表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/125

第5章:第100話:勇者の遺しし地平

第5章:第100話:勇者の遺しし地平



 ――むかし、むかし。  


この せかいは、おわりなき はるの ひだまりの なかに ありました。  


そらは どこまでも すきとおり、だいちには はなが さきみだれ、  ひとびとは かなしみの なまえさえ わすれて、わらいあっていたのです。



 けれど、あるひ。  


わらいごえを かきけして、おそろしい おたけびが ひびきわたりました。


 きたの はて、こおりつく やみの ふちから、『まおう』が あらわれたのです。  


まおうが つれてきたのは、はがねの からだをもつ、まものの ぐんぜいでした。

 かれらは いきるもの すべてを なぎたおし、あたたかな いえを やきはらい、  せかいを たちまち、まっくらな やみに しずめてしまいました。



 ひとびとは ぼうぜんと たちつくし、かみさまに いのりました。  


「どうか、わたしたちを おすくいください」と。



 すると、どうでしょう。  

おもく たれこめた くもを さいて、ひとすじの まばゆい ひかりが ふりそそぎました。  


ひかりの なかから しずかに あらわれたのは、ひとりの せいねんでした。  


ひとびとは、その せなかに かみさまの おくりものを みて、ふるえる こえで さけびました。  


「ゆうしゃさまだ! ゆうしゃさまが、わたしたちの もとに きてくださった!」



 ゆうしゃさまは、えらばれた、さんにんの なかまたちを つれ、  はてなき たびじへと ふみだしました。  


たくさんの たたかいと、たくさんの わかれを のりこえて、  かれらは ついに、やみを はらい、ひかりを とりもどしたのです。  


わたしたちが いま、こうして あたらしい あさを むかえられるのは、  あの ひ、ゆうしゃさまが いのちを かけて たたかってくれたからなのです。


めでたし、めでたし…



「…………」



そこは、お母様の膝の上ではない。


陽光を反射して輝く、長い長い石橋の上。

規則正しく響く蹄の音と、車輪が軋む音。そして、吹き抜ける自由な風の匂い。



馬車の荷台、心地よい揺れに身を任せながら、一冊の絵本を胸に抱いたフィリアが、ふぅと小さく吐息をもらした。


小さい頃、眠りにつくまで何度も、何度も読み聞かされていた絵本。

お母様の優しい声、その指先がなぞった挿絵、ページを捲るたびに漂う微かな紙の匂い。


そのすべてが、フィリアにとっては「家族」そのものだった。



けれど、フィリアは何気なく、擦り切れた最終ページの隅に目をやった。

そこには、今まで気づかなかったほど薄く、だが確かな筆致で一筋の文字が躍っていた。



『ありがとう……私の勇者さま……』


古代エルフ語で記されたその流麗な文字。


「……この字……お母さん……?」


フィリアは震える指先でその文字をなぞり、

それから、エルフの里を出る際にお母さんから託された一通の手紙を取り出した。


まだ封を切られていないその手紙を、フィリアは大切に、伝説の結末が記されたそのページへと挟み込む。


パタン、と。



思い出と、これからの運命が重なる柔らかな音がした




「ほら、みんな! 川を渡り終わるわよ!」


御者台から、ミーシャの快活な声が響いた。



「ここから先はレガリア王国の中央領よ。 気を引き締めていくわよ、お兄さん!」


「ああ……。新しい場所か。どんな出会いがあるかな」


シンジが前を見据え、隣でミーシャが力強く手綱を振るう。


荷台ではセシリアが、新たな土地への期待に豊満な胸を揺らし、フィリアは母の温もりを感じるように、大切に絵本を胸に抱き寄せた。


石橋を越え、馬車は新たなる運命が渦巻く地平へと、力強く踏み出していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