56話 そういう調味料
朝日が昇るか昇らないかの
1番寒い時間帯に
シン達は獲物を釣り上げた
獲物はルカの祖父が
その場で、サッと締めてくれる
その後
美味いと評判のお店で朝ご飯を食べて
奉納品達を乗せたトラックを
運転するルカの両親を
シン達は見送った
シン、ルカ、エル、ヒルは
そのまま着物の着付けをすると言う事で
リンの祖父母が待つ店に直行となった為
ルカの祖父母が車で送る事となった
大きなボックス車で後部座席は
全部倒してベットにして4人は寝転がり
しばらくすると
毛布を被って静かになった
助手席に座っていたルカの祖母は
静かに後部座席に行って
毛布をめくって何枚か写真を撮って
助手席に戻る
ちょうど車が
赤信号で止まったタイミングで
ルカの祖父に写真を見せると
ふふっ!とルカの祖父が
いつもとは違う笑いを見せたので
ルカの祖母は小声で
「良い事でもあったんかい?」
「いやぁな‥‥今度よ
熟成を食わすって言っちまってな」
「それで?」
「獲物を肥太らしちまうと思ってな」
2人は写真を見ながら
クスクスと笑いあって
青信号になったので車を進ませる
「ほぉ〜‥‥立派なもんだのぉ」
「本当に!」
双子の祖父母は
大きな鯛を見てそう言う
「シンちゃん達が釣り上げたんですって」
「お昼ご飯にと」
双子の両親は言うと
笑顔でどうしますかと聞く
「そうじゃのぉ‥‥
お昼まで少し時間があるし
煮物と鯛メシと‥‥
それに焼きかのぉ」
「最後はアラでつまみですか?」
ふむと双子の祖父は考えながら
「しかしなぁ‥‥
コレだけの大物を
我々が先に頂くのもな」
4人は本殿の方角を見る
「一家庭が食べたと言う事ですから」
「それにコレは
シンちゃん達が
私達に奉納したんじゃないの」
双子の両親はそれぞれに思う事を言い
双子の祖母の方を見ると
少し畏まった様に
コホンッと咳払いをした
双子の祖母は
「奉納されたモノを
奉納してくださった人や
参拝してくださった人と一緒に頂く
確かにこれは大切な事です」
そこまで言って
クスクスと笑いながら双子の祖母は続ける
「まぁね‥‥
そんな硬い事言わずに
私服に着替えて食べましょうか?」
言われた3人は自分達の姿を見て
神主や巫女装束だったので笑い合う
昼過ぎに
参道の一部でバリケードが解かれ
トラックが侵入していく
荷台には氷漬けにされた
特大のブリが乗っていた
港から神社まで
凱旋パレードみたいであった
道行く人
道を譲ってくれる車
通りの家の人が窓から
拍手やクラクションを鳴らして祝ってくれた
ルカの両親は
気分良く神社にトラックを乗り入れて
境内の前にゆっくりと進める
この寒い中
フンドシ姿の屈強な男達と
神輿でも担ぐような姿の屈強な女達の前に
トラックを止める
「ご奉納だぁ!」
「かかるよ!みんなぁ!」
「「「「「「オイ!オイ!オイ!」」」」」」
掛け声を掛けながら
氷漬けブリを本殿に担いで奉納しに行く
周りの観衆からも
掛け声が掛けられて
写真が撮られたり
拍手が巻き起こっている
「今回は大物すぎて
本殿に直接トラックなんだってさ」
カヤが上下にリズムをとりながら言う
「デカいにも程がありません?」
「こういうのもいるのよね」
リン、ウイは携帯で
動画を撮りながら言う
「ま〜‥‥そうね
新しい代のお披露目もあるしねぇ」
「そうね」
ポーはリンゴ飴をかじりながら
ルカに聞くとルカは短く答える
「にしたって気合い入りすぎ」
「寒いのによくやるわ」
アヤノは背伸びをして
ピョコピョコと動きながら見てるし
サリは見てる方向から
蒸気が出てるのをゲンナリとして見てる
全員は着物を着て
エル、ヒルを迎えに行こうとした時に
御奉納の儀が始まったので
見始めていた
「そろそろ行かないと怒りそうよ」
ウイが携帯の画面を見せると
まだ〜まだなの〜
というメッセージが表示されている
シンは先頭に立って
サッと歩いていく
「奉納は見なくていいんですの?」
リンがシンに聞くと
「アレ獲ったの私じゃないし」
「今から食べるのが本命よね〜」
「そそ、早く行こ行こ」
ポー、カヤがシンの後に続いて歩き出すと
皆も続く
ルカが一瞬だけ振り返って
