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第4章:第97話:サカデウスの祝宴と秘めたる野望

第4章:第97話:サカデウスの祝宴と秘めたる野望


サカデウスの街にある大型酒場『黄金の麦穂亭』は、かつてないほどの熱気に包まれていた。


「さあ、英雄たちに乾杯だッ!」


ギルドマスターの豪快な掛け声と共に、無数のジョッキが打ち鳴らされる。泡の飛沫が宙を舞い、香ばしい肉の焼ける匂いと、人々の歓喜の声が渦を巻いていた。


「ありがとう、シンジ! おかげで明日から商売を再開できるよ!」


「物流が止まって死活問題だったんだ。本当に助かった!」


街の有力者や商人たちが次々と訪れる中、周囲の客たちからもひそひそとした、しかし興奮した声が漏れ聞こえてくる。


「……おい、誰が倒したんだ? ほら、あの一行だよ。あの派手な赤い皮の鎧を着た……」


「なんだ? あのメガネの女の子……あんな子供がパーティに居るのか? にしても、あの胸……。聖職者だっていうのに、目のやり場に困るぜ」


「おい、あの子……エルフじゃないのか? 本物を見るのは初めてだ……」


好奇と羨望が入り混じった視線。シンジは照れくさそうに頭を掻きながら、差し出されたエールを煽った。



隣では、ミーシャが上機慣で街の冒険者たちと酒を酌み交わしている。

フィリアは凛とした佇まいで挨拶を受け流し、そして聖女セシリアは――。


「……ひゃぅっ!? あ、あの、ごめんなさい……っ」


自分を称える人だかりと、向けられる露骨な視線に気圧され、フィリアの細い背中に隠れるようにして身を縮めている。真っ赤な顔で、手にした薄めの酒をちびちびと口にするその姿は、まるで嵐に怯える小動物のようだった。



「ぷはぁ……。旨いな、ここのエールは」


シンジは喉を鳴らしてジョッキを空にした。だが、その時。ふと動かした右手が、ズボンのポケットの中に突っ込まれた『異物』の感触を捉えた。


(……ああ、そういえば。これ、どうすりゃいいんだ……)


指先に触れる、滑らかで、驚くほど面積の少ない布の感触。 シンジの脳裏に、数時間前、馬車の前で宝箱を開けた時の光景が、鮮明な映像となって蘇った…





あの時、シンジは『あぶない水着』を掲げながら、三人の仲間をじっと見回し、邪悪で甘美なシミュレーションを走らせていたのだ…


まずは、ミーシャ。


(……いや、やばいな。あいつにこれを渡した瞬間、鞭で顔を引っ叩かれるか、冷めた目で見捨てられるのがオチだ。命がいくつあっても足りねえ……)


次に、フィリア。


(……エルフの気高さにこれは、なんか違うな。神聖な森の守護者に、こんな布を纏わせるのは冒涜に近い気がする……)


そして、最後。視線がセシリアで止まった。


(…………っ!!) 豊かな胸元、柔らかな曲線を描く腰回り。もし、あの極限まで削ぎ落とされた布地が、彼女の肢体を包んだら。想像しただけで、シンジの鼻腔の奥が熱く疼き、鼻血が噴き出しそうになった。



「……あ、あの、セシリア! はい、これっ!」


耐えきれず、半ば自棄っぱちで水着を突き出したシンジだったが。


「シンジ。……ちょっと待ちなさい」


横から伸びてきたミーシャの手が、シンジの腕をガシッと掴んだ。


「……あんた、これ、セシリアに着せたいんでしょうけど。……物理的に無理があるって気づかない?」


「……えっ?」


「僧侶は装備できないし、そもそもこれ、水着っていうかただの紐じゃない。……それに」


ミーシャは呆れたように溜息をつき、セシリアの豊かな胸元を指差した。


「……そんな布きれ一枚で、セシリアのそれが隠れると思ってるの? 装備不適合以前に、はみ出すわよ。……確実にね!」



「……は、はみ……っ、きゃぁぁぁぁぁッ!!」


ミーシャの言葉を聞いた瞬間、セシリアの顔が限界突破の赤色に染まった。


「そ、そんな、はみ出すなんて……っ! ど、どんな、そんな、えっちな、あ、あぶない……っ。シ、シンジさん、私の、ここを、そんな……っ」


セシリアは顔を両手で覆い、指の隙間から、シンジが持つ『水着』を凝視し始めた。そして、何やら妄想を全開にさせているのか、


「……あぅ、でも、もし、本当に……ブツブツブツ……」


と、震える吐息と共に何事かを呟きながら、魂がどこかへ飛んでいってしまったかのように悶え始めたのだった。






「……シンジさん? どこか、お加減が悪いのですか?」


現実の酒場で、フィリアの声がシンジを現世へと引き戻した。


「……あ、いや。なんでもない。ちょっと考え事してただけだ」


シンジは苦笑いしながら、ポケットの中の『あぶない水着』を、人知れずギュッと握りしめた。 物理的な壁、職業の壁。


「……ふっ。いつか、叶うかな……」


シンジは、心なしか遠い目をしながら、少しだけ哀愁の漂う背中で、注ぎ足されたエールを一気に飲み干した。

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