第5章:第103話:中央領の門、地方都市セントリア
第5章:第103話:中央領の門、地方都市セントリア
昨日までの重苦しい空気が嘘のように、朝の光を浴びた中央領の荒野を、ミーシャの馬車が軽快に駆けていた。
ガタゴトと、石混じりの地面を叩くミーシャの馬車。その揺れに身を任せながらも、四人の神経はかつてないほど鋭く研ぎ澄まされている。
「……右、上空! 鱗粉を撒く気みたいです…!」
フィリアの鋭い声が飛ぶ。
「任せろ……『ウイングブロウ』!」
シンジの放った風の追撃が、空飛ぶ魔物の体勢を崩す。
間髪入れず、フィリアの放った矢がその眉間を正確に射抜いた。
「よしっ、連携成功だ!」
シンジが拳を握る。
昨夜の泥臭い反省会で語り合った戦術が、面白いほどに形を成していく。
戦闘が終わるたび、地面に散らばるゴールドを拾い上げる四人の顔には、連戦の疲労を上回る『確信』が滲んでいた。
その時、一際高く、透明な調べが荒野に響き渡る。
レベルアップのファンファーレ。それは、この過酷な中央領が、四人の成長を認めた証でもあった。
「……ひゃ、ぅ……っ! シンジさん、見てください……!」
聖なる光に包まれたセシリアが、弾むような喜びとともに、その豊かな胸元を激しく揺らして駆け寄ってくる。
「私……ついに、僧侶として一人前の証、『回復魔法(中)』を覚えました……! それに、魔法封じの魔法も……っ!」
興奮で丸メガネを曇らせ、上気した顔で自分を見つめる彼女の躍動感に、シンジは「お、おう、すごいな」と生返事を返すのが精一杯だった。
その視線は、法衣を押し上げんばかりに揺れる双丘の弾力に、抗いようもなく吸い寄せられてしまう。
「私も……『ホークアイ』と『索敵』を」
フィリアも、愛用の弓を抱きしめ、銀髪を風に靡かせながら静かに微笑む。
「これで、もう見えない敵に怯える必要はありません。私が、皆様の『目』になります」
昼食の時間は、短くも充実していた。
セシリアが手際よく用意した簡易なスープを啜りながら、ミーシャが膝の上に地図を広げる。
「……夕方には、次の街が見えてくるはずよ。中央領の南の玄関口、地方都市セントリアは、交通の要の都市よ…さあ後一踏ん張り…頑張りましょう!」
午後からの旅路は、まさに『洗礼』だった。
四人の成長を試すかのように襲い来る、魔物の混成部隊。
「っ、MPが……底を突きかけてる……!」
シンジが額の汗を拭う。レベルアップしたとはいえ、繰り返される高密度の戦闘は、四人の精神と魔力を確実に削り取っていた。
肩で息をし、足取りが重くなり始めたその時、地平線の向こうに『それ』が現れた。
「……あれが、セントリア……」
夕日に照らされ、オレンジ色に燃え上がる石壁。
南部の村々を囲む粗末な柵とは比較にならない、圧倒的な威圧感。
「中央領の街は、どこもこうして壁に守られているの」
ミーシャが御者台から、険しい表情で街を見つめる。
門に近づくにつれ、空気の密度が変わった。
沢山の商隊の馬車や、各地から集まった冒険者たちの喧騒。
関所を兼ねた門の前では、重装の門兵たちが鋭い眼光を光らせ、身分証や許可証を厳格に確認している。
「……次」
「…はいこれ、商人ギルドの許可証よ」
ミーシャが慣れた手つきで羊皮紙を差し出す。
兵士の視線が、馬車の中のシンジたちを舐めるように通り過ぎた。
「――よし、通れ。ようこそ、セントリアへ」
重厚な石の門が、地響きを立てて開かれる。
一歩足を踏み入れた瞬間、四人の全身を貫いたのは、街の『活気』だった。
石畳を叩く無数の足音。多種多様な種族の叫び声。軒を連ねる屋台から漂う、スパイスの効いた肉の焼ける匂い…
サカデウスとは比べものにならない、確かな『密度』を持った情報の奔流。
「……すごい。ここが、中央領への入り口……」
シンジは、隣で呆然と立ち尽くす仲間たちの横顔を見た。
地方都市セントリア…そこは、南部と中央を繋ぐ『交通の要』として、この地方特有の、ぎゅっと凝縮された熱気が渦巻いていた。




