58話 信頼の重さと鮮度
シンは体育館の前で立ち止まっていた
今日はバレーでの新入生歓迎会
いわゆる〔ふるい〕というのをやる日だ
シンは去年のことを少し思い出して
ため息を吐く
バレー部の中でというより
進学科でスポーツ科に混じって
部活動をしているのは
シンだけなので
朝早くから行われていた
進学科の特別授業に参加した後
昼前にバレー部に合流しようとしていた
今日から事実上の先輩なのだ
胸を張って‥‥と思いながら
少しだけ背伸びをしてみるが
さっきの事を思い出して
もう一度ため息を吐く
シンは体育館の大きくて重い鉄扉の横にある
非常用に作られた扉から体育館に入る
「おはようございます!!!」
シンは体育館へと入った時に
いつも通り挨拶をしようとすると
大きな声で先にされたので
「おはよう‥‥ございます」
少し躊躇いがちに挨拶をする
歓迎会〔ふるい〕は終わったのか
バレー部の面々は
監督である
モクの前に整列して
何故か静かにしており
シンに挨拶してきたのは新入生達だった
シンは新入生達を半眼になって見ながら
整列しているバレー部員達の1番後ろに並ぶ
「隠れてないで
前に出てこい!シン!」
モクに言われて
シンは少し不貞腐れたように
列の1番前に並ぶ
「というわけでだ!
新入生の希望通り
紅白戦を行う事とする」
シンは
へぇ〜そうなんだ
前は途中までしかいなかったから‥‥
希望通り?って、どういう事?とか
気楽に思っていると
「シンから3点取れたらレギュラーだ!
それで良いか?新入生達」
「は?」
「はい!」
モクが言った言葉に
シンは呆気に取られるが
新入生達は気合いの入った返事をする
「シン聞いて」
シンが何かを言う前に
バレー部主将で
リンがシンの前に立って
笑顔でシンに言う
「あの子達がね
大した事ないって言うんですのよ
シンの事を‥‥‥
それでね試合をやってみたらどうって
もし、本当に、ありえないけど
シンを負かす事ができたら
レギュラーにしてあげるって
約束したんですのよ」
「へぇ〜‥‥そうなんだ」
すごくキレてるじゃない
シンはそう思いながらも
テキトーな言葉を言って
最近よく言われていた事を思い出す
中学での連覇はありえない
中学スポーツ団体戦の長い歴史の中で
連覇できたのは数校である
3連覇などは記録を調べても
あるかどうかもわからない
個人スポーツでは
よくあるものの
団体戦となると
何回か全国制覇している学校はあっても
連覇はできていない
その理由として
よく2つ挙げられる
前の年に全国制覇できたのは
奇抜な作戦をとっていた
優秀な選手が揃っていた等の
監督や選手に対する
徹底した対策が取られる事が
1つ目の理由
2つ目の理由は
全国大会常連の強豪校では
前の世代である先輩達を
実力でねじ伏せるような
次世代達が入ってきて
そのまま全国制覇を
成し遂げてしまうのが結構ある
去年のシンがそうだったように
今年もその時が来たのだ
後輩を迎え撃つか
レギュラーを譲り渡すか
「へぇ〜‥‥私にね」
シンはヤル気満々の
獰猛な笑顔を見せて
新入生達を見る
モクやバレー部の面々は驚いていた
確かにやる時はやっていたが
いつも練習の時にはヤル気がなく
紅白戦の時にも
練習試合にも
ダラダラとしている
シンが獰猛に笑っている
バレー部員達や新入生達が
驚いていると
シンの前にアヤノとサリが立つ
「ねぇ‥‥シン」
シンから見て右側に立っているサリが
左手をシンの右頬にあてながら
「私達はねぇ‥‥本気なんだよ」
シンから見て左側に立っているアヤノが
右手をシンの左頬にあてる
「な‥‥何よ‥‥」
シンが喋っている最中に
アヤノとサリはシンの顔を
段々と強く挟み始める
「こういう時のシンって違うんだよね」
「よからぬ事を考えてるわね」
シンは顔を強引に
2階観客席の方へと向かされると
ルカ、エル、ヒル、ウイ、カヤが
両手でバツを作りながら笑顔だった
「何よ!私はヤル気に‥‥‥」
「ポーには後で言うとして
素直に白状したら‥‥
まだ‥‥そうね‥‥
情状酌量はあると思うんですのよ」
シンは焦りながら言おうとしたが
リンの迫力というか
体が青白く光って言ってくるのを見て
さらに焦ったように喋り出す
「後輩が!後輩達がヤル気になってんのよ!
