40話 雨のち快晴
シンが友達と笑いあって
食事をしたり
外で花火をしたりしている
そんな光景をシンの母親は見守っていた
全国大会の1回戦では
変な汗をかいていたものの
あれよあれよと優勝して
力ある種族の名前まで頂いて
本当にすごい子になっていった
今もこんな美味しい料理やお酒を
出してくれる所でお祝い会を開いてもらったり
いつまでも子供と思っていたけれど
少しの寂しさはあるけれど
この光景が見られるならと
普段おしゃべりができない方と
おしゃべりを楽しんだり
ハリセンを作ってみたり
私が娘の凄さを教えられているみたい
本当にもうね
「さっ!子供達はそろそろ寝る準備しな!」
アヤノの母親は娘達に向かってそう言う
えぇ〜と抗議が上がるも
お風呂に行く為にゾロゾロと
店の奥に入って行く
全員が行ったと思ったら
シンだけが戻ってきて
シンの母親の膝に頭に乗っていた
蠍のぬいぐるみを置いた
「いいって言ってくれたから
お母さんにあげる」
そう言って店の奥に走って行きながら
「頑張って取ったから」
シンはそこまで言うと
母親の方を照れたような笑顔で振り向いて
「頑張ったんだからね」
サッと店の奥に入って行く
シンの足音が聞こえなくなって
静かになっている店内に違和感を覚えた
シンの母親は周りを見ると
「この‥‥この熱さは‥‥
これはねぇよ
これは駄目だ」
さっきまで快活に笑っていたルカの祖父が
泣いていた
その隣に座っていたルカの祖母が
涙目で夫の肩を叩く
「まったく‥‥泣くヤツがあるかい
こういうのはね‥‥笑ってやるもんだよ」
リンのお爺様は鼻をすすって上を向いて言う
「やぁ‥‥いけないねぇ
最近は‥‥本当に涙脆くて」
「ホントですよ」
リンのお婆様が隣に座る夫の姿を見て
ふふっと笑っていた
誰もが黙って何かに浸っている店内で
シンの母親は頭を下げる
「皆さんには
いえ、皆様には感謝しています」
視線がシンの母親に集まる
「あの子が、今こうして笑顔でいられるのも
皆様と周りにいる友達のおかげであると思っています」
シンの母親はグスっと鼻をすすって
「去年のシンは見ていられない状態で
親として何をしていいのか分からず
色々とするんですが、空回りばかりで」
皆はシンの母親が言うことを聞いていた
「あの子がよくない事をされていたのは
わかっていたんです
ですけど、何もできず‥‥
でも、今笑っているのにすごく安心し‥‥」
そのままシンの母親は泣き出してしまった
双子の母親が手元にあったタオルを
シンの母親に渡す
「ああ‥‥そういや‥‥
やってないだっけか?」
アヤノの祖父はキセルを取り出して
草を詰めて火を付けながら言った
「覚えてるぜぇ
なんせよ!ワシの言葉を遮りやがったからな」
ウイの祖父もキセルを持ち出して
アヤノの祖父に火をもらう
シンの母親は顔をあげて
声のした方を見ていた
「それじゃあ
全然分からないでしょ、もう」
「去年にね
シンちゃんも泣いたのよ、ここで」
アヤノの祖母が男達を軽く叱り
足らない所の説明をしようと
ウイの祖母が言った
「私達がね
よくやったって言うのに
シンちゃんは
やってないって言い返してきたのよ」
リンのお婆様の言葉に
シンの母親は頭を下げようとして
リンの母親に止められる
「違うのよ
シンちゃんは
小学生までしかバレーができないと思っていたのよ
だからね
是が非でも欲しいものがあったらしいのよ」
リンの母親は優しく言って
シンの母親を見て笑う
「ワシらはのぉ
若い頃の色々と忘れていた事を
シンちゃんを通してもらっておってのぉ」
「そうね
なんだか楽しくてしょうがない気持ちとかね」
双子の祖父母は笑い合って言う
「サリちゃんが
シンちゃん、シンちゃんと言うていたし
そこの悪友共にも聞いたがな
こんな事になるんなら
もっと最初から来とけば良かったと思っておる」
サリの祖父は目頭を抑えて
震えながら言う姿を見て
サリの祖母がふふっと笑う
サリの祖父の悪友達は
だから言うたじゃろうとか言い出した
シンの母親はエッ?エツ?という感じで
困惑していると
アヤノの祖母がシンの母親の膝の上で
フヨンフヨンしてる蠍のぬいぐるみを指差して
「是が非でも欲しかったって言ったのよ
原種である私達の娘を
それこそ、力ある子達を向こうにまわしてね」
「それでも絶対と無理に挑んだのよ
‥‥あるわけが無いのに
けどもあるかもしれない可能性にかけてね」
リンの母親に言われて
シンの母親は膝にある蠍のぬいぐるみを見る
「私達にとってはあんな危ない目にあってまで
取ってくるものでも無いって思っても」
ウイの祖母は静かに寄り添っている
ウイの両親を見て言うと
「ワシは‥‥そうだ!ワシの時は!
この手の半分にも満たない魚だった!
どうだ!スゴイだろうと!
獲物が逃げ回って
岩に当たりそうになったが
最後にはワシが勝った!と
母に見せびらかした!」
ルカの祖父が泣きながら大声で言う
「私は忘れましたよ」
「お前は覚えとるかのぉ?