42話 そういう病
サリの母親は
悲鳴に近いような声をあげて目覚める
しばらくの間、荒い息を整えて
落ち着きを取り戻したら
ベッドから降りて服を着替えていく
最近はずっとこんな調子なのだ
タオルや着替えも用意してあるので
サリの母親は慣れたような
決められた動きをしていく
原因はわかっている
わかっているが
どうしようもないと思っている
「ああ‥‥
本当にどうしよう」
新学期が始まった
夏休み中にあった全国大会で
優秀な成績を残した者達は
新学期最初に行われる全校集会で
壇上に呼ばれて賞状を受け取る
バレー部は
代表の主将が壇上に呼ばれて
賞状を受け取っていた
その後は教室に戻って
宿題の提出や連絡事項を伝達される
午前でその日の行事は終了となり
明日からは通常通りに授業が再開される
シンは体育館での
長い式典のようなものが終わり
自分の机に突っ伏して、グデーっとしていた
「なんであんなに長いのよ」
「まぁまぁ」
「そういうもんだよ」
シンがウンザリしたように言うと
エル、ヒルが慰めてシンの頭を撫でる
「先生からの連絡事項を聞いて
帰るだけだなんだしね」
「楽」
ウイがシンを宥めるように言って
ルカは窓の向こうを見ていた
シンもルカと同じ方を向いて
椅子に背中を預けて伸びをする
進学科は他の学科より先に夏休みが終わる
その為、シン達は宿題等を
もう出してあるので
今日は先生から連絡事項を聞くだけの日で
シンは、ほぼ手ぶらで学校にきていた
「そういやさ‥‥」
シンは何か言おうとして、周りを見渡す
何か視線を感じた気がしたが
誰もシンを見ていない
普通の、いつもの風景があり
同級生達は何人か集まって
お喋りをしていたり、席に座っている
そう違和感といえば
「ルカ?どうしたん?」
シンがルカに話しかけるも
ルカは窓の向こうを見たままで
シンの方を向かなかった
いつもはくっついてくるルカが
今日は、シンの方を見もしない
「別に‥‥‥
別にいいじゃない
私だってこういう日はあるわよ
楽しみにしてたとか
色々としたい事とか
いいじゃない‥‥私だって色々あるのよ」
「えっ‥‥あ‥‥うん」
ルカが勢いよく喋りだしたので
シンは驚いてしまう
「ほらぁ、ルカったらね
後で遊ぶんだからね、もうちょい我慢ね」
「そうそう、ルカったらねぇ
もう慌てないでね
楽しみなのはわかるけどさぁね」
エル、ヒルが
ルカとシンを交互に見ながら
話しているのをシンはジッと見ながら
「まぁ、そうなんだ」
今日は部活もないので
この後は買い物をして、アヤノの所で遊んで
ご飯食べていきなさいって言われてるから
‥‥‥‥
別に特別でもないよね
そう変わった事といえば
「なんか喋り方がおかしくない?エル?ヒル?」
シンの言葉に
エル、ヒルは笑顔のままでシンを見ていた
シンが何かおかしくないかと
椅子から立ちあがろうとした時に
教室のドアが開き
先生が入ってきて教壇に立つ
「担任の先生が体調不良という事で
教頭の私が代理でホームルームを行います」
サリの祖母が教壇で話し始めた
シンは前に
会った時は優しくて
柔和なおばあちゃんって感じだったのに
今はピシッとした厳しそうな雰囲気の
サリの祖母に驚いていた
サリの祖母は今学期にある行事と
進学科が受ける授業の軽い説明をして
「さて、今学期の説明は以上となります
何か質問はありますか?」
サリの祖母が問いかけるが
誰も発言せずに少しの間、静かになる
「ありませんね」
シンは終わったぁと思っていると
「では、本題に入りましょう」
サリの祖母が言いながら
教壇からドアの方に避けると
教壇に1番近い子達や窓に近い子が動きだし
授業でも使うプロジェクターが用意され
カーテンを引いて、教室が少し暗くなる
シンは急に始まった事に驚いていたが
次の瞬間から心臓が早鐘のようになりだした
「教頭である私が得た情報では
我が校の生徒が、他校の制服を着て
風紀の乱れとも取れるような
発言、行動を繰り返していたと聞いたわ」
プロジェクターで
教室の前に映し出された画像を見ながら
サリの祖母は落ち着いた声で言う
「夏休み前にハシャいでも良いですが‥‥
我が校の生徒として
節度を持って過ごすようにと
何人もの先生に言われたはずなのに‥‥
この子を知っている人はいますか?」
サリの祖母が指をさしている画像は
宗鳳学院中等部の制服をアレンジした物を着て
短パンを履いている為に
スカートが捲れ上がるのを
気にしないようなポーズをとっている
15名の少女達が映る画像
真面目そうな格好をしたおさげの少女と
その隣にいる恥ずかしそうにしている少女を
全員で囲むようにしている画像で
全員の顔には軽くモザイクがかけられている
画像の中でハシャぐ長い髪の小柄な少女を
サリの祖母は指差していた
「そうですね
コレではわかりませんね」
プロジェクターに
つながっているパソコンを
いじっているルカに合図を送ると
長い髪で顔にモザイクのかかった小柄な子が
アップになる
シンはどうすればいいのか
モザイクが、かかっているから
もしかして
「では、こうなるとどうでしょうか」
サリの祖母がそう言うと
モザイクが外れて
メイクをしたシンが笑顔で映し出された
「教頭先生!あの時にいたから‥‥
見てたから知っていますよね!
