60話 つながれた物語
本気ではない
それがわかるくらいになってしまう
最大の武器で挑んだのに
軽く流すように返されてしまった
付け焼き刃でやられた事を返しても
それこそ軽く返された
本気でやってください!
そう言ったのは2試合目が始まる時
そこからのシン先輩は楽しそうに笑いながら
一方的な試合が始まった
雷姫主将が打ってくるのは
去年の全国大会を見ていたから
わかっていたけど
双璧先輩達まで同じ形で打ってきた
どれも速すぎるし
3人同時に飛ばれると
誰が打つかわからないし
わかったとしても受け止めれない
私達が折れてしまった時に
シン先輩が見せてやろうと
周りから言われていた
私達のコートに雷姫主将が加わる
「いい?これからくるのは
最近では誰も取れた事ないんですのよ」
そう言って雷姫主将に
ボールを上げるように言われる
先輩達のコートから来たボールを
トスすると雷姫主将が打ち込む
さっきのに比べると取れるんではないかと
思うようなボールをシン先輩が受けて
後ろに飛んで空中で一回転して着地する
「きますわよ!」
雷姫主将が私達の横に並んで
構えながら叫ぶように言う
周りからは期待の目が向けられている
何が始まるというのか
意味がわからないと言う感想だった
シン先輩が右で打った
真っ直ぐに雷姫主将に向かうのはわかった
何度も見さしてもらった速さだから
予測してそうだと思ったけど
隣にいた私の方に曲がりながら落ちた
雷姫主将は反応して
手を伸ばしていたけど
カスリもしていなかった
あの速さで変化するの?
わかっていた雷姫主将でも
取れていなかった
ネットの向こう側で
立ち上がったシン先輩に
雷姫主将が文句を言っている
「だから!本気でって!
何度も言ってますのに!」
「え〜‥‥いいじゃない
このくらいで‥‥
わかった!わかりました!」
2階観客席からのブーイングに
シン先輩が呆れたように返事をして
‥‥そこからは徹底的に分からされた
さらに速い
さらに変化する
右から上がったボールを左手で打つし
その逆もあるし
さっきよりトスも速いし
変化も多彩になるし
もうわかんないけど
わかってしまいした
シンが打ち込んだボールが
真っ直ぐに向かっていき
新入生の体に当たり
新入生はよろけて倒れ込む
シンは思わず駆け寄った
「ごめん!大丈夫だった?」
シンが近くに寄って声をかけた瞬間に
お腹に抱きつかれて呟かれた
シンは聞き返すつもりで
「ん?クナって
どういう意味?」
「はい!クナです!
クナなんです!シン先輩!大好き!」
「え‥‥あぁ‥‥はいはい」
お腹に頭をグリグリしながら
叫んでくる新入生
クナの頭を
シンはあやすように撫でる
後輩というより妹みたいだなぁと
シンは考えながら撫でていると
何度も味わった感覚がきて
クナの頭に耳が生えて
お尻からデカいフサフサの尻尾が生える
結界が破綻したのだ
「は?おっ!ぐえ!」
シンは変な声を上げた
今さっきまでかわいい後輩だったクナが
力を解放してシンを押し倒す
アヤノ、サリ、リンに掴まれながらも
クナはシンの顔を舐め回す
「やめ!やめろ!っての!」
「興奮しない!」
「わかったから!やめなさい!」
アヤノ、サリ、リンも
力を解放した状態で
シンからクナを引き剥がす
シンはビックリしたように
剥がされたクナを見ると
興奮したように息を切らしながら
両手をシンに伸ばして
尻尾を勢いよく左右に振り回している
シンはクナ、アヤノ、サリ、リンが
結界を破綻させたんだと思い
顔や首についたクナのヨダレを拭く為と
アヤノ達4人の後ろに立っているモクから
逃げ出す目的でベンチへとダッシュする
「おまえらぁ!結界をなんだと思ってる!
感情をコントロールしろと
何度言わせたら済むんだ!」
モクが怒鳴ると
4人は気を付けの姿勢を取り返事をする
シンはベンチに置いてあったタオルで
顔を拭きながら
その様子を見ていた
「まぁ‥‥当然よね」
「何が当然なんだい?」
「だって‥‥って
なんでいるのよ?」
シンは後ろから話しかけられた言葉に
反射的に返事をしそうになってから
振り向かずに声の主である
ルカの祖母に問いかける
「厄介な生徒達がいるってんで
私達が呼ばれたんだよ」
「厄介な生徒?‥‥達?」
「知らなかったのかい?
