46話 そんな事もある
開法学院では
11月の初めにある文化祭に向けて
10月中頃から文化祭の準備が始まった
進学科の教室にある机に
蠍のぬいぐるみ大小6体が飾られていた
色が違ったり
鋏や尾を振り上げたり
尾の先にはリボンがついたり
鋏にバレーボールが挟まれていたり
なんか大きな目まで付いている
椅子に座る机の主は
ウイに抱かれて、膝に座っており
顔は微妙に怒る様な
どうしたらよいかという顔をしている
「好調に売れてるわよ」
ウイはシンに伝える
「だからなんで私が知らないのよ」
不貞腐れたように言うシンの前に
そっとノートパソコンが差し出され
机の上に置かれる
パソコンの画面には
再生を待つ動画が映し出されている
「え?待って、なんでお母さんが?動画?」
再生を待つ動画の静止画面に
シンの母親が笑顔で映し出されている
「再生する」
ルカがノートパソコンを操作すると
動画が再生された
『はぁ〜い、シンちゃん元気ぃ?』
動画の中でシンの母親が座って
手を振ってシンに呼びかけてくる
『今回!な、な、な、なんと!
シンちゃんのぬいぐるみが出ちゃいます!』
ハイテンションでシンの母親が喋ると
カメラが引いていき
シンの母親が小さくなって
机の上に置かれている物と
同じ蠍型ぬいぐるみがカメラに映り込む
『それでね』
シンは動画を停止させる
「いつよ?いつ撮ったのコレ?」
「8月の終わりよね、たしか」
「うん、だったと思うの」
ウイとヒルの答えに
シンがエッ?って感じでいると
「先に進めるよ」
エルが再生をクリックする
『私の友達からね
契約を結んで欲しいって言われてるのよね
もちろん!シンちゃんの友達からもよ』
カメラが周りを映すと
シン以外のみんなとその母親達が
イェーイってしながら
蠍のぬいぐるみを持っている所が映されて
カメラが再びシンの母親が映し出す
『お母さんが公式に認めちゃったから
なんかね色々と話が進んじゃって
シンちゃんが知る頃には
もう止められないと思うのよね‥‥
お母さん、悲しいわ』
笑いながら、涙を拭き取る仕草をする
動画を再びシンが止める
「アンタ達が‥‥
やめて!こんなの見たくないのよ
これ以上見たら認めた事になるから‥
いやよ!離して!」
ウイに拘束されているシンの横から
エル、ヒルがシンの手を取って
再生ボタンをクリックさせる
『9月の終わりぐらいに
バレーをやめるとか言い出しそうなのよね
約束がどうとかってタダをこねてね』
シンの母親は蠍のぬいぐるみを膝の上に置いて
ぬいぐるみの鋏を持ちあげて
シャーっと言って笑う
『予約も販売も
ファンクラブ限定にしてあるんだけど
シンちゃんが
どうしても嫌って言うなら
周りの子を説得させなさいね』
シンの母親は
膝上にあるぬいぐるみの鋏を
ブンブンと振りながら
『どんな事があっても
私はシンちゃんの味方よ
それじゃあ頑張ってね、バイバァイ』
ここで動画が終わる
シンはうなだれていた
ダラーっとしたシンを
ウイが笑顔で抱きしめている
シンは確かにバレーをやる約束が
半年だったのを思い出して
母親が言った通りに
ついさっきにダダをこねたのだ
それを見たルカ、ウイ、エル、ヒルは
今日の準備で
クラスメイトが持ってきていたぬいぐるみを
貸してもらい、動画を見せたのだ
「どのくらいいるの?」
うなだれながらシンが聞く
「公式と非公式のファンクラブで
合わせると、ザッと4桁以上はいる」
「はぁ?」
ルカの答えにガバッと顔をあげて
シンが声を上げると
クラスメイト全員がシンを見ていた
「当然だけど
クラスメイトは全員入ってるわよ」
「誰が‥‥やめて!コッチに来ないで!」
ウイの言葉に反論しようとして
前から笑顔のクラス担任である
サリの母親がゆっくりとシンに近づいてきた
「文化祭の出し物は展示会に決まっていました」
サリの母親が言った通りに
先週、クラスの多数決で展示に決まったが
なんの展示かは決まっていなかった
というより、教えてもらえなかった
「何よ!何をする気なの?
