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第5章:第110話:黒鉄の騎士、豪雨の蹂躙

第5章:第110話:黒鉄の騎士、豪雨の蹂躙


幾度目かの挟撃を終えた時、四人の肩は激しく上下していた。


「……っ、ハァ、ハァ……。切りが、ないわ……」


ミーシャが泥に塗れた手綱を握り直し、吐息を漏らす。


ガルド隊長率いる兵士たちも、度重なる激戦にその身を削られ、剣を握る指先は冷たい雨と疲労で白く強張っていた。


夜闇から降りしきる雨は容赦なく体温を奪い、視界を遮り、石畳を滑りやすい泥濘へと変えていく。



その時だった。 追撃してくる魔物たちの群れが、畏怖を込めたように左右へ割れた。


重い足音が、一歩、また一歩と、雨音を圧して近づいてくる。


現れたのは、闇よりも深い『黒』を纏った巨躯だった。


漆黒の鎧、光を一切反射しない黒い大盾。

そして、その手に握られた禍々しい黒の長剣。


その『魔物』は、これまでの獣とは一線を画していた。冷徹な響きを帯びた人語が、雨の夜に溶け出す。



「……なんだ? 貴様らは」


その一言に、シンジの背筋に氷の柱が突き刺さる。


「……全員、最大警戒だッ!! くるぞッ!!」


シンジの叫びと同時に、三人は残った魔力を爆発させた。


「『ウイングブロウ』ッ!!」


シンジの放つ烈風の刃が、黒い鎧を切り裂こうと突き進む。


「『ホークアイ』……貫けッ!!」


フィリアが放つ、精霊の光を纏った鋭い矢が、鎧の継ぎ目を正確に狙い撃つ。



だが――。



ガギィィィンッ!!


鈍い衝撃音と共に、すべての攻撃が虚空へと霧散した。 黒い魔物が掲げた盾が、物理的な衝撃も、精霊の矢も、すべてを飲み込むように弾き返したのだ。


「無意味だ」


黒い騎士が地を蹴る。雨を切り裂き、一瞬でガルド隊長の目前へと迫る。


「……っ、させるかッ!!」


ガルドが槍を突き出すが、黒い長剣が一閃。鋼の槍は飴細工のように容易く両断され、ガルドの身体が泥濘へと吹き飛ばされた。


「隊長ッ!!」


兵士たちが悲鳴を上げる中、セシリアが叫ぶ。


「い、いけません……っ! 『回復魔法(小)』!!」


震える手で杖を掲げ、倒れたガルドに微かな癒やしの光を届けるセシリア。だが、黒い騎士の冷酷な視線が、今度は彼女へと向けられた。


「……っ、セシリアから離れろッ!!」


シンジが横から肉薄する。短剣を逆手に、鎧の隙間へ渾身の刺突を繰り出す。

だが、黒い騎士は一歩も引かず、盾の縁でシンジの腕を強引に弾き飛ばした。


「……っ、重い……! 鉄の塊と戦ってるみたいだ!」


シンジの腕に痺れが走る。 雨脚はさらに激しさを増し、冷たい水滴が目に入り、感覚を狂わせていく。


四人と兵士たちは、この圧倒的な『黒い壁』を前に、自分たちの攻撃が一切届かないという絶望的な現実に直面していた。


黒い騎士は、再び立ち上がろうとするガルドを見下ろし、ゆっくりと剣を掲げる。 雨に濡れた黒い兜の奥で、赤い瞳が冷酷に光った――。

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