第5章:第101話:中央領の洗礼
第5章:第101話:中央領の洗礼
長い長い石橋を渡りきった先…
レガリア王国中央領。
新天地へと踏み出した四人を待ち受けていたのは、南部のそれとは明らかに質の異なる『殺気』だった…
「……っ、来るぞ! 全員、構えろッ!」
シンジの叫びと同時に、街道の左右から魔物の群れが躍り出る。
正面からは、南部でも見かけたような、岩のような筋肉を持つ巨漢の魔物が咆哮を上げて突進してくる。
だが、違ったのはその『搦め手』だった。
「……っ、何だこれ、身体が……重い……!?」
突進を捌こうとしたシンジの足が、不自然にもつれる。
巨漢の影に隠れるようにして、翅を震わせる小さな魔物が、目に見えないほど微細な鱗粉を撒き散らしていたのだ。
理解が追いつくより早く、重い拳の風圧がシンジを襲う。
「シンジ! ……っ!? か、身体が……動かない……っ!」
援護に入ろうとしたミーシャが、悲鳴に近い声を上げた。
パワー系の魔物の一撃を剣で受け止めた瞬間、刀身を伝って青白い電光が彼女を駆け抜けた。
ただの力押しではない。一撃一撃に『痺れ』の魔力が込められていた…
「……くそっ、こいつら、連携してやがるのか……!」
さらに、目の前で振り下ろされたはずの巨腕が、空を斬る…
「……いない!? 」
何もないはずの空間から飛んできた衝撃に、シンジは横に撥ね飛ばされた。
幻影を操る個体が、戦場の感覚を狂わせているのだ。
「セシリア、風だ! この滞っている空気も、幻影も、全部かき乱してくれ!」
シンジの必死の指示に、セシリアが慌てて、けれど力強く杖を握り直す。
「……は、はいっ……わかりました!」
彼女が放つ風魔法が、猛烈な突風となって街道を吹き抜けた。
不自然な鱗粉が霧散し、陽炎のような幻影が歪みを見せる。
視界が開けた一瞬。シンジは泥臭く地面を蹴り、まずは『搦め手』を弄する小さな影へと拳を叩き込んだ。
一匹ずつ、着実に。
未知の妨害に翻弄され、痛みを浴び、その正体を暴きながら。 四人は中央領の魔物たちを、一歩も引かずに退けていった。
「……はぁ、はぁ……。もう、嫌になるわね。南部とは、まるで別世界じゃない……」
剣を納めたミーシャが、膝をついて激しく肩を揺らす。 物理的なダメージ以上に、未知の脅威に適応し続けた神経の磨耗が、四人の顔に色濃く滲んでいた。
「……今日はここまでね…まだ日は高いけど、早めに夜営にしようか…」
ミーシャの提案に、全員が深く頷いた。
街道から少し外れた、視界の開けた高台の隅。 馬車を停め、四人は無言のまま、中央領での初めての夜を迎える準備を始めるのだった。




