


「……はははッ! 全く、とんだお節介な連中だ……ッ!!」



ガルドは再び、シンジの肩を今度は戦友として叩いた。


「……いいだろう! 死にたがりの馬鹿どもが揃ったわけだ。……バルディアへの道は地獄だぞ。付いてこれるか?」


「……望むところだッ!!」 シンジが力強く応える。


カルディアの門を潜り、逆行を始める一団。 その最後尾には、一人の少年と、三人の少女が、再びあの絶望の戦場へとその舳先を向けていた。

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