第6話 アイドルはアイドルが好きである
夕食時の事件
「あ、マーさんテレビ出てる」
「マジっすか! マナさん見せて見せて見せてください、祐馬様!!」
夕飯時、工藤家の食卓には仕事のマナと舞華を除く10人が揃っていた。彗月は胡座をかき、胡座の上には神風が座っていた。
「マーちゃんってテレビで見るとザ・アイドル感ある」
「それな。姉さんもザ・アイドルだけどマーさんもザ、アイドルだよな」
「でも、舞ねぇはこの作り置きの量見ると母親みの方が強く感じちゃう」
「それは分かる。10人分の作り置き、仕事前に作っておいたの、凄いよな、姉さん」
「いや、本当に」
「やっぱり、マナさんに限るっすね、アイドルは」
「うわっ、会話無視系強火同担拒否ファンじゃん。急に口挟むなよ」
祐馬は左隣の彗月の胡座の上で唐揚げに手を伸ばそうとしている神風のお皿に唐揚げを置きながら、テレビを齧りつく勢いでガン見している彗月に引いた。双子の妹である未来の発言でテレビに反応する姿も気持ち悪かった。が、成人男性がアイドルの歌っているテレビ画面をガン見している姿も彼にとっては非常に気持ち悪かった。祐馬にとっては間違いなく、彗月はアイドル「マナ」の強火同担拒否オタクであった。
ファンと比較的に良い表現に言い換えたのは彼の慈悲であった。
「つよび。はづき、マナ、もやすのか」
「そういう意味じゃないよー、神風くん。ってか、ちょっとはーくんから離れとこっか。醜くなるし」
「そうしてくれ、未来」
「はいはーい、分かりました、パパさん」
未来は双子の兄の発言とそれに反応した彗月の様子を見て、唐揚げを手掴みで食べようとしていた神風を彗月の胡座の上から回収した。戸籍上パパの明仁からのご要望もあったので緊急回収した。そして、颯の胡座の上に神風を置いた。唐揚げも一緒に移動した。颯は非常に嫌そうな顔をしたが、何も言わず、そのまま、箸を進めた。神風は唐揚げを一つ手掴みで食べ終えると颯の服で手をふきふきした。
結佳と弓弦は2人揃ってスマホで神風のお散歩動画を観ながら、食事をしている。そのため、会話に関わる気は一切ない。
未来は姉である「舞華」にRootを送った。「アイドル論争おもろ」という内容で送れば、テレビ局で放送予定の番組の取材を受けていた舞華は即既読したのは言うまでもない。彼女からの返答は「ウケる」「今マネに注意されたから後で全部教えて」だった。
「うるさいっす、祐馬くん。俺、強火でも同担拒否でもないっすから。マナさんの普通のファンっすから」
「ただのファンは推しの隣に立つためにアイドルにならないし、他のアイドルをアイドル扱いちゃんとするでしょ」
「推しのためにアイドルになるアイドルがいたっていいっすよね。おかしくはないっすよね。それに俺、ちゃんと他のアイドル達もアイドル扱いしてるっすよ」
彗月は本人が目の前にいると強火同担拒否ファンの面影が全て隠され、スンッとなるのでマナ当人にその本性はバレていなかったりする。
「どこがだ」
「どこも」
「そういう返答望んでねぇよ」
「……彗月がマナに憧れてアイドルになった事実は変わらないだろ。そんな彗月がアイドルといったら、マナの名前を出すのは当然だ」
明仁はテーブルを挟んだ反対側で言い合いを繰り広げる2人に溜息をつきながら、ツッコミを入れた。舞華がせっかく、作り置いたおかずと炊かれた10合のご飯が冷めることの方が明仁にとっては一大事であった。
第一に明仁は彗月がアイドルになった理由を明仁が工藤家に来た際に聞いていた。ストーカー以上に危険度高そうな欲求を持ち、その目的を果たすためならば、手段を問わない彗月からしっかりと、アイドルになったわけを聞いていた。
自分がファンとして憧れたアイドル「マナ」に近付くためにアイドルになったのだという動機を。
そして、マナが工藤家に転がり込んで来た理由もこの家主は実は知っている。お似合いだろ、この2人、とマナが工藤家に転がり込んで来た際に思ったとか思ってないとか。
「う、まあ、そうですけど、でも、この人、はーさん、贔屓目エグいんですよ!」
「どんなふうに?」
「この前、姉さんの迎えに行ったら、この人、他の女性アイドルに向かって「やっぱり女優さんって綺麗なんすね!」って言ってたんですよ!!」
「うわ、エグ。流石にアイドルに向かって女優はないよ、彗さん」
「美月ちゃんっ、これ、言い間違えただけだから!」
「私も彗月くんのそれ、別の現場で見たことあるな」
「遙っち、黙って!!」
明仁の気持ちを余所に祐馬は行儀悪く、箸の先を彗月に向けながら顔は明仁を見た。そして、訴えた。祐馬が訴えた内容が如何にエグいことだったのかはお察しの通りである。
「彗月、流石に人としてどうかと思う行動は控えること」
そして、流石に彗月は明仁によってご丁寧に注意を受けた。
23歳が受ける注意の内容ではない。
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
祐馬勝訴、彗月敗訴。
「ま、でも、そんなにファンに愛されてるアイドルってのも良いよね。自分に憧れて自分を追ってきてくれる人がいるっていいなぁ」
「美月さん、そういう人いないんですか」
「私のファン、遙ちゃんのところとは違って厄介オタクしかいないから。ほら、いつもイベント後、イベント会場で殺人事件起こってるし」
「ああ、確かに」
「そこ、納得するな」
「やっかい?」
「ごめん、訂正。私大好きな人達しかいないから」
祐馬と彗月の言い合いに決着が付いたところで、少し離れた席で美月、遙によってまた一波乱起こりそうだった。だが、運良く、胡座の上に幼児を乗せながら本日5つ目の唐揚げに手を付けていた颯によってそれは阻止された。
美月のファン=厄介オタク=殺人鬼もいるなんて、誰も察せられないのである意味、一安心である。
「なあ、はづき、はやて」
「んー、何すか、神風くん」
「何だ、神風」
「はづきはマナのこと、あいしてるんだよな」
「んん、まあ、そう、っすね」
「このまえ、マナ、はづきのこと、だいすきっていってた」
「「は?」」
「あいしてるとだいすきっておなじいみ?」
運悪く、言葉の意味を全然理解できていない、アイドル志望幼児によって落とされた特大地雷はその場にいた9人の人間には無事に聞かれた。
実は両片想いとか口が裂けても言えません。
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