幕間:第99.3話:リオーナの酒場の再会と、職人ギルドの『銀髪の悪魔』
幕間:第99.3話:リオーナの酒場の再会と、職人ギルドの『銀髪の悪魔』
「あら? シルフィアじゃない……何年振りかしら。二十年……いや、もうちょっとか……」
倒れたガストンが従業員たちにズルズルと引きずられて奥へ消えた直後。
カウンターの奥から現れたのは、五十代とは思えないほど活発で、威勢の良い女主人――レオーナだった。
「レオーナじゃない! あんた……すっかり『おばさん』になってるわね!」
シルフィアは屈託のない笑顔で、毒を含んだ再会の挨拶を放つ。
普通なら一触即発の言葉。だが、レオーナはガハハと豪快に笑い飛ばした。
「あんたが変わらなさすぎなのよ! さあ、座りなさい。最高の料理を並べてあげるわ!」
次々と運ばれてくる、人間界の芳醇な恵み。
新鮮な野菜のサラダ、香辛料の効いた熱々のスープ、そして脂の乗った魚のグリル。 里の精進料理とは対極にある、刺激的な味と匂い。
「……乾杯!」
シルフィアとリリアーヌがエールを煽る。
喉を鳴らして黄金の液体を流し込む母の姿に、リリアーヌはやはり呆れていた。
(本当、何なのこの人……。里での『完璧な聖母』はどこへ行ったわけ?)
一頻り食べ終え、飲み終わり、リリアーヌは帰り支度を促す。
「さあ、もう満足でしょ。里に帰るわよ、お母さん」
だが、シルフィアの口元が、ニヤリと吊り上がった。
「……本当に? リリちゃん。本当にいいの?」
その直後だった。店員が恭しく運んできたのは、高く盛り付けられた生クリームと、これでもかとあしらわれた真っ赤なイチゴのパフェ。
「……っ!?」
リリアーヌの目が、瞬時にハート型へと変わる。溢れそうなヨダレを堪え、その巨大なスウィーツに目が釘付けになった。
「分かってるわよね? リリちゃん」
「……ごくり。……こく、こくっ!」
母の悪魔的な囁きに、抗えるはずもなかった。
「さあ、召し上がれ☆」
リリアーヌは我を忘れてパフェを頬張る。人間界の、罪深いほどの甘露。
……だが、その代償はすぐにやってきた。
酒場を後にし、首都マルシェリアの喧騒に飲み込まれる二人。
人波と巨大な石造りの建物に圧倒されながら、リリアーヌは必死に母の背中を追う。
辿り着いたのは、巨大な鉄の匂いが立ち込める『職人ギルド』だった…
「……っ、あれ。銀髪の悪魔じゃねえか?」
「おい、何しに来やがった……。誰か武装してこい!」
通り過ぎるドワーフたちが、血の気を引かせて小声で囁き合う。
(ひえぇ……お母さん、昔ここで一体何したのよ……!)
震えるリリアーヌを連れ、シルフィアは迷わず二階の『職人ギルド事務所』へと突き進む。
勢いよく扉が開かれた。
「ごめんくださーい☆」
そこには――。
白髭を蓄えた老ドワーフのギルド長が、若い女ドワーフを膝に乗せ、鼻の下を伸ばしてイチャついているという、あまりにも堕落した光景が広がっていた。
「……あら。お楽しみのところ、悪かったかしら?」
シルフィアの冷徹な声が、ピンク色の空気を一瞬で凍りつかせたのだった…




