第4話 引きこもりと学校のアイドルは同盟を組んでいる
工藤家の同盟
「そういえば、結佳と弓弦、成績はどうなってる。結佳は1週間前に中間テストだとか言ってたよな。弓弦もこの前、模試があったとか言ってたよな。結果、出てるだろ。見せろ」
「何のことでしょーか」
「そんなこと言ったっけ」
大手芸能事務所社長兼シスコン「山宮春人」の工藤家訪問より1時間後。明仁は遙のシェアホーム延長のために春人との話し合いを自室で行っていた。春人は明仁がまさか、自分が憧れていた天才子役「くとうあきと」の引退後の姿だとは思ってもいないので、普通にシスコン兄として、妹のシェアホーム先の家主との対話に挑んでいた。
その一方で遙は洗濯干しを再開していた。今度は彗月と洗濯を行っていた。本来ならば、彗月は子守なので神風の側にいるわけだったが、洗濯干し協力者の颯が気を失ったので代わりに子守の彗月が遙の手伝いをすることとなった。
神風はずっとビッショビショな洗濯物を叩いていたが、数分前に飽きたらしく、現在は目を覚ました颯の前で仰向けになり、天井を見つめている。何か天井にいるのか、と言われるくらいにただ天井を凝視している。
「持ってこい。成績によっちゃ、配信延期と塾利用させるぞ」
「「はい」」
「はやて」
「あ?」
「べんきょうってむずかしい?」
「できる奴にとっちゃあんまり難しくないだろな。できない奴にとっちゃ地獄だろうな」
「オレ、できる?」
「知らん」
遙に幼児用マクラで気絶させられ、ようやく目を覚ました颯は買い物帰りで台所に向かう途中だった、通称「ゆかりん」──本名、伊々結佳──と遙によって取り込まれた洗濯を畳んでいた、通称「ユズリ」──本名、「山本弓弦」──に声を掛けた。
1人は全日制の高校、1人は通信制の高校に通っているので、それは勿論、成績を気にしなくてはいけないのである。
「……古文43点、英語39点、化学49点、生物32点、世界史45点、地理25点」
「ユズリはいちときゅうじゅうばっかり」(1位と90点ばかりと言いたい幼児)
「……弓弦は配信延期なし。結佳は塾じゃダメだな、これは」
「え、塾行かなくていいんですか!!」
「塾行ってもダメだろ、これ。え、なんだこの点数。50点満点か? 学校のアイドルが取って許される点数か、これ」
数分後、颯の前には数枚の紙が広げられていた。一枚は全日制高校の中間テストの結果であり、もう一枚は全国規模の模試の結果であった。
「多分、許されないと思う。でも、許されてると思う」
「ゆかりんの学校のファンに言ったら許されないやつだよね、これ」
「シャラップ、弓弦。今の問題はこの点数をどうするかだ」
「はーい」
「塾はなし。行ってもこの点数と理解度じゃ、無理だ」
あまりにも絶望的な学校のアイドル「ゆかりん」のテスト結果。颯は頭を抱えるしかなかった。それしかできなかった。颯がシェアホーム「工藤家」に最初に転がり込んできてから約10年。100点満点のテストで50点満点みたいな点数をいくつも見たのはこれが初めてだった。
というより、弓弦と結佳がシェアホームに転がり込んできたのが1~2か月前のことなのでそれまでの2人の成績なんぞ、颯は気にしたことすらなかった。なぜなら、自分ができてしまうタイプの人間だったから。
「なら、ユズリがおしえたらいいんだ。ユズリはいちときゅうじゅうばっかり。これっていいやつでしょ」
そして、寝転がりながら弓弦の模試結果を見た神風がポツリ。
「……それが一番だな。あとは俺も時間があるとき、教えるから覚悟しとけよ、結佳」
「うげ、ユズちゃんだけなら良かった。でも、愛しの神風のアイデアなら言うとおりにします!」
「同士ってば現金。私もだけど」
「どうし?」
「今、その言葉を口にしたら追い出すぞ、弓弦」
「はい、申し訳ございませんでした」
結佳にとっては神風の一言は救いであった。街中で一目惚れをして、ストーカーの如く後ろをつけ、工藤家を特定した。そして、明仁に無理を言って、工藤家に転がり込んだ学校のアイドルにとっては神風の言葉はあまりにも救いであった。
この子、やっぱり私の運命の人でしょと誤認するくらいには。
「とにかく、まずは学業優先。次が芸能活動だ。いいな」
「はーい」
「へーい」
弓弦にとっては自身の推しからの提案なので、何の疑問もなかった。なぜなら、推しからの提案で「工藤神風お守りします同盟」の同士である結佳に勉強を教えるだけだから、である。
偶然、とあるNPO法人で引きこもっていた際にネットで流れてきた「幼児のヘニャヘニャボックスステップ動画」を見なければ、こんな出会いはなかったので弓弦にとっては推しからの提案は推すしかないのである。
「オレは?」
「お前はダンス練習の前に柔軟しろ柔軟」
ストーカー的許嫁も、推しに推されたい引きこもりも、家主の明仁と最大の障壁である颯によって許嫁/推しになることを隠すことを条件に神風との同居を認められているので、非常に毎日がスリリングなのである。
「……身体が硬いのにダンスするとヘニャヘニャになるの、何なんだよ、神風」
「へにゃ?」
「え、尊。かわよ」
「え、今、神風、めっちゃへにゃって言った? カメラで撮っておけば良かった……!!!」
「オレ、かわいい?」
「「かわいいーーー!!」」
「可愛くないって言えねぇよ、神風」
許嫁と推しは本人に内緒で同盟を組んでいる。
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