72話 積み重ねて隠した色彩
宗鳳学院で開会式があり
バレーの全国大会が始まる
その開会式が行われる体育館に
全国から集まったチームが続々と入場して
実況を交えた各チームの説明が
スピーカーから流れている
開会式の後に1回戦が始まる為に
観客席は埋まっていた
また別の体育館でも1回戦は行われるので
そちらに集まっている観客には
大きなプロジェクターで
開会式を見れるようになっていた
開法学院は前回大会の覇者である証の
優勝旗を掲げて体育館に入場した
大きな歓声と拍手が巻き起こる中で
実況が説明を始める
〔去年の覇者である開法学院!
今年は開法小学の5連覇の立役者が揃い踏み!
危なげなく勝ち進み全国の舞台に
帰ってきました!
地区大会では出ていなかったものの
蠍ちゃんは出てくるのか?
名付け親の私としては心配で‥‥?
なになになに?蠍ちゃん!なんだソレは!〕
開法学院が整列して入場している中で
1番背の低い人族の頭に
蠍のぬいぐるみが置かれており
その上で小さな蛇が周りに頭を下げながら
気分良く動いている
〔なんしてのよ!蠍ちゃんは!
今年の開法学院は狙われる立場なのに!
まるで!かかってこい!お前ら!と
言わんばかりの余裕で入場だ!
あれ?あの蠍ちゃんのぬいぐるみって‥‥
私が欲しかったヤツじゃん!ソレッツ〕
〔失礼しました
開法学院の入場でした〕
笑いながら実況していた人が
何かを殴ったようなニブイ音で沈黙し
違う人が落ち着いた声で続けた
開法学院の保健室で
笑いと拍手が止まらない会場を
画面越しに見つめていた女性が
隣で顔を手で覆い隠してるソナを見て
ケラケラと笑っていた
「ほら!ソナってば!見て見て!
あの子ったらないわ!なによ!ほら!
頭を下げて挨拶して!かわいいやないの!」
「アカン‥‥マジで全国放送やん‥‥
ウチはもうアカン‥‥こんなん‥‥
恥ずかしくて死にそうや」
ソナが消え入りそうな声で話すのを聞いた
ソナと瓜二つの女性は盛大に笑い
咽込んで涙ぐんで、また笑う
「ええやないの
コレでシンちゃんに悪い虫が寄ってこんやろ
それにあの子だけやったら
アンタってわからんやろしな
まぁ、もしもぉ?わかってもうたらぁ?
レディーアンドレディーってか!キャハッ!」
「ホンマにアンタはウチのオカンか!
娘ぐらい慰めたらどうやねん!」
笑い転げる母親の背中を
真っ赤になったソナはバシバシと叩いていた
たまに頭の上で動き回る気配を感じながら
シンは無心でボンヤリと歩いていた
納得はしていないけど
食べさしてくれるって言われたから
「それにしたって
サーカス団じゃないのよ」
シンは呟くように言うと溜息を吐く
「コレを置いていい?」
入場前の整列する時にサリがシンの頭に
蠍ちゃん〔半眼薄ら笑いバージョン〕を置き
シンの後ろに立って言ってきた
「置く前に言う事じゃない?ソレって」
周りの部員達はヨシッ!とか
コレで目立ちまくりだし!とか言っている
「ついでにこの子も」
アヤノが手のひらに乗せた蛇を
蠍ちゃんの上に乗せる
乗せられた小さな蛇は
いいの?やった!って感じでピッ!と鳴く
「私にも断る権利ってもんがあるでしょ」
「シン!カッコいいです!」
シンが呆れた様に蠍ちゃんを掴もうとすると
クナがシンの腕を掴んで
蠍ちゃんを掴もうとするのを阻止して
嬉しそうに褒めてくる
「離してよ、クナ
こういう時は良いことにならないんだから」
「これは部長命令ですのよ
シン!いえ!コレで行くのよ!蠍ちゃん!」
「なんで私が悪の怪人みたいな扱いなのよ!
モク監督も頷いてんじゃないわよ!」
リンが言うとモク監督と
バレー部員達がウンウンと頷いていた
「お昼はカレーですのよ」
「は?またそんなので釣る気?やんな」
「特製のカツが付くのに?」
「食べるぅ!食べたい!やろう!シン!」
リンの言葉にシンが呆れた様に言うのに被せて
サリがオプション付きだと知らせた
尻尾を振ったクナが簡単に釣れる
シンの頭上で小さな蛇が
尻尾を高速でフリフリしながら
やった!食べれるの?
カレー食べたい!カツ食べたい!と
ピー!ピー!ピー!と必死に鳴いて
容易く釣られる
「アンタらね
こういうわかりやすいのに釣られたら
碌な事にならないわよ」
「あぁ〜あ
お母さんが炊いて持ってきてくれたご飯も
ばあちゃんが作ってくれた特製の福神漬けも
無駄になるのか」
「やる」
呆れているシンにアヤノが伸びをして
溜息混じりに言うとシンが素直に釣れた
「本当に良い子だね」
「そうそう」
「しっかりやるんですのよ」
アヤノ、サリ、リンに促され
腰にしがみついて
ヨダレを垂らしたクナを引きずり
どんなカレー♬どんなカツ♬と
ご機嫌にピッピと歌っている小さな蛇を
頭の上に乗せながら
シンは体育館に入場していった
「今年はどうなりますかね」
「例年通りに行くんであれば
開法学院以外が優勝だのぉ」
リンのお爺様と双子の祖父が
鉄板で肉を焼き、酒を呑む
「どうなっても労ってやらんとな」
「ん?ああ‥‥そうだな
しかし、例年通りとは言うけどよ
連覇ってのは珍しいんか?」
アヤノの祖父とウイの祖父が
咥えたキセルから煙を燻らせる
「珍しいよ
特に団体競技ではね」
「あんまり聞かないもの」
ポーの祖母と双子の祖母が
新味のポテトチップスを食べて
酒をお猪口で呑んでいる
「去年の覇者に人族がいたからね
他の競技で燻ってたヤツらが
こぞってきてるだろうね」
「まぁ、結界の中でも
身体能力の差っていうのは
結構出るものだからな」
ルカの祖母が肉を食べながら
サリの祖父はポテトサラダを食べて
酒を呑んでいる
「コッチ側になると嫌な話ね」
「そうは言っても応援するんでしょ」
リンのお婆様とサリの祖母が
お茶を飲んで野菜スティックを食べる
「やってもらわねぇと困るぜ!
