63話 温度差に気をつけよう
ルカの祖母は荒れ始めた海面に
プカプカと浮きながら空を見ていた
急に天候が崩れる事はよくある事だが
これは明らかにおかしな荒れ方だと
目を細めながら分厚くなった雲を見ていると
2つの人影が雲から海に向かって
飛び出してくる
焦ったように周りを見渡して
海や雲を見てから焦ったように
ルカの祖母の方を向いて叫んできた
雨も降ってきて、視界が悪くなっている
このぐらいながら
まだ助けれると思っていたが
最後の言葉を聞いたルカの祖母は
急いで海に潜って叫んだ
「試験官が試験対象を見失った!
2人とも何の装備もして無い!
雲から飛び出した瞬間に
何としてでも捕まえな!
あの高さは人族には耐えれないよ!」
方々から聞こえる返事を確認して
海から顔を出して睨むように
低く暗くなっている空を見上げた
「ほら!飛べたでしょ!」
「わかんないわよ!無茶苦茶にされてんのよ!」
暴風に巻かれてながら
浮き上がってるのか、落ちてるのか
わからない状況で
シンはウイに抱かれながら
楽しそうに叫ぶと
ウイは6枚の羽を出して
無茶苦茶に羽ばたかせながら泣き叫んだ
「ほらほら!飛ばないと落ちるわよ!」
「何言ってんのよ!こんな状況で!」
一気に下降した感覚の後に
横へとズラされ、浮き上がる感覚が
不規則かつ連続にくる
ウイは必死に羽を動かして
魔術も全開にして耐えようとするが
暴風に遊ばれる
「わかってんの!シン!
落ちたら‥‥」
「真剣にやってんのは知ってる!
でもさぁ〜‥‥もっと簡単なんだから‥‥
ウイなら簡単にできるんだから
おもっきりやってみなよ!
私は原種の最大を受け止める時と
打ち込む時はさぁ‥‥
真剣に見えて、何も考えてない!
ただ単にやりたいからやっただけよ!」
「でも‥‥もしかしたらって‥‥ムグッ!」
シンの言った事にウイが目を逸らして
何か言おうと瞬間にシンがウイの顔を
両手で挟んで黙らせる
「あのね?ウイが嫌な事でも好きな事でも
その道のプロってのはいるのよ
飛んで成功!落ちたら失敗!結果が全て!
わかってるわよ!でも‥‥
レジェンドだって言っても
夢ぐらい見させてよ
ウイの成功なんでしょ!飛ぶのが!」
「シンは‥‥」
「ウッサイわね!私だって飛び続けたいのよ!
悪い?落ち続けるから強がってんよ!
わかってよ‥‥いまさらでしょ」
ウイに抱かれながら
シンは駄々っ子のように
手足をバタバタさせながら叫んで
最後にはウイに抱きつきながら
耳元で拗ねて呟くように言った
ウイはそれを聞くと
羽をバタつかせるのをやめて
たまらず笑い出す
本当に気分良く
何かが破裂したように
暗くて白い空の中で
暴風に揉まれる中で
そして
それらを邪魔だと言わんばかりに
大きな声で歌うように
振り払うのではなく
従わすような強さで
笑い声が響き渡っていった
ガタガタと揺れが激しくなる中で
2人の子供が飛び出して行った
呆気に取られたと言えば
そうなのかもしれないけど
やってはいけない失態だった
旦那が操縦席に駆け込んで
状況を知らせる
私もパラシュートが入ったカバンを
2つ抱えて操縦席から出てきた旦那と共に
扉の外へと飛び出して羽を広げる
飛ぶのも姿勢を維持するのも
この暴風の中ではコントロールが難しい
雲の中で2人がいる方向がわかっても
捕まえるのは困難だ
だったらと旦那と一緒に雲を突き抜けて
海と雲の間に出て周りを見渡す
海には落ちたとは思えないが
魔術で加工した声をルカの祖母に向かって
叫んで飛ばす
「シンちゃんとウイが落ちた!
雲から出た瞬間に捕まえて!
お願い!2人とも何も装備していないのよ!」
雨が降り出して荒れ出す海の上を
ウイがいる方向へと旦那と共に向かいながら
最悪のケースが思い浮かぶ
お父さんとお母さんを無理矢理にでも
連れてこればよかった
あの2人なら‥‥あの夫婦なら
こんな状況でも‥‥こんな天候でも
押さえ込んで操って
何ともないように‥‥
なに?歌うような?笑い声?
旦那の方を見ると
困惑したように雲の方を見上げている
つられて上を見ると空が見えた
青い空が見える
そこを飛んでいる2人を中心に
一気に空が広がって
雲が散り散りになっていく
風も雨も急激に止んで
散り散りの雲から出ている陽の光を浴びながら
6枚の羽を動かして飛んでいる娘と
娘に後ろから抱きしめられながら
両手で耳を塞いでいるシンちゃんを
旦那と一緒に見ていた
歌うような
笑うような
泣いているような声が響く中
風も吹いていないのに
まるで大きな風の流れを捕まえたように
ゆったりと羽ばたきながら
2人が陸地へと向かいながら飛んで行く
「マジかよ‥‥」
「嘘でしょ‥‥」
旦那が驚いて呟いたので、私も思わず呟いた
海も急激に落ち着いていき
波の無い、凪のような状態になっている
羽ばたきながら魔術を使って
風を起こしながらウイ達を追い
予定していた飛行場の横にある着地点を目指す
ウイ達に段々と離されていき
遠目に見てウイ達が着地した時に
歌声が止んで風が戻ってきた
着地してウイに駆け寄ると
ウイは泣きながらシンちゃんを
おもっきり抱きしめて‥‥締め上げていた
「やめ‥‥誰か‥‥」
「ちょ!シンがヤバいっての!」
蜂族の子が何とかシンちゃんを引き剥がすと
四つん這いになって泣いている鬼の子の隣で
シンちゃんは四つん這いになって
むせ込んでいた
「ウイ!アンタっ‥‥わぁぁぁ」
抱きしめて泣いた
絶対に駄目だと‥‥無理だと思っていた
その後の事も真剣に考えていた
絶対に泣きはらす娘を慰める言葉を
何個も何通りも考えていた
覚悟もしていた
背中の羽を見るたびに無駄についていると
思って泣く娘を何度も想像していた
お父さんとお母さんは
卵から出てくる前の事を考えても
しょうがないだろうと
何度も言われたけど‥‥
なんで!こんなん!言葉も出ないわよ!
泣くに決まってるじゃない!
旦那が優しく肩を叩いてくれる
泣き足りないけどわかってる
試験官として言わなきゃならない事がある
今さっきまで考えてなかった結果を
絶対に1番最初に言いたかった言葉を
「ウイ‥‥合格よ」
「ああ‥‥文句無しだ」
また泣いて抱き合う
旦那も私達を抱きしめてくれる
「あのさ‥‥感動は良いんだけど
違う意味で私は死にかけたんだけど」
「飛ばない‥‥ヤダ‥‥お母さんのバカー!」
シンが仰向けに倒れながら呟くと
アヤノは泣きながら
飛行場に向かって叫んでいた




