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第5章:第109話:祈りの指輪、隘路の咆哮

第5章:第109話:祈りの指輪、隘路の咆哮


燃えるバルディアを背に、北西へと続く険しい山道には、絶望を背負った数千の『命の列』が連なっていた。


「……歩みを止めるな。夜明けまでに、少しでもカルディアへ近づくのだ」


列の最前方では、ガルド隊長から命を受けた二十五名の正規軍兵士が、松明を掲げて夜道を先導していた。


その後ろを、家を失い、着の身着の身で逃げ惑う街の人々が、すすり泣きを押し殺しながら続く。


「落ち着いてください。私たちが周囲を固めています」


列の左右や最後尾には、街にいた冒険者たちが配置され、暗闇からいつ飛び出すとも知れない魔物の気配に、抜き放った剣を握りしめていた。



そして、その巨大な避難行列の最後尾――。


そこには、最悪の追撃を食い止めるための『しんがり』として、ガルド隊長率いる残りの兵士二十五名、そしてシンジたち四人の姿があった。



「……これをお使いください。少しは、戦いの助けになるはずです」


ミーシャは、老商人から託されていた荷台の木箱を次々と開け、中から薬草や保存食を取り出しては、疲れ果てた兵士や冒険者たちに手際よく分け与えていった。


「……すまない、商人。貴殿の配慮に感謝する」


ガルド隊長が、重みのある声で応える。


「品物を届ける相手が死んでしまっては、商売になりません。今は、一人でも多く生かして目的地へ辿り着かせることが、私の最優先事項ですからね」



さらに、ミーシャは木箱の奥から、数個の古びた指輪を取り出した。

これは、今回の依頼で運搬を頼まれていた貴重な荷の一部だった。


「……『祈りの指輪』です。これで、魔力を補ってください」


彼女は、魔力を使い果たし、煤に汚れたフィリアとセシリア、そしてガルド隊長にその指輪を差し出した。


「……っ、これは。温かな力が、体に……」


フィリアが指輪を嵌めると、その銀色の瞳に再び精霊の光が宿る。セシリアもまた、回復した魔力の波動に、震えていた肩の力をそっと抜いた。



「……恩に着る。……総員、配置に付け! 避難民の盾となるのだッ!」


ガルドが指輪を嵌めた拳を突き出し、背後の兵士たちに厳格な号令を下す。




山道の両脇が切り立った岩壁となり、道幅が極端に狭まる隘路あいろ。 そこが、四人と二十五人の兵士たちが選んだ、迎撃の地だった。


「……来ました。無数の足音が聞こえます」


フィリアの鋭い耳が、闇の向こうから迫る咆哮を捉えた。


「行くぞ……! 上手く誘い込むぞ…」


シンジの叫びと共に、四人は闇の中へと飛び出した。


「『ウイングブロウ』ッ!!」


「『精密射撃』……抜きます!」



魔力を取り戻した四人の全力攻撃が、追撃の先頭集団を派手に吹き飛ばす。


「グルゥァァァッ……!?」


不意の強烈な一撃に、魔物たちが一瞬たじろぐ。


「……っ、引くわよ! 走りなさいッ!!」


ミーシャの鋭い指示で、四人は一斉に背を向け、狭い道の中へと疾走した。


魔物たちは、知能のない獣の性として、逃げる獲物を逃がすまいと我先に岩場の隙間へとなだれ込む。


激しい爪音と荒い吐息が、夜の山道に不気味に響き渡る。


だが、そこは死の入り口だった。



「――放てッ!! 左右、挟撃せよッ!!」


ガルド隊長の鋭い咆哮が、断崖の陰から響き渡る。


四人が駆け抜けた直後、岩壁の窪みに身を潜めていた二十五名の兵士たちが一斉に姿を現し、長い槍を突き出し、頭上からは巨大な岩を突き落とした。


「一体も通すな! ここを死守せよッ!!」


逃げ場のない狭い道の中で、魔物たちは正規軍の整然とした槍の列と、逃げ場のない包囲網に閉じ込められた。 言葉を持たぬ魔物の絶叫だけが、冷たい夜風に乗って消えていった――。

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