なんで、こんな‥‥‥えっ?なに?」
シンが叫んで、サリの祖母に抗議するが
教室にいる全員がシンを静かに見ていたので
シンは、言葉の勢いを失う
「そうですね、シン・フジムラさん
私は知っています
私個人としては微笑ましく感じますが
教師として許せるかと問われれば
それは違います
わかりますね、シン・フジムラさん」
「‥‥はい」
サリの祖母が話す事にシンは同意する
「ですが、シンちゃん
ソレはソレ
コレはコレと言う言葉があるように」
「‥‥は?えっ?」
柔和な笑顔を見せてシンを見てくる
サリの祖母にシンは動揺してしまう
「今、担任の先生‥‥私の娘ですが
とある事があって、体調が悪くなっているのよ
私のように割り切って行動すればいいのに
私人と公人の板挟みで動けなくなっているの」
サリの祖母が笑顔で話しながら
手を2回叩いて、パンパンと鳴らすと
教室のドアが開いて
ポー、カヤ、リン、アヤノ、サリが
入ってくると同時に
教室にいた生徒達が机の上に
パンパンになっているカバンを置き始める
「だからね、シンちゃんにお願いよ
聞いてくれたらコレは不問にするわ」
「だからって‥‥‥なんでコレを」
サリの祖母が手を合わせて
シンにお願いのポーズをしていると
シンの机にはウイが持ってきた
宗鳳学院中等部の改造制服が置かれる
シンが紫尾に返そうとした所
押し付けられた物で
部屋のクローゼットにしまっておいた物だ
ポー、カヤがルンルンで化粧の準備を
エル、ヒル、ルカがウキウキで髪のセットを
ウイはホクホクとして制服をシンに合わせる
リン、アヤノは
セッセッとカメラを用意していた
「シン、お母さんの為によろしくね」
「教頭先生だからってね!
こんな脅迫や横暴が認められていいはずが」
サリがシンに笑顔で言うと
シンは開法学院の制服を
剥ぎ取られながら反論する
「あら?ここは治外法権よ」
「学校で!教師が生徒に言うセリフなの!」
サリの祖母が、しれっとシンに告げると
シンは抵抗しながら叫ぶ
サリの祖母は
落ち着いた優しい笑顔を浮かべながら
シンに諭すように言う
「違うわよ、シンちゃん
いいこと、ここにはね
アナタのファンしかいないのよ」
「‥‥‥ファ‥‥えっ?」
戸惑うシンにサリの祖母は続ける
「最近ね
アナタのファンクラブの会員が
3桁を軽く突破したのよ
喜ばしいことよね
だからかしらね
ファンなら、ファンだからこそ
こういうレアなシンちゃんを生で見たい
一緒になって遊びたいって気持ち
わかるわよね?シンちゃんには」
サリの祖母は何度も頷くながら言うと
周りにいる生徒やポー達も頷く
「わかるわけあるかぁ!」
シンは叫んで抵抗するものの
段々と変身させられていく
「わからないなら
教師として、先を生きるものとして
推しえてあげないとね、シンちゃん」
サリの祖母は
キャピキャピしながら言っていた




