第3話 アイドル(妹)は芸能事務所社長(兄)から自立したい
マクラは凶器
「遙、最近、家事に慣れてきたな」
「それなら嬉しいな、颯くん」
「颯さんと遙っちってお似合いっすよね、神風くん」
「オレ。ふたりのキューピッドになる」
「キューピッドダンス、いいっすね! 俺と一緒に作るっすよ、神風くん!」
「うん、つくる。はづきと」
よく晴れた日中。
遙、颯は2人揃って12人分の洗濯物を干していた。そんな2人を彗月と神風は縁側で座りながら見ていた。神風は早々に飽きたらしく、彗月の太腿によじ登っていた。
平和な光景である。
「ってか、遙っちってどうしてここに来たんしたっけ。事務所入ってんなら、いいアパートとか事務所探してくれんじゃないっすか?」
ふっと彗月は気になったことを口にした。遙が工藤家に来た理由をふんわりとしか、彼は聞いていなかった。ある日、遙が急に増えたという感じだった。
「彗月くん、人には突っ込んじゃいけないことがあるんだよ」
「遙、カッコつけようとしてるところ悪いが、シスコンの兄から離れたい奴って分かって聞くと非常にカッコ悪い」
「だーまーれー!!」
バスタオルを干す颯に向かって飛ぶ神風専用マクラ。マクラは1週間に1度の洗濯のために遙の手許にあった。
飛ぶマクラ。マクラのサイズが幼児用でも投げる人物が運動能力の高いアイドルであれば、それは凶器となった。
「がっ!!」
遙によって投げられるマクラ。それは宙を真っ直ぐに飛んだ。そして、颯の顔面に激突した。
彗月はその光景を遠い目をしながら見た。神風は彗月の太腿の上に乗ることに成功した。ので、ガッツポーズを浮かべる。
「……遙、人殺しはいけない。流石に僕でも人殺しは庇えない」
「殺してないし!! マクラ投げただけだし!! って、いつの間に来たの! 兄さん!!」
「まくらってきょうきになるんだな、はづき」
「ねー、すごいっすね、神風くん」
そして、マクラが顔面に当たり、後ろ向きに倒れる颯。それを支える、いつの間にか来ていた遙の兄「山宮春人」。
「今」
春人は気を失っている颯をお姫様抱っこして、縁側に運ぶ。その姿はあまりにも完璧なお姫様抱っこであった。
「う〜〜ん、初めて2が兄妹なことを知った俺でも察せるほど、あまりにも兄妹なのが分かる会話」
「はるととはるか、きょうだいなんだな。にてるな」
彗月は遙と春人の会話には苦笑いを浮かべながら、その様子を眺めていた。遙より後にシェアホームに転がり込んで来た彗月は遙がシェアホームに入った経緯を把握していなかった。が、遙と春人の会話、そして、颯のシスコン発言で遙がシェアホームに入った理由を察した。
「ってか、帰る勧誘する兄属性はお帰りなってください、うざい、兄さん」
「口が悪い妹も一興。可愛い、遙」
「キモ」
遙は汚物を見るかのような視線を兄である春人に送る。兄の溺愛ぶりに妹は我慢の限界であった。暴言を吐いても、叩いてもびくともしないどころか、それを「可愛い」の一言で済ます兄から彼女は離れたかった。所属している芸能事務所がいくら、兄が社長をしている事務所であってもせめて住処くらいは離れたかった彼女は悩んだ末に工藤家に転がり込んだ。
「くちがわるいってかわいいのか、はづき」
「時と場合によるかなー。神風だと可愛くないかなー」
「なら、くちわるくしない」
「そうしてください」
自身の太腿の上で側にあった干される前のビッショビショな洗濯物を小さな手でペチペチと叩く神風の髪をぐしゃぐしゃにしながら、彗月は神風の言葉に即座に返答した。自分のズボンがびしょびしょになっている事実からは一旦、目を逸らした。
口が悪い幼児アイドルは良くない。それだけは彗月のなかで結論として導き出された。
「……兄妹喧嘩は室内でしてくれ」
「あきひと」
「あ、明仁さん」
そして、居室からそんな彼らを実はずっと見ていた明仁は春人に対して汚物を見るかのような視線を向ける遙と、自分のことを汚物を見るかのように見る遙に対してニコニコ笑顔を向ける春人に痺れを切らして声を掛けた。
「あ、そういや、颯さん、無事っすか?」
「颯くん、完全に気を失ってるね。任せるよ、彗月くん」
「あ、俺っすか。はい、分かりました。はい、はい」
「……なんか、他意を感じる視線を感じる」
「頭痛が痛いみたいな言葉遣い、頭悪そう」
「口喧嘩は自室でやれ!!」
「「はい」」
社長の妹は運動能力が良いだけで実は一般人だなんて誰もツッコまない。
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