本殿に奉納されていく獲物を見るが
すぐに笑顔でシン達の後を追った
毎年の恒例行事
新年御奉納
季節に合わず熱い行事で
有名な1日がある
神事の1つとして行われる為に
奉納品の大きさや数とかを競わない
神社側は
御奉納をして下賜された奉納物を
氏子や店に卸して
参拝客等に振る舞う
そういった神事
しかし
いつの頃からか
神社側が黙認する事となったことがある
それは
いくつかの雑誌社が奉納品の順位を
勝手に決めていく事だ
御奉納の儀を見た参拝客達に
アンケートを取ったり
雑誌社が独断で決めたりした順位を
掲載し始めた
有名な雑誌社や何社が発表した順位を
まとめる雑誌も出始める程でもあった
そんな中でも
去年に出た順位は混沌を極めた
別に奉納品が立派ではなかった
というわけではない
いつもの王者が奉納しなかったのだ
他が狩れなかった大物を狩る
その王者が奉納できなかったのだ
ファンもいたのに
急にした代替わりも
王者の親しい周りから
ひっそりと発表された
来年からはどうなるか
そういったファン達の不安は
裏切られた事になる
その来年が今
スゴイ事になってしまっている
雑誌社の全部が1位に
奉納品をした夫婦を掲載していた
まとめる雑誌は
表紙にデカデカと掲載し
特集まで組んでいる
先代の引退を超えた今代
そう題された雑誌は
先代のファン達を安心させ
新たなファンも呼び
振る舞う日には大勢の人を呼び寄せた
尽きることのない賞賛と
尽きる事の無く振る舞われる奉納品
さらなる飛躍をできる年になる様に
誰もが新しい世代に願いを込めた
ルカの祖母は
船の船首に立って
もうすぐ出航する海を見ていた
長らく夫婦で
色々な所から来た依頼を
奉納品という体で狩ってきた
毎年何件か依頼が来る
全部やってしまったら
乱獲に似た様な事になってしまうので
1年に1、2件のペースでやっていた
歳の‥‥いや
油断か慢心‥‥いや‥‥もうよそう
敗北と理解して名付けたんだ
命のやり取りをしている狩りを
いつしか敗北を認めない遊びにしてしまった
去年から逃げに徹する相手を
スゴイと思った時に気付いてしまった
最良の手を考えた時に
旦那達には反対されたが
シンちゃんを呼ぶ事にした
旦那に言われた
あの子はお前にどこか似てるってね
だからコレは‥‥
今回だけは連れて行きたくないとも
反対を押し切って
寮に迎えにいく時に
ビックリさせようと
廊下で後ろから声をかけようとして
不意にコチラを向いた時はビックリした
シンちゃんは人族なのかって
疑うくらいに鋭くなっていた
遠くから海面が光るのがわかり
緊急用のアラームが鳴らなかった事に
本当に安心した
旦那には肩を優しく叩かれたが
なんか全て次世代に持っていかれた
そんな寂しさを感じる
でも、コレはコレで安心する
狩りの途中の事
シンちゃんがやった事を
聞いて笑ってやった
旦那とシンちゃんの会話を聞いて
むず痒い笑いも込み上げた
敵わない相手だった時に
決めたお互いの助け方
片方が命をかけて足止めをする
片方が逃げて助けを呼ぶ
まだ若かった頃に
命のやり取りを真剣に考えていた頃に
出した苦渋の策
いつもと同じ勝利を手に入れて
いつしか忘れていった事の
何個かのうちの一つ
「鋭く研いでいたはずなのにね
錆びついて表面に
相手も映らない様になっちまっていたね」
は〜〜ッと息を吐くと
コチラに向かってきている旦那と目が合う
「どうしたんだい?楽しそうだね」
馴染みの店でブリの熟成を披露して
皆に賞賛を受けて上機嫌だったんだが
それとはまた違う楽しそうな旦那に聞く
「おもしれ〜もんがあるぜ」
旦那が引き返して
船の中に入っていったので
ついていくと
テーブルに不貞腐れた様に座る
新王者の夫婦がいる
「それこそどうしたんだい?」
最近は上機嫌に
色々な雑誌に目を通しては
ニヤついていたのに
テーブルの上に置かれた雑誌を見ながら
拗ねたというか
「コレよ、見てよ」
その雑誌は夫婦で表紙になった物で
奉納品の順位をまとめた雑誌だった
開かれたページは
雑誌のちょうど真ん中くらいのページで
デカデカとカラーの写真が
掲載されているのを見て
一瞬色々と考えたものの
「ハハハハッ!