出し物の私物化は許されないわよ!」
シンは抵抗を見せるが
クラスメイトは真顔でシンを見たまま
時間が止まったかのように動かなかった
「な‥‥何よ‥‥なんなのよ」
「そう‥‥そうですよね
公共の私物化は許されないわね」
戸惑うシンにサリの母親はゆっくり頷き
隣にいたクラスメイトから紙を受け取る
「なんと理事長が快諾したのよ!
蠍ちゃんグッズ展示会と即売会を!」
サリの母親は
バッ!っとシンの前に
持っていた紙を出して言った
「なん‥‥?えん?はぁ?」
混乱して次の言葉が出せないシンに対して
ウイ、ヒルが笑いながら言う
「あれから約2ヶ月間もあったのよ!」
「色々なシリーズを作ったの!」
シンはハイテンションな2人を
もういいですって虚な感じで見てから
天井を見上げる
「ファンクラブの子達が作った
蠍ちゃんの展示会なんだよ」
ウキウキしながら、エルが教えてくれた
「それを売るの?」
「私と父親は出品もするし、買いもするわね」
シンはゆったりとした動きで
サリの母親へと顔を向けて聞くと
意外な答えが返ってきたので聞き返す
「先生の父親が?」
「ええ、ファンクラブの会長で
理事長でエルフ長老の1人」
「私がそんなのを説得できんの?」
サリの母親は、シンに向かって
フッと笑うと
「シンちゃんの母親に
ファンクラブ会長を誠心誠意
精一杯やらせて頂きますって頭下げてたわよ」
「休む!もういいです!休みます!」
シンはウイに抱かれながら
暴れだしてワガママを言い出すが
「ポーのおばあちゃんが
蜂に叩かれる蠍ちゃんシリーズを
許してくれたくらいだから
絶対に寮に立てこもれないと思うわよ」
ウイが言うと
シンの前に2体のぬいぐるみが置かれた
蜂のぬいぐるみの持っている竹刀が
蠍のぬいぐるみの頭を叩いている
蠍の目はバツになっていて
涙が滲んでいた
「誰か助けなさいよ!」
シンはキッ!となって叫ぶと
「久しぶりに聞く」
ルカは喜んだ
「サリちゃんの言う事には逆らえんな」
サリの祖父の言葉に
「娘と孫にいい様に丸め込まれて
大丈夫なんですか?」
サリの祖母は言う
「あの子達が言う様に害はなかろう」
少し、ウッ!っとなって
サリの祖父は言い訳を言う
「推しかファンか知りませんが
大概にしないと嫌われますよ」
「そっちも色々とやっとるだろう
教師が生徒から出禁をくらうなどと」
「あら、可愛いじゃありませんか」
サリの祖母は話ながら
少し大きな蠍ちゃんの尻尾部分を縫っている
「物珍しいからと手を出してからに
飽きても知らんぞ」
「あなたも最近はシンちゃん推しでしょう」
サリの祖母はコロコロと笑いながら
蠍ちゃんの尻尾をクイクイっと動かして
また縫い始める
「あなたも色々とやって飽きたら知りませんよ」
「飽きが来たら、その時はその時だ
そういうものだったと諦める」
「まったく呆れた人」
サリの祖母は少し息を吐いて
蠍ちゃんを仕上げていく
「推しも熱が冷めたら飽きていく‥‥か」
「好きなら理由も理屈も
いらないんでしたっけ?」
「サリちゃんは最推しだな」
「それは否定しませんけども」
サリの祖母は夫と会話をしつつ
蠍ちゃんを目の前に置き
全体のバランスを見て頷く
サリの祖母は納得したのか
蠍ちゃんの胴体に赤い布を巻きつけて
背中の部分で、ちょうちょ結びをする
「出品するのか?」
「ええ、手間賃程度の値段で出そうかと」
夫婦の間で
少し大きな鋏と尻尾をフヨンフヨンしながら
黒い体には
赤い布をちょうちょ結びにされている
蠍ちゃんのぬいぐるみがいた
「これは‥‥少し派手ではないか?」
「この方がシンちゃんの目に止まるかと思って」
言いながら、サリの祖母は
蠍ちゃんの鋏を持って
上にしたり、下にして遊び
サリの祖父の方に蠍ちゃんを向けて
シャーっと言って笑う
「どんな形にせよ
作った物を評価されるのは嬉しいことよ」
「そうだな」
そう言いながら
サリの祖父は蠍ちゃんを撫でていく




