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62話 定型文で口説くなら情熱的に

「それじゃあ

先に行ってるよ」


ルカの祖母はそう言うと

デカい扉を軽く開ける

シンは思わず止めようとするも

風がすごくて一瞬動きが止まる


ルカの祖母は

まるで玄関から歩いて出るように

普段着のまま空中へ出て行った


シンは思わず窓に駆け寄って

ルカの祖母の姿を探すと

頭を下にした状態で落ちて行き

小さくなってわからなくなる


「アレって!どういう事なの!」


シンは叫んで聞くが

ウイの母親、アヤノの母親

ウイ、アヤノ、ポーは冷静に

シンを見ていた


「見てたらわかるわよ」

「私達にはできない事を

簡単にやってのけるからね

あの人達は」


アヤノの母親とウイの母親は

飛行機の下を指差して窓から見るように

シンを促す


窓の景色は陸から離れて

ほとんどが海となっている

しばらくすると

その一部が盛り上がって

空中の黒い点を飲み込んだ


「ああやって落下した場合に

海へと優しく着水させてくれるんだよ」

「まぁ‥‥最悪の場合だけどね〜」


アヤノ、ポーが軽く答えると

アヤノの母親とポーが

デカいカバンを背負っていく

アヤノは2人を手伝いながら

段々と状況を把握していくシンを

ニヤニヤと見ていた


「そうだよ〜ん!シン!

頑張ってねぇ〜って!何!なによ!

お母さん!冗談よね!」


アヤノが準備を手伝っていると

後ろからアヤノの母親がアヤノに抱きついた


アヤノの母親は

暴れる娘をニヤつきながら抱き上げて

自分の装備についた繋がっている

金具やベルトをアヤノに繋げていく


「ここまで来て

飛ばない選択肢は無いわよね〜

アッヤノちゃ〜ん」

「ヤダ!怖いから!お母さん!やめて!

見学だって言った!ヤダヤダヤダァ〜!」


そのままズリズリと

開いたデカい扉の方へと

アヤノを抱きかかえたアヤノの母親が

ニヤつきながら歩いていく


「それでは!狙撃手アヤノと

その母親は出発しまぁ〜す!」

「イヤダァ!飛ぶんだったら!お願い!

怖い!怖いから!お願いだから!

せめてシンと一緒がいいの!」

「往生際の悪い事を言わないっの!この!」

「や!カッ!キャァ‥‥‥」


最後の抵抗で扉のフチを

掴んだアヤノの手を

アヤノの母親は引き剥がして

満面の笑みで泣き叫ぶ娘と共に

扉の向こうへと飛び出して行き

アヤノの断末魔は一瞬で聞こえなくなる


「何やってんだか‥‥まったくもう

じゃあね!シン!

