70話 姫の日記帳
今日は色々とあったわねと
自分の部屋で座椅子に座りながらお茶をすする
来週から始まる学期末テストの為に
机の上には教科書が何冊か置いてあり
ノートも広げてある
スポーツ科である為に
進学科と比べるとそんなにしてこなかった
シンの影響なのか
最近ずっと何かをしている
前は忙しいとか、時間が無いとかで
してこなかった勉強や家の事があった
やり始めて思う
真剣にやってなかったのかなと
違うわね
なんかこの言葉は違う様な気がする
でも、当てはめる言葉があるとするなら
自分が知っている言葉を当てはめるとするなら
この言葉の様な気がする
人族であるシンが
自分より基本的な身体能力が劣る人族のシンが
あんなにもやっている
バレーの練習が終わった後に
1人で同じ事を何度も何度も何度も
繰り返してやっている
心配になる程の練習をした後に
勉強をして、私達にも付き合ってくれている
他の人族を見てきたせいか
比べてしまう所がある
シンなんだから仕方がない
最近ずっと
この言葉を当てはめている様な気がする
今日の事だってそうだ
お婆様とお爺様に話をした
シンがトウカを連れてくると
テストがある前の部活がない期間
部活がない分できた時間を
シンは勉強してるか
自主練をしているかなのに
1日をトウカの為に使って
私の家にトウカを連れてきたのだ
お婆様とお爺様
それにトウカまで困惑していたが
結果的に
夏休みからトウカがお爺様の弟子として
工房に入る事が決まった
トウカは泣いて喜んでいたが
信じられない思いで聞いていた
お爺様がトウカが見習いで働いている所と
家の方に連絡を入れて弟子にしたと
夕食の時に話していた
お婆様やお母様も納得していたけど
少し‥‥いや、結構怒ってもいた
あんな子を雑に扱うなんてって
今まで弟子入りに来る事はあっても
お爺様が認めて弟子にするなんて
私の知る限りではなかった筈だ
いつの事だろうか
私がシンに対して
こんな事があっても
シンなんだから仕方ないと
思う様になったのは
最初は憎かった筈なのに
ケンカまで売る程までに
初めてそこまで思うような相手だったのに
チョロいなぁ‥‥私って
ポーが言っていた言葉が浮かぶ
顔が赤くなっている自覚がある
シンにリンちゃんなんて呼ばれたら
むず痒くなって、頭を叩きたくなる
「はぁ‥‥なんてチョロいんですの」
初めてのケンカ相手
初めて負けたと思った相手
初めての思いをぶつけた相手
初めて名前を教えた相手
初めての気持ちを抱いた相手
こんなに簡単なモノなのか
もっと複雑で甘いモノじゃなかったのか
何度も気持ちにブレーキをかけた
でも、それよりも強く駆け出してしまった
気付かないふりをして
気持ちよく駆け出してみて
何度も振り返ってみて
駄目なんじゃないかと思いながらも
さらに強く、何度も、何回も
それこそ落ちる様に駆け出した
両親や祖父母が認めてくれてるのも
原因の1つかもしれない
シンが仮に‥‥そう仮に‥‥
本当に仮に嫌な奴だったとして
両親も祖父母も認めてくれない奴だったら
止まれた筈だ
それは自信がある
尊敬している祖父母
敬愛している両親が
大反対したら、それ程の事だと思い留まる
全員が背中を思いっきり押すのだ
踏み止まった一線を前にして
足踏みした理由を前にして
信じて進んでみろと
わかっているけど
踏み越えてしまって
駄目だった時に立ち直れなくなる
不安があった筈なのに
今は不思議と自信しかない
必ず上手くいく
シンなら絶対にやってくれる
あの子達となら絶対にやれる
「あぁ〜‥‥ホントにチョロいですわね」
どんなに考えても
どんなに思っても
どんなに時間をかけても
この言葉が当てはまる
開いているノートを見ながら
お茶をすすってから、ため息を吐く
シャーペンを持って
ノートに書いてみる
シンの馬鹿
一旦止まって、書いた字を見る
シャーペンを置いて
深呼吸をしてから、書いた字を見る
絶対コレじゃない感があるけど
コレしか書きたくない感がある
当てはまるんだろうか
この気持ちが、この言葉に
言葉の意味が違うと言ってしまったら
何かを認めてしまう事になる
この言葉で蓋をして
気持ちが溢れない様にしていたのに
自覚しない様に
意味が全く違う言葉を無理矢理に
はめ込んでいたのに
去年の全国大会1回戦
結界が無くなった時に
シンなら受け止めてくれると思って
慎重に全力で出したボールを
シンが打ち込んでくれた
お母様も褒めてくれた
本当に嬉しかったんだよ
あんな気持ちは初めてだったんだから
リンはシャーペンをゆっくりと持って
書いた字の横に何かを書こうとして
悩んで悩んでやめて
書いた字を消しゴムで消す
まだだけど
こんなになってもまだだけど
いつか素直な気持ちに
当てはまる言葉を書こうと思っている
「書く言葉は決まってるんですのにね‥‥
あぁぁ‥‥もういい!」
教科書を開いて勉強を始める
ノートに書こうとして
さっき書いて消した文字の跡を見る
誰かに1日を使うなら
私にも使ってもらってもいいですわよね
気分良く勉強をしながら
何をしてもらうか
どこに連れて行ってもらうか
何を食べに行こうかと
色々と思いついては
ノートに書き出していった




