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71話 繋ぎ合わせた盛り合わせ

縁側で虫の声を聞きながら

3人はお茶を飲んで

横に置かれてある切られたドラ焼きを

爪楊枝で挿して口に運ぶ


無言で月や庭にある木々を見て

ゆっくりと過ごす時間


そこにある

目に見えないモノを見ながら

目に見えるモノを感じながら

そこから何かを得る様な

ゆったりとした日と日の間


「唐揚げにシチュー」


不意に響いた言葉に3人は笑い出す

言ったのはリンの祖母

笑い合うのは

リンの祖父とリンの母親だった


「いけないね

虫の声が霞んでしまうよ」


リンの祖父が笑いながら苦情を出す


「しょうがありませんよ

さっきから俳句でもと思っているのに

邪魔されるし、語呂も悪いわで

困ってるんですから」


リンの祖母も笑いながら苦情を出す


「それほど主張の強いモノなんだから

全部一緒にしたら

おかしくなるのは

しょうがないじゃない」


リンの母親は、そう言いながらも

困っているようには見えない2人を見て

ゆっくりと月を見ながら思い返す




和の衣服、装飾の世界では

知らない人がいないと言われている2人


仕事をしていない時の普段の生活では

本当にゆっくりと過ごす2人なのに

仕事のことになると厳しく

仕事以外の事を忘れたかのように

日々を過ごす


何年か前にバレーの試合を見た後に

2人が寝食を忘れて仕事にのめり込んだ


久しぶりに父親までだったが

別にいつもの事だと見ていたのだけど

いつもとは違う雰囲気で

娘の私の言葉にも反応してくれなかった


仕事の出来は恐ろしかった

特に父親が作り上げた和服は

その年のありとあらゆるコンクールで金賞を取り

作品を数量限定で売り出すも即完売となった


なかなか作る事がなかったのに

その年から毎年のように作品を出していて

その中でも反響が1番大きかったのは

孫の為に作った‥‥孫に送った着物だった


父親に弟子入りして着物を習い

母親に弟子入りして装飾を習った者だ

見抜けると思っていたのに

わからなかった


全員が着て、揃って初めて1つの作品となる

あんなに綺麗に揃わせる事が出来るなんて

‥‥本当にシンちゃんには悪い事したと

後々に聞いた言葉にそう思ってしまった


そんなシンちゃんが

リンを通してお願いをしてきた


着物を見せたい子がいるんですけど

いいでしょうか?


父親と母親は

私達に遠慮する事はない

いつでも気軽に来ていいんだよと言っていた

‥‥色々とツッコミたいけども

我慢しておいた


そんな2人も‥‥私もだけど

連れてきた子を見て驚くというより困惑した

蜘蛛族の子とわかったけど

確か‥‥と、父親と母親の顔を見るとわかった

父親のライバルである人の孫だった


相手もコッチの事を知っていたのだろう

恐ろしく萎縮していたが

シンちゃんが出した提案が

彼女にとって

あまりにも魅力的だったのだろう


「みんなの着物を見せてあげたくて」


そんな気持ちを知らないシンちゃんが

呑気にそんな事を言って蜘蛛族の子を

着物を飾っておいた和室へと連れて行った


見たいと言っていたから

飾るように置いてある10着の着物の真ん中で

蜘蛛族の子は惚けたように座り

1着1着を食い入るように見つめて

遠慮しがちに手で少し触っては

驚いたり、悔しがったりしていた


そんな様子を隣の部屋で

最近貰った美味しい和菓子である

ドラ焼きとお茶を出して

シンちゃんと一緒に眺めていた


「えっと‥‥コレって

もう1個貰えますか?」


シンちゃんが遠慮がちに

ドラ焼きを指差して要求してきた

いっぱい貰ったからと

もう1個出してあげる


シンちゃんはハンカチを机に敷いて

ドラ焼きを乗せると

シンちゃんの頭から小さな蛇が出てきて

私達に頭を何回か下げてから

嬉しそうにドラ焼きに食いついて

ドラ焼きに潜っていった


「シンちゃん?どういう事?

