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43話 特効薬と治療計画

サリの母親はため息を吐きながら

ピアノ鍵盤を触ると綺麗な音が鳴り響く


開法学院の音楽室で待っておくようにと

教頭先生

サリの祖母から言われたので

落ち着かない気持ちで待っていた


おそらくは怒られる

昔からここに呼ばれた時は

怒鳴られるとかは無いが

他に見せないような顔をして

厳しい言葉で静かに叱責される


理由はわかっていると

ゆっくりと目を瞑り思い出す


苦労、挫折、喜び、感動

そして、成長

それら全てを共に過ごせる教師という職業

まさに天職だと思っていた


娘が小学生になった時に

思い知った現実があった


母親としての私

教師としての私


家で母親として娘を叱り

学校で教師として娘を褒める

その逆もあった、よくあった

私の立場は変わるけど

娘の立場は変わらない


よくある話だ、本当によくある話

私が未熟だった、それだけの話だ


混乱していく娘に言われた

〔ママは私が嫌いなの?〕

不覚にも学校で‥‥

職場で号泣してしまった


なので、離れた

断腸の思いだった

1番見たい、見ておきたかった時期を

逃してしまう

でも‥‥‥

これ以上はお互いによくない


そう思った

でも‥‥中学になったら娘も

いやそんなの駄目!

決めたのよ!私は絶対に揺るがない!

シンちゃん?誰それ!

ヤダ!ウソ!カワイイ!ネ!


サリちゃんと一緒にハシャいでしまう

こんなにも楽しい事はない

学校では進学科にシンちゃんが入ってきた

悩んでいたら、ファンクラブができた


ファンだからね、いいよねって

雰囲気になってシンちゃんにかまう

相手が距離を取ってくれるから

大変な事にならない

でも‥調子に乗っていたのかもしれない


貰えたら、満たされたら

欲しくなる、もっともっとって思ってしまう

駄目なのもわかっている


会員No.2だった時に悔しくなった

サリに頼まれたからと

サリの祖父で、私のお父さんが

会員No.1の会長になった

納得はした‥‥けど、悔しかった


母親から言われた

誰かから引かれたと思うから

これだけでは足らないと思うから

悔しくなるのよ

もっと周りを見なさい

こういうのは引き算ではなく

足しても壊れない器を作りなさいと



サリの母親は携帯を取り出して

とある写真を画面に映して、深いため息を吐く



シンちゃんが他校の制服を着ていた

それはいいとしても

いや、よくないけど

いつも私の前では不機嫌で、懐いてくれなくて

真面目で、進学科なのにスポーツ科のエース


それが

こんな眩しい笑顔で

こんな校則違反の格好をして

こんな知らない子達と

こんな楽しそうに


でも、いいのよ

推しが楽しそうならね!

いや、駄目よ!

校則違反をしているわ!



サリの母親は深いため息を吐く

このところ、ずっとこうだと思う


ふと気がつけば

後ろから人の気配がする

母親が‥‥いや、教頭先生が来たのだろう

教師の気持ちに切り替えて

携帯をポケットにしまいながら

振り向いて


サリの母親は無意識に

ポケットから携帯を取り出して

目の前にいる人物の写真を撮る


見たかった、触りたかった

できるなら、動いている姿を見たかった

そんな人物

宗鳳学院中等部の改造制服を着て

ギャル全開のメイクと髪型

不機嫌そうに半眼になりながら

ガムを噛んでいるシンがいた


「‥‥‥シンちゃ‥‥フジムラさん

駄目です‥‥校則違反が過ぎますよ」


携帯を持つ右手の手首を

左手で押さえて、携帯を下に向け

プルプルと震えながら、サリの母親は言った


シンは不機嫌そうにしながら

制服の上から着ている

少し大きめで前を開けたパーカーの

ポケットに手を突っ込んで

ガムをクチャクチャと噛んでいる


「シンってば、ちゃんと言ってよ!」


音楽室に入ってきて

シンに声をかけながら歩いてきたのは

開法学院の改造制服を着て

ギャル全開の髪型、メイクをした

サリだった


サリの母親は膝から崩れ落ちながら

携帯を2人に向け、動画を撮り始める


「SSR‥‥いえ、URよ‥‥2枚抜きよ

生きてでぇ〜‥‥よかっ‥‥

違う!サリちゃん!そんな格好!

