45話 成長と喜びの影
ポーの祖母はため息を吐く
最近ずっと同じ事で怒っている気がする
さっきもお風呂場に駆けていく孫と
その友達達を廊下で怒っていた
手に負えない程ではないと思う
微笑ましく思うが
今で、これなのだ‥‥この先はと思って
寂しく笑う
成長してくれた
それこそ真っ直ぐになってくれた
手のかかる子ほど可愛いと言うけど
自分の手でなく
他の手で‥‥自分で成長した事を
少し寂しく思う
お風呂場の手前で、とっ捕まえた人族の子
シンちゃんは本当に良い子だ
孫の事もあるから、そう思ってしまう
そう思うからこそ
なんか構ってしまう
いや、構うような事をするから
構ってしまう
さっきも頭にチョップしてやった
人族の子だ
加減を間違えて大変な事になるのは
避けなければならない
この頃は叩こうとする手を掴もうとしてくる
生意気にも真剣白刃取りみたいな事をやって
手を掴もうとしてくる
何を躍起になってんだい
孫にだって掴ませやしないよ
まだまだだね、アンタらは
私の娘が置いていった子供
わかっちゃいるさ
私達の事だからね
私も親にされて、娘にした事だから
わかっている
こういう事を良しとしない種族から見ると
駄目な事をしているようにも見える
また、理由がわかっていない子供からすると
理不尽極まりないだろうと
かつて、自分が思っていた事を
孫が思っている事もわかっていた
孫に‥‥
ポーに説明をした
こういう事だからと
何度も何度も説明した
私が昔された説明を繰り返し何度も
納得してくれた
それでも周りを羨ましく思いながら
成長してくれた
それでも納得してないだろうねと
思って‥‥甘やかしてしまった
剣道を教えたキッカケは‥‥
なんだったろうね
なんとなくだったような気がする
面白がって、楽しそうに
メキメキと強くなって
二つ名をもらうくらいに強くなった
残影という二つ名
ビックリしたけど
褒めちぎってやったが
賞状を机にしまって、飾りもしない
納得してないんだろうねと思った
欲しいものが
望みもしないのに手に入る感覚
望んで挑んだのに手に入らない感覚
わかるよ
ポーは、そのうちに達観したように
周りを見るようになった
自分が手の届く範囲を
好きなように操って
自分が手の届かない範囲には
近寄りもしない
いつも納得しない
否定ばかりしてダルそうに過ごす
どこかにフワフワと飛んでいきそうな
でも、仕方ないよ
私達は、そういうもんなんだと思って
私は達観していたのかもしれない
ポーがウキウキしていたのは
久しぶりに見た気がする
何を聞いても
はぐらかすけど
ダルそうに歩いているけど
声色が違う、リズムが違う
そんな時に
面白い人族の子がいると
昔馴染みに聞いた
あの頑固な奴らが気になっている?
孫達が夢中になっている?
ったく、孫バカ共が‥‥は?私の孫も?
どの子が?この子?
確か‥‥姉達と一緒に来た‥‥
どっかのバレー部‥‥はぁ?
なんで、受けとめて‥‥
これは大丈夫なのかい?この子は?
私達の中でも怒ると
手をつけられなかった昔馴染みの孫が
力を解放して叩きつけたボールを
ほぼ無傷で受けとめて
私達の中でも誰よりも
自分の種族を
誇りに思っている昔馴染みの孫が
力を解放して打ち出したボールに
狙撃された動画を見ていた
怪我をしたからと寮に戻ってきたから
客室を貸して安静にさせといたのに
夜遅くまで電話して騒いでいたから
大丈夫なんだろうと思っていたのに
こんな事になっていたとはねぇ‥‥
そこからのポーは見ていられなかった
何をしても、何をやらせても
上手くいかなくなって
自分にも、周りにも
段々とイラつきを隠さなくなっていった
夏前のある日に
朝早くに出て行って
夜になって、やっと帰ってきた
怒ってやろうとしたら
いきなり声をあげて泣き始めた
私に抱きついてきて
ぐしゃぐしゃになって泣くポーが
聞いてもいないのに
途切れ途切れ話した内容に
悲壮な気持ちになる
ポーが抱く気持ちは‥‥
なんだってこんな事に‥‥
相手は女なんだよ
やめておくれよ
こういう事になった例は知っている
知っちゃぁいるんだが‥‥
私達の種族にとっては
ましてや、この子にとっては‥‥
こんなのは碌な結果になった事が無いんだよ
「まったく厄介な事になるよ‥‥コレは」
ポーは私を見ながら
何度も何度も謝っていた
そうじゃない
そうじゃないんだよ
アンタが悪い訳じゃない
そう‥‥アンタが謝る事じゃないんだよ
その気持ちは大事なもので
恥ずかしい事でも
誰かに責められる事でもないんだよ
ただ‥‥ね
本当に‥‥ただ‥‥ね
わかっておくれよ
集中ができなかったのか
試合は散々なものだったが
それでも全国大会で成績を残した
私の昔馴染みの家に
泊まって帰って来た時に
なんて声をかけようかと悩んでいたら
見た事もないような可愛い笑顔で
浮かれながら部屋に入っていった
部屋で気分良く鼻歌を響かせ
机の引き出しから
くしゃくしゃになった賞状を取り出して
キレイにシワを伸ばして、私に言ってきた
「おばあちゃん!これ飾るから!額縁ない?」
本当に何があったんだい?
