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第4章:第94話:不屈の連撃と雷鳴の麻痺

第4章:第94話:不屈の連撃と雷鳴の麻痺



「……やった、仕留めたわッ!」


小鳥の首が宙を舞い、広間に鮮血が飛び散った瞬間、ミーシャが歓喜の声を上げた。


シンジも、フィリアも、そしてセシリアも。あまりにも長く、あまりにも理不尽だった『死の包囲網』を打ち破ったという達成感に、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、全身の筋肉を弛緩させてしまった。


だが、戦場においてその一瞬は、永遠に等しい死への招待状だった。



「――グル、オォォォォォアアアアッ!!」



小鳥という『頭脳』を失い、さらに己の視界を共有していた『目玉』を潰された赤いトロルが、その野生の防衛本能を爆発させた。


咆哮と共に、岩の塊のような巨体が、信じられない瞬発力で地を蹴る。


その標的となったのは、最も近くにいたミーシャだった。



「ミーシャ、危な――」


シンジの警告は、間に合わなかった。


トロルが全力を込めて振り下ろした、巨大な木の棍棒。

それは回避不能の質量兵器となって、ミーシャの胴体を正面から捉えた。



ドコォォォォォーンッ!!



最深部の広間に、肉と木が衝突する凄まじい轟音が響き渡る。


「があっ……!?」


ミーシャの体が、まるで紙屑のように吹き飛ばされた。


彼女は数メートルもの距離を浮き、そのまま石造りの壁面へと激突する。

鈍い音を立てて崩れ落ちる彼女の体。ピクリとも動かず、ただ瓦礫の中に埋もれていくその姿に、シンジの心臓が凍りついた。


「ミーシャッさん!!」


セシリアが悲鳴を上げながら、なりふり構わず駆け出した。彼女は杖を掲げ、残るMPのすべてを振り絞る。



「お願い、目を開けて! 聖なる癒やしを……回復魔法っ!!」


淡い光の粒子が、血に染まったミーシャの体を包み込む。


だが、傷は深く、意識は戻らない。セシリアは震える手で何度も呪文を唱え、彼女の命をこの世に繋ぎ止めようと必死に縋った。



「グルアアッ!!」


標的を次なる脅威へと移すトロル。

その赤く血走った瞳が、弓を構えるフィリアを捉えた。


トロルは巨体を揺らし、地響きを立てて突進を開始する。


しかし、フィリアの瞳に揺らぎはなかった。

彼女はエルフの血がもたらす極限の集中力で、一歩も引かずに至近距離で矢を番え、低く、冷徹な声で呟いた。



「……そこよ。ミラーイメージ」


トロルが棍棒を叩きつけた瞬間、フィリアの姿が鏡のように割れ、霧散した。


幻影魔法――


実体を伴わない三人のフィリアが、トロルの周囲を囲むようにして立ち現れる。

混乱し、虚空を殴りつけるトロル。理性を失った怪物にとって、実体と幻影の区別をつける知能はもはや残されていなかった。


その隙を、シンジが逃すはずはなかった。 彼は自らの影に潜むように、音もなくトロルの死角へと回り込んでいた。


逆手に握った影縫いの短剣。その刃に、彼は持てるすべての魔力を注ぎ込み、スキルを起動させる。


「……逃がさねえ。しびれアタックッ!!」


シンジが跳躍した。雷光のような火花が短剣の先で爆ぜ、麻痺の毒を帯びた魔力が刃を青白く染め上げる。


シンジはトロルの分厚い首筋、神経が集中する一点を目がけ、渾身の力でその刃を突き立てた。 ズぶり、という重い感触。


「ガ、ハッ……!?」


トロルの巨体が、一瞬にして硬直した。


フィリアの幻影による視覚の混乱、そしてシンジの短剣から流し込まれた強力な麻痺の効果。

二つの状態異常が重なり、赤いトロルはガタガタと全身を痙攣させ、その場に縫い付けられたように動きを止めた。



「……ま、だ……終わって、ないわよ……っ!」


その時、瓦礫の中から、かすれた、しかし力強い声が響いた。

セシリアの回復魔法により、致命傷から辛うじて生還したミーシャが、血を吐きながらもむくりと起き上がったのだ。彼女の瞳には、かつてないほどの激しい闘志の炎が宿っている。



「あんたに……借りを返さなきゃ、死ねないのよッ!」


ミーシャが立ち上がり、拳を固める。

それを合図に、四人の視線が交差した。



「全員、全火力を叩き込めッ! ここで決めるぞ!」


シンジの号令が飛ぶ。 麻痺で自由を奪われたトロルに対し、慈悲なき連撃が開始された。


シンジの短剣が、腱を切り裂くような鋭い斬撃を刻み込む…

ミーシャの拳が、骨を砕くような重い衝撃を腹部にめり込ませる…

フィリアの矢が、急所を的確に穿ち、その巨体を串刺しにしていく…

セシリアの風魔法が、鎌となって死に体の皮膚を削ぎ落とす…


一方的な、しかし執念に満ちた四人の全力攻撃。


理不尽な死の砦を、自らの手で切り開いてきた者たちの怒りと絆が、赤いトロルの圧倒的な質量を、一刻一刻と削り取っていった。

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