ああ‥‥駄目よ!してはいけないの!

解釈が!違うわよ!違うの!

くぅ〜‥‥校則違反よ!

違う‥‥‥カワイイの

違う!駄目よ!しっかり‥‥

ああ‥‥ああ‥‥教師なのよ!

違う!これも良い!」


混乱しながらも

サリの母親は携帯を2人に向けて

表情をコロコロと変えながら動画を撮る


「先生!私達は先生が!」


2人の後ろから

叫びながら音楽室に入ってきたのは

進学科の生徒達とポー達だった


全員が開法学院の改造制服を着て

それぞれが考えたであろう

ギャル全開の髪型、メイクをしている


進学科の生徒達とポー達は

集まって、それぞれのポーズをとりながら


「先生が大好きです!!」

「ああ‥‥神‥‥‥」


声が合わさって大音量で告白された

サリの母親はヘブン状態になり

天井を見上げていた



辛い事もあった

我慢もした、精神もすり減らして

報われないと思いつつも

それでもやっぱり諦められずに

僅かな望みにかけて

祈って、祈っていた



サリの母親は不意に抱きつかれる

抱きついてきた子を見ると

1人は不機嫌そうな顔で見上げてきて

1人は満面の笑みで見上げてきて

声を合わせて言った


「「ママ!だぁいすき!!」」


サリの母親は号泣して

叫びながら2人を抱きしめた



その日

新学期が始まった日の放課後

学問を重視している開法学院の進学科の生徒が

真面目で知られた進学科の一年生達が

進学科の乱れと題した仮装をした


厳格で知られた教頭先生

真面目で知られた進学科の一年生担任

その2人が行列に紛れて歩いていた


仮装行列を見た生徒達は

楽しい事を考えるものだといった感じで

歓声を上げて、先生と生徒に拍手を送った


ただ‥‥違和感を感じたのは

何人かはスポーツ科の生徒が混じっていた事


何人かの生徒に抱きつかれ

鬱陶しそうにしている

宗鳳学院の生徒がいた事


それと

満面の笑みで緩みまくった顔をした

進学科一年生の担任が

まさにヘブン状態で動画を撮って

色々な生徒に抱きついていた事だった



開法学院に入学する生徒達には

その瞬間からファンクラブが存在する


偉業を達成した、人気が出た等で

公式にファンクラブを作った時に

誰も気づいていないが

全ては既存のファンクラブなのだ


そして、全てのファンクラブの会員No.は

1から始まるはずなのに

何故か0が存在する


会員No.0rigin


全ての生徒達を推しとする

そんな幻の人物が存在するらしいと

噂になっては、誰も信じずに消えていった



「小さな器に注いで溢れても

その下にある自分でも気づかない器は

全てを受け止めているものよ

だから、全員を全力で推してみなさい

自分の気持ちに欲張りすぎるのは

時にすごく、そして素直に気持ちいいものよ」


サリの祖母は仮装する生徒達を

満面の笑みで抱きしめる娘を

満足そうに見て呟いた後に


「それはそうとして

全員!指導室に直行ですからね!」


満面の笑みでそう言ったサリの祖母である

教頭先生を驚いたように見た生徒達は


「マジで!最悪なんですけどぉ〜」


と笑いあっていた



その後に何が行われたのかわからないが

進学科一年生のドアには


〔教頭先生は出禁です!!〕


書き殴られたような字で書かれた紙が

しばらくの間貼られていた

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