昔馴染みから聞いた事を繋ぎ合わせても
あんまりわからなかったが
段々と可愛くなっていくポーと
やかましくなっていく寮
久しぶりに種族のお偉いさんの役目として
呼ばれた事で、嫌でもわかった
「寮長のおばちゃんじゃん
どう‥‥ってなんで声を拾ってんの!」
こんな場で褒めてやったのに
久しぶりにキチッとして褒めてやったのに
いつもいつもコイツはぁ
渡そうとした賞状を丸めて
本当に久しぶりに竹刀を振るみたいに
ぶっ叩いてやった
夏休みが終わる頃
ポーがスッキリしたような
望んで困難に挑むような
どんなことがあっても
絶対に勝ち取ってやるような顔をして
私にとびっきりの笑顔を見せてくれた
まったく感謝してるんだ‥‥
ポーの祖母はそこまで思い返した所で
廊下から騒ぐ声が聞こえる
やめ‥‥やめて!誰か止めなさいよ!
わかってんでしょ!また来るわよ!
ポーもわかってやってんでしょ!
感謝しようとした瞬間にこれだ!
そう思いながら
ポーの祖母はゆっくりと椅子から立ち上がって
何個も壁にかけてある鍵の1つを取り
管理室から出ていく
「またアンタらかい!
静かにしろって意味がわかんないのかい!」
シンを担ぎあげたポー、ルカ、カヤが
管理室から出たポーの祖母を見てから
シンをゆっくりとおろす
「寮長の方が、よっぽどウッサイし」
生意気に口を尖らしたシンが呟くと
周りがブッと吹き出す
ポーの祖母はスタスタと歩き
シンに近づいて
フェイントも混ぜながら右手で
素早くシンにチョップすると
シンが真剣白刃取りを成功させる
「ヨシっっづだぁ」
右手を止めて喜ぼうとしたシンは
ポーの祖母から
誰も見えなかった左手で頭を叩かれた
「まだまだ甘いね
今夜も泊まるんだろ
あんまり散らかすんじゃないよ」
ポーの祖母は驚いているポーに
左手で持っていた広い客室の鍵を投げて渡す
「ばあちゃんが二刀?初めて見た」
鍵を受け取りながらポーが言うと
「おや?私の二つ名が
なんで伝説って言われてるか‥‥
まぁ、なんでもないよ」
ポーの祖母はニヤッと笑いながら言いかけて
誤魔化しながら、管理室に歩いていく
シン達は、ポーの祖母にお礼を言って
週末にいつも借りている客室へと歩いていく
この歳になると
昔の事をなんでもかんでも
良い話のように話してしまう
改めて思い返すと
赤面して悶えるような事でも
なんか自慢話や面白い話のように
語ってしまう
私の二つ名は2つある
1つは刀影
昔のお偉いさんが二刀を扱う私を
対戦相手が二刀の内
一刀が影に隠れて見えないと
そう言った言葉を
何かの言葉にかけて付けた二つ名だった
嫌だった!
嫌いだった!納得いかなかった!
何が影だ!私は堂々とやってんだ!
だから、ムキになって二刀を一刀に変えて
全国大会で優勝した時に
自分で決めた二つ名を叫んで
認めさせて付けさせた
その当時は
二つ名を2つ持つなんてなかった事だった
ましてや、自分で名乗るなんてね
まったくね
今やっている奴を見たら
ぶっ叩いて
優勝したからって騒ぐんじゃないよ!
そうやって、一括してやると思う
‥‥本当に歳を取ったもんだね
朝にする寮の周りを掃除する
いつもはランニングをする子が
今日は現れなかった
なんか調子が狂う気がするけど
そんな日もあるかと思いながら
ホウキを管理室の前に立てかけて
管理室に入るとポーがテレビを見ていた
「珍しく早いね
いつものチャンネルに変えとくれ」
「あいよ〜ん」
ポーにそう言って横に座ると
ポーは立ち上がって
テレビのリモコンでチャンネルを変える
画面に映し出されたものを見て
私は固まった
〔私は!私は蜂光だぁ!
わかったか!聞こえたか!
私をそれ以外で呼ぶなぁ!〕
昔の私が画面の中で‥‥
荒ぶって咆哮していた
管理室の入り口へとゆっくり振り返ると
入り口や小窓でニヤニヤとしている孫達が
私を見ていた
「伝説の蜂光ちゃんの咆哮でした!」
ポーが明るく言うと全員が笑い出す
「アンタらぁ!覚悟はできてんだろね!」
私が叫ぶと
孫達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した
「キャー!蜂光ちゃんが咆哮したぁ!」
「まだ言うかぁ!」
管理室から飛び出す時にホウキを持ち
寮から飛び出す時にもう1本持って
孫達を追いかける
「アンタら!
この為に朝のランニングをサボったね!
この悪ガキ共が!」
その朝は騒がしく始まった
2本のホウキを持った寮長が
10人の生徒を追い回して
全員を討ち取った
10人の生徒は叩かれた頭やお尻を撫でながら
昼前まで寮から門までの道周りを掃除していた
寮長と一緒になって
笑いながら、たまに怒られながら
2本のホウキを持った元気いっぱいの寮長は
10人の生徒を少し離れた所で見守りながら
「まだまだ
手に負えないって事は無いね」
笑顔で高くなり始めた秋の空を見上げていた