そうかい!こういうのもアリかい!
ハハハハッ!」
「だろ!たまらんだろ!」
爆笑してしまった
新王者には悪いがね
「ホントによ〜
勘弁してくれよ」
「まったく手加減してよね〜
シンちゃん」
新王者が愚痴っている
感謝してるよシンちゃん
賞賛を受けすぎて
浮ついたヤツらへの冷や水
「アンタらもわかったら
コレからも全力でやんなぁ!ブフッ!」
「お母さん!」
私が真剣にまとめようとした時に
旦那が雑誌を見せてきたので笑ってしまう
まったくこんなんを
若い頃に見せられたら納得しないし
それこそ何やってんだと
卑怯者めとか言っていたね絶対に
だが‥‥そうだね‥‥今は
そう今は
こんなやり方があったのかと思う
「ちっと貸しな!」
旦那から雑誌を奪い取って
よく見てみる
〔また現れた!?〕
〔美味しいモノを奉納した方が悪いのか?〕
〔今回は我々も驚いた!〕
そんな見出しがあるページに載った写真は
立派な大きい鯛だったんだろう骨が
和紙に乗せられて置いてある
鯛の骨の両脇に2人ずつ座り
私服姿で両手を広げ
笑顔で映る4人の男女
写真の奥には
向こうの壁の方を向き
着物を着てお揃いの組紐で頭を結い
繋いだ両手を上げて映る10人の少女達
鯛の骨の前には
〔ほーのーひん〕
と初めて筆で書いた様な字の
和紙が置いてある
さらに鯛の骨の上に
〔つまみ食いにて候〕
と達筆で書かれた細い和紙が
申し訳なさそうに置かれていた
4人の男女は
それぞれが先代神主と先代巫女長
今代神主と今代巫女長でもあったが
全員が私服である
この写真が載るページは
いわいる投稿コーナー
一般の人から寄せられた物を
掲載するコーナーで
見ているページは
見開きで特賞を飾るページであった
背が低いために
先代巫女長と被って見えづらいが
少し見える着物と髪型
頑張って上げている両手は
去年現れたサキドリッコなのか
また現れて
奉納された品を見ている神と一緒に
つまみ食いでも
されたのだろうか
他の奉納品を差し置いて?
だが、鯛の骨を見る限り
さぞかし立派で大きい鯛だったんだろうな
それこそ思わず食べてしまうような
そんな事が書かれたページだった
「先にお気に召されたんじゃ仕方ないね!」
「罪悪感があった方がよ!
こういうのは一層美味いからなぁ!」
むくれている新王者に対して
ルカの祖父母は快活に笑う
「にしても同世代じゃなくってよ!
ホントによかったぜ!」
「アッツすぎてサムケがしちまうよ!」
そんな言葉に4人は快活に笑い合う
今日は快晴
出航日和の朗らかな日の出来事だった