なんせよ!コッチは準備は万端なんだ!
アッツくなれよ!シンちゃん!」
ルカの祖父が大きな杯の酒を呑み切ると
店の奥で新しい棚を楽しそうに拭いている
アヤノの祖母と目が合い笑う
前の棚は、蠍ちゃんのぬいぐるみや
蠍ちゃんを模したサボテン
季節毎の写真や小型の優勝旗などが
所狭しと飾られていた
「そうよ!ウチの優しいおじいちゃんが
腕にヨリをかけて作ったんですから!
無駄にしたら‥‥弟子にしようかしら?」
アヤノの祖母が喋っている最中に
アヤノの祖父が横を向いて咽込む
「まったく労ってやるかとか
白々しいにも程があるってもんだ
期待というか確信してんじゃねぇかよ」
「アイツが棚が足らないとか言うからだ!
コッチは仕方なく作ってやったんだ!」
ウイの祖父がジト目で
咽込んでいたアヤノの祖父に言うと
アヤノの祖父は赤くなりながら反論する
「夜な夜な作っとるのを嫁さんに見つかって
いや!コレは!包丁置き場が必要で!とか
ホントに白々しいのぉ」
ウイの祖父と肩を組んだ双子の祖父が
芝居をしながらアヤノの祖父をおちょくる
アヤノの祖父はフン!と言いながら酒を呑み
笑い合っていた
「弟子といえば
あの頑固者の孫を弟子にしたらしいな」
「その事とシンちゃんの事で
アイツが挨拶に来たいそうだよ‥‥
ここに呼んでも良いかい?」
サリの祖父がリンのお爺様に聞くと
リンのお爺様はアヤノの祖父に許可を取る
どうせ月1か2で呑んでんだ
呼べばいいじゃねぇか
呼べば来るだろのぉ‥‥アイツの事じゃから
色々と返答がくる
「挨拶と言えば
アイツは来たのかい?」
「律儀にお土産を持ってきたの」
ポーの祖母が酒を片手に言うと
双子の祖母は喋りながら
手元に置いてあるドラ焼きを見て
ポテトチップス夏限定味の袋を開ける
「全員が同じ日に集合したら
席が足らないかもしれないわね」
「そうなったら
優しいおじいちゃんの出番よね」
リンのお婆様が席を数えながら言うと
ウイの祖母がアヤノの祖母を見ながら言って
笑い合う
「保健室の主も今度来るってよ!
まったく!シンちゃんと付き合ってたら
退屈ってのが逃げ出していきやがるぜ!」
「忙しい楽しさが駆け寄ってくるけどな」
「まったく勘弁して欲しいね
しかし、この頃は寮や学校では大人しいんで
ソレが逆に不気味だよ!」
「まぁまぁ、そう言ってやらんとのぉ」
「昔がこうだったから
そう言えるだけなんだよ
ホラ!アンタ達のもあるよ!
船を整理してたら出てきたんでね」
「なんてものを持ってきやがる!」
「ウチの旦那のは孫には見せちゃ駄目なの!」
「参ったね‥‥アイツとの写真もあるなんてね」
「今度、挨拶に来たら
アイツらにも見せてやろう」
昔の写真を見て
思い出しながら色々と話していたが
「ルカちゃんがデータにしてくれたんでよ!
欲しけりゃ!後で送ってやるぜ!」
ルカの祖父の言葉に全員が止まる
「オマエさん‥‥データって
どういうことなんかのぉ」
「ん?だからよ!ルカちゃんに聞いたら
写真をデータにして?携帯に送ってあげる‥‥
あぁぁぁぁぁ!そういう事か!ルカちゃん!」
ルカの祖父が言いながら気づいて大声をあげる
「まぁね
知られたとしても、あった事なんだしね
多少の恥ずかしさはあるけど」
「コレだけなんだろうな?
オマエさんの孫に渡した写真は?」
「5倍くらいはあったね!
まぁ観念しなよ!
‥‥私のは多少だけど抜いたけどね」
「「「「は?ズル!」」」」
ルカの祖父母が責め立てられている中で
アヤノの祖母がアヤノの祖父に
「棚があといくつ必要なんでしょうね」
「そうだな‥‥アイツらの」
「アナタのを含めると10では
足らないわよね、全然」
「言っとくがアレだけは絶対に」
「さあ?どれだけあるのかしね?アレと絶対が」
「勘弁してくれ」
アヤノの祖母はコロコロと笑うが
アンタのこんな写真もあったわよ!
という言葉にやめて!と叫びながら
慌てて駆け寄っていった