ウイ!頑張ってね」


ポーは手を振って軽く言いながら

空中へと飛び出していく


「あのね‥‥シン」


半眼になってアヤノ達を

見送っていたシンにウイが話しかけるが

すぐに黙り込んでしまう


ウイの母親がどうしたもんかといった感じで

ウイの方を見ていると

操縦席側からウイの父親が出てきて

大きなカバンを床に置いて

色々と準備し始める


「あのさ‥‥

私はね‥‥幼い頃から飛ぶのが得意で

気付いた時には飛べていて

6枚も羽を出せるのは珍しいから

それを見せびらかしながら‥‥

周りの子が飛べないのを

馬鹿にしていた事があったの」


ウイは下を向いて少しずつ話し始めた

ウイの母親はウイの手を握っていて

ウイの父親は話を聞きながら

シン達には背中を向けて作業している


「そんなだったから

バチが当たったんだと思う

‥‥バレーをしている時に

周りより高く飛べるんだって

羽を出して飛び上がって

何度もボールを打ち込んでいたの」


シンはウイをジッと見ていた

何かを思い出して少し震えているのか

ウイ体は飛行機の振動とは

違う震え方をしていた


「それで落ちたの

ボールを追ってだったか

ボールが当たったのか

もう思い出せないけど‥‥

初めて落ちて、羽が折れたのよ

‥‥それから羽が治っても

飛べなくなったの‥‥

飛ぶのが怖くなったのよ

落ちるのは痛いし‥‥

周りから変な目で見られるし‥‥」


自分を落ち着かせる為か

ウイは大きく息を吐く


「去年の夏にシンが

二つ名を貰った時にリハビリを始めたの

小学生に混じって飛ぶ練習をしてた

恥ずかしいと思ったけど

シンやみんなに追いつく為と思って

頑張ったんだけどね‥‥‥

テストはもう5回目で今日が最後なの‥‥

受からないとこれから先‥‥

許可された地域でも飛べなくなるのよ」


シンはピンとこないが

ウイの種族的に大切な話なんだろうと

下を向いて、おそらく泣いているウイを

ジッと見て聞いていた


「今回は受からないとって‥‥

周りの人に協力してもらって‥‥

でも土壇場で‥‥また怖くなって

また逃げ出したくなって

人族のシンができたんだからって

私ならできるはずだって

‥‥たぶん‥‥心のどこかで‥‥

また見下すような気持ちで

見てたのかもしれない」


肩を振るわせながら喋るウイを

シンは半眼になって見て

頭をカリカリと掻きながら

少しむくれたようになっていた


「別に見下すとかは無いんじゃない」

「シンはそうでも‥‥

私がそう思ってしまったのよ」


シンは少し息を吐いて

ウイの母親と父親を見てから

ウイの方を向いて話し出した


「だいたい見てたから知ってると思うけど

私は前の学校から逃げ出したのよね

アンタ達はそうじゃないって

言うかもしれないけど

開法学院に誘われたとか

前の学校でハブられたからとか

色々と理由をつけてみたけど

やっぱり逃げ出したんだよね」

「そんな事は‥‥」

「いつだったかなぁ

アヤノの家だったと思うけど

自分の負けた試合を見たの

その時になんとなく思ったのよね

駄目だ!私って!ってね‥‥

本当に周りも見てなくて

勝手に暴れてワガママ言って

周りが頑張って合わせてくれてるのに

それじゃあ足らない!

でも大丈夫!足らない分は私がやるから!

ってまぁ‥‥失礼なヤツだよね」


ウイが何か言おうとするのを

遮るようにシンは喋り続ける


「そんなムカつく自分を

アンタ達や最近ではクナが

スゴイって、憧れてますって‥‥

今みたいに人の話は聞かないし

自分の言いたい事を言うだけだし

やりたい事をやって

気に入らなくなったら逃げ出す

どう?こんな私って」


ウイは答えれなかった

どう答えても返ってくる言葉は

決まっていると思ったからだ

さっき自分が言った言葉

シンから見た私はこんな風に見えていたのか

そう思って情けなくなる


「それにしてもウイが

夏休みの宿題を

夏休み最後の日に家族まで

巻き込んでやるタイプとは

思わなかったわ」

「えっ‥‥?」

「ギリギリになっても

周りに泣きついて助けてもらってでも

それでもやろうとするなんてスゴイよ

私はその時になってもやろうとせずに

逃げ出したんだからね」


シンがニヤッと笑いながら言うと

飛行機がガタガタと揺れ始めた

揺れている飛行機内に

スピーカーからの声が響く


〔少し気流が乱れ始めたよ

行くなら早くした方がいい〕

〔すまないな

こんなのは予報になかったが

難易度が上がってる

悪いんだが中止も検討してくれ〕


シンは揺れている飛行機内を

不安そうに見ていると

ウイが泣きながら父親と母親を見ていた


「そういう事もあるのよ」

「ヤダよ‥‥こんなの」


ウイの母親が慰めるように言うと

ウイがボロボロと涙をこぼして

ウイの母親に抱きつく


「で?テストって何すりゃいいの?」


揺れている飛行機内で

いつの間にか立ち上がって

着ているジャケットのポケットに

手を入れて普通にしているシンが聞く


「危ないから立ち上がらない方がいい」

「だからテストって何?」


ウイの父親がシンに座るように促すも

半眼になって少しイラついたように

シンは聞いた


「この高さから重さ20キロ以上の物を

魔術で軽くして持ちながら

無事に陸地まで飛んで着地する事よ」


ウイの母親がそう言うと

シンは外へと通じる扉の方を見てから

母親に抱きついて泣いているウイを見る


「20キロ以上ね‥‥

じゃあ私を抱えて着地でも良いわけね」

「そうしようと思ってたけど‥‥」

「あ〜‥‥そうだ!

狙撃手アヤノで思い出したけどさ

私が落ちる事に関してはレジェンドって

ウイに言った事あったよね」

「えっ‥‥うん‥‥あった」


ウイから視線を外して窓の外を見ながら

シンは呟くようにウイに言った

窓の外は雲が広がり始めて

海が見えづらくなっている


「落ちるって言ってもね

この高さを落ちたことはないわけで」

「うん‥‥それは」

「初めてなんだから

トラウマにさせないでよ!ウイ!」

「え‥‥ちょっと!待って!」


シンはウイの方を見て笑顔になると

そのまま扉の方へと走り出した

呆気に取られているウイ達の方を

振り向きながら、真っ白な扉の向こうへと

笑顔で飛び出して行った


飛行機は激しく揺れ始め

スピーカーからは中止を促す

アナウンスが流れていた

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