貰ったの?この蛇を?」

「貰ったんじゃなくて

勝手に来て、勝手に住みつきました」


聞いた母親が信じられないという風に

動いているドラ焼きを見ていると

ボコっと顔を出した蛇がシンちゃんに向かって

ピーー♬っと鳴く

シンちゃんは美味しいのはわかったから

チラかさないでよと言っていた


言葉まで完全に理解してるし

この蛇がシンちゃんにいるって事は‥‥

父親が笑い出して、母親も笑っていた

私は呆れて、蛇の頭を撫でてから

お猪口に水を入れて置いてあげた



「シンちゃんはなんであの子を

連れてきたんだい?」


しばらくしてから父親がシンちゃんに聞いた


「ト‥‥あの子が今着てる着物の評価を

聞かれたんですけど

なんとなくでしか答えれなくて

リンのお爺様やお婆様ならと思ったんですけど

ホントになんとなく」

「そうか‥‥そうなんだね」


父親と母親が蜘蛛族の子を見る

私も見るが、最初に見た感想と変わらない


チグハグ


何度見てもそう思う

なんというか魔術と作りのバランスが悪い

そのせいなのかわからないけども

染めている色合いとかも悪く見えて

見れば見る程に奇妙な気分になる


「少し辛辣な言葉を選ぶ評価になるね」


仕事に関する事には厳しい父親が

言葉を選んでシンちゃんに言う


「シンちゃんはどう答えたんだい?」

「見た目が似てて

真冬の布団みたいな感じって答えたかな」


私と母親が少し笑う

確かに評価する言葉としては少し可笑しい


「そんな感じだったんですよね

触ってみた感じがホントに」

「触ってみた感じがかい?」

「う〜ん‥‥トウカ!コッチ来てよ」


父親と話していたシンちゃんが

蜘蛛族の子を呼んで、おいでおいでをする

名前を教えてもらってるし

なんか遠慮なく呼んだわね


蜘蛛族の子は真剣に着物を見てたのに

呼ばれた瞬間にシンちゃんの方へ歩いてくる


「ここらへんの感じとかが良くて」


ビックリした


シンちゃんが蜘蛛族の子が着ている着物を

触った瞬間にわかってしまった

コレは父親が作りあげた作品

10着分の魔術を複雑に編み込んである


シンちゃんが触った瞬間に

その一部が作動し始めたからわかった


「少し触ってもいいかい?」

「私もいいかしら?」


父親と母親が蜘蛛族の子に断って

真剣な顔つきで着物の端々まで

ゆっくりとじっくりと見て触る


「1回見たのを何度も思い出して

この着物を作ったんだって言ったのよ

私は凄い事だって思ったんだけど

下手くそとか言われたんだっけ?

絶対にそんな事ないと思って

ここに聞きに来てみたんだけど‥‥

トウカが言ってた通り

やっぱ駄目なんかな‥‥

ごめんね、トウカ」

「ええよ、シン

めっちゃ勉強なったし‥‥

あの‥‥えっとですね‥‥」


父親と母親がブツブツと言いながら

蜘蛛族の子が着ている着物を丁寧に触って

何かを考えている


「シンちゃん、1回って言ったかい?」

「だよね?トウカ?

今年の正月だったよね?」


蜘蛛族の子がウンウンと頷く


「下手くそと言われたのかい?

どこの工房で?働いているのかい?」

「専攻科なので見習いです

アラクネ屋の‥‥暖簾分けした所です」


父親が母親に頷いてからお店の方へと歩いていく

母親は蜘蛛族の子に頭を下げる


「ごめんなさいね

夫と私は勘違いしていたわ

その着物なんだけど、本当に丁寧な作りだわ

魔術は1着に盛りすぎではあるけど

何度も何度もやり直して

なんとかして整えようと

複雑な編み込みをしてあるのがわかるわ」

「えっ‥‥でも」

「沢山努力なされたのね

本当にそれがわかる作りをしている

それで、本当に急で悪いんだけどもね

アナタをここで雇いたいの?いいかしら?」

「そんな‥‥いいんですか?

でも‥‥お爺ちゃんがなんて言うか」


母親は青白くボンヤリと光って怒り始めた

シンちゃんがジリジリと距離をとり始めると

机の上でドラ焼きを食べて満足していた蛇が

重そうな体を動かして

シンちゃんの方へとノタノタと焦って避難する


「アナタを貶した工房と

あの頑固者には夫と私が責任を持って

説明しておきます

どうかしら?ここでやってみない?

じゃないわね‥‥やって欲しいのよ」

「ええの?ホンマに?」

「夫があなたを弟子にしたいって言うの

こんなのは初めての事なのよ

私としては是が非でもなってほしいわ」

「お‥‥お願いします!」


シンちゃんは、なんで?話が急すぎない?と

意味がわからないように

キョロキョロと私達を見てくる


そうねと思いながら

例え話でシンちゃんに教えてあげようかしら

ドラ焼きが乗っていた

この小さい皿がいいわね


「いい?シンちゃん

この小さな皿があるでしょう」

「え?うん」

「この皿にラーメンとカレーが盛ってあったら

なんかおかしく見えない?」

「え?おかしくないと思うけど」

「まぁ、例えば」

「どうせなら、シチューとハンバーグと

肉じゃがと焼肉とアイスとパンケーキ

‥‥なに?唐揚げも欲しい!

そうだ!ドラ焼きも!」


言ってる最中に蛇からピッ!と言われて

シンちゃんが同意して色々と言う

私と母親は大きな声で笑ってしまった

店の方からも父親の笑い声が聞こえる


蜘蛛族の子はシンちゃんに抱きついて

笑いながら泣いていた



高く綺麗な月を見ながら

虫の声を静かに聞いている

なんか遠くからリンの悶える声が聞こえる


「シンちゃんのおかげで

初めての経験ができてしまったよ」

「あら?生きてる時間の全てが

初めての経験なのでは?」


3人で穏やかな時間を過ごしていく中で

ふと思ってしまう


「カレーとシチューが一緒って邪道じゃない?」


父親がお茶を少し吹き出していた

初めて見る光景だったので

母親と一緒に盛大に笑った


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