いいじゃない!やらしてあげれば!
こんな事があるからこそ
スゴイ事なのよ!スポーツは!」
「「「シン?本音は?」」」
「あのね!聞いてよ!
バレーが嫌いとかじゃなくて!
進学科の授業も増えてきたし!
コレでレギュラーから外れたら
忙しさがマシになるじゃない!」
「「「本音」」」
「あの‥‥負けたら無条件で交代だし‥‥
そのね‥‥アレ?これって‥‥
チャンスなのかなぁ‥‥とか?」
シンは段々と剣呑となっていく3人と
2階観客席からの殺気にも似たような空気に
体が冷たくなるのを感じながら
勢いを失っていく
「本気でやらないとご飯抜きだから」
「いいのかなぁ‥‥
シンの好きな物作ったのに」
「そうですわね
特にポーとルカが悲しみますわね」
シンは3人の言葉に
ゴクリっと唾を飲み込んでしまう
最近はずっと餌付けされたようになっていて
他のご飯では食べた気にならなくなっていた
シンは2階観客席に目を向けると
ルカ、エル、ウイが口パクで
カレー、ハンバーグ、シチューと
言ってくる
「わかったわよ‥‥」
シンは白旗をあげて
いつものヤル気がない
気だるげな雰囲気になる
アヤノ、サリは頷いて
シンの顔から手を離した
「にしてもなんで
3点なんてシビアなのよ」
「最初は10点だったんだけどね」
「それじゃあ
新入生達が可哀想でしょ」
「まぁ‥‥1セットなんだし
そうなるのかなぁ‥‥あん?」
シンの問いかけに
アヤノ、サリが笑顔で答えたので
シンは新入生達とバレー部員を見ながら呟くと
変な感じに笑われたので
疑問に思って焦りだす
「えっ‥‥アンタら‥‥まさか」
「新入生との全ての試合で3点ですわ
できるでしょう?シン」
「は?試合?
ちょっと待ってよ!」
「4‥‥5試合ぐらいかしらね」
「え‥‥え?」
リンに言われて
シンは何も言えなくなり
モクを見るが
笑って頷いていたので
シンは睨むように新入生達を見る
「アンタらにプライドとか無いの!
舐められてんのよ!」
「よろしくお願いします!」
シンが叫んだ声より
20人くらいの新入生達が
大きな声で返してきたので
「ウッサイ!もう!やってやるわよ!」
シンは不貞腐れながら
準備をする為に
体育館の端へと向かった
「懐かしいわね」
2階観客席でウイの母親が
隣に座るリンの母親に話しかけていた
「そうね」
「あら?照れてるの?珍しい」
「照れるような事をしたもんね〜っと」
リンの母親がソッポを向いたので
ウイの母親とアヤノの母親がからかった
「まったく
腐れ縁ってのは
こういう時に厄介ね」
「そういうもんなの」
「確か‥‥
全国制覇するのに邪魔なんで
先輩達は引退して下さい
でしたっけ?」
リンの母親が呆れたように言うのを
双子の母親は笑いながら
ウイの母親はニヤつきながら見て話すと
リンの母親は不貞腐れる
「それにアレは追い落としとは違うでしょ」
「似たようなもんじゃないの?」
リンの母親が言った言葉に
ポテトチップスの袋を
んっ〜と頑張りながら開けて
双子の母親は聞く
「そう見えるけど
アレは‥‥って
アイツはまた‥‥」
「なんか段々と遠慮が無くなってきたわね」
ウイの母親は双子の母親が開けた
ポテトチップスの袋から
ポテトチップスを取って言うと
アヤノの母親も同じ行動をしながら言う
双子の母親は
あっ〜!一口目!と抗議する
「アレでも人気の教師らしいわよ」
リンの母親は抗議している双子の母親から
ポテトチップスを数枚掠め取って
口に放り込む前に言った
4人の見つめる先には
体育館の隅でうちわを持った
サリの母親が息を切らして立っている
両手に1枚ずつ持ったうちわには
片方はサリちゃんと書かれていて
もうひとつは無地に見えるが
裏に何か書かれているのか
赤い文字が透けていた