特別指導顧問として登録されているのさ
私と旦那はね」
シンの疑問にスラスラと
答えていくルカの祖母の方を見ずに
シンは背中に冷たい汗をかいていく
「名誉な事だよ
初めての事なんだよ‥‥
夫婦揃って呼び出されたのは」
「仕事は‥‥狩りはいいのですかね?」
「引退して暇してたし
娘夫婦も来たがってたが‥‥
これ以上厄介な事になったら呼ぶかもね」
「私は問題児じゃないわよ」
「それは旦那に言うんだね
シンちゃんを1番熱くしてやるって
息巻いていたよ‥‥
私も含めてね」
シンは振り返ってみると
ルカの祖母は笑顔で立っており
その横にはルカの祖父が
気配を消して立っていた
シンが逃げ出す事も出来ない速度で
ルカの祖父はシンを捕まえて肩に乗せながら
ルカの祖父はモク達の方へ歩き出す
「なんで!私がなんかしたの!」
「原種相手にあんな熱い事をしたんだ!
責任は取ってもらうぜ!シンちゃんよ!」
「何が!何を!」
「今の若い奴らは知らないかもしれねぇ!
だかな!知らなくてもよ!
やっちまったんだ!」
ルカの祖父とのやりとりで
ものすごく悪い予感がしたシンは
逃げようとするが
ルカの祖父は上手く捕まえていて
暴れても逃してくれない
モクの前で整列するリン達の前に
シンが連れて行かれると
クナは喜んで尻尾をブンブンと振り回した
ルカの祖父がシンを降ろすと
クナが喜んでシンに飛びかかる
「シン達は知らないかもしれないが
大家族で暮らしていた者が
新たな集団の中に入る時に
自分の得意な物で勝負を挑んで
上下関係を決める事がある
それはジャレアイと呼ばれていた」
モクが言う事を聞きながら
シンは抱きついてくるクナの顔を押して
離そうとする
リン達もクナを掴んで引き剥がそうとするが
クナがシンに夢中になっていて
なかなか上手くいかない
「こういう先輩、後輩として
分からす時は本気を本気で
返すのが普通なんだ!
周りのヤツらは
コッチはわかっていたみたいだがよ!
シンちゃんがやったのは
相手の本気をじゃれる程度の力から
徐々に分からすってやり方だ!」
シンは意味がわからない感じでいるが
周りにいるバレー部員達や新入生達は
なんとなくわかったのか
シンとクナを少し遠めに見ていた
リン達や2階観客席にいるポー達は
驚いたようにクナを見ていた
「それの何が違うわけ?
ていうか‥‥つまり‥‥どうなんのよ」
「シツケってヤツをしちまったのさ
ちゃんと最後まで責任を持つんだよ」
「拾ってきたみたいに言わないでよ!」
ルカの祖母にシンは反論しながら
抱きついてくるクナを見ると
純粋な目をして見つめ返してくる
シンは何か取り返しのつかない事をしたような
そして、純粋な子を騙したような気分になる
「どうすればいいとかあんの?」
「毎日構ってやんな
それこそ一緒になって
遊んでやりゃいいのさ」
「まぁ‥‥それぐらいなら」
シンはそこまで言って
リン達の方を焦ったように見る
「わかって!お願いだから!
仕方ないじゃない!
そう!かわいい後輩の指導なんだから!
って!やめて!懐くな!
やめろっての!やだ!またベトベトになる!」
興奮したクナに押し倒されて
顔を舐められているシンを
リン達や2階観客席にいるポー達は
シンを冷静に見ていた
「そうだね‥‥わかったよ‥‥シン」
寮の食堂での昼食時に全員が納得するまで
シンはオアズケをされて
食べさしてもらえなかった
「ねぇ‥‥ねぇってば!
食べていいでしょ?
もうしないってば」
「駄目!」
「駄目なの」
「駄目なんだからね」
「まだわかってないよね」
シンは後ろから抱きついてくるクナを
押しのけるようにするが
押せば押すほど顔をグリグリと押し付けてくる
「シン先輩!大好きです!離れません!」
「わかったって!わかったから!」
ご飯を前にオアズケをくらいながら
シンはため息をついて
諦めたように項垂れる
「なんで‥‥私がわからされてんのよ」
もうすぐ新学年の新学期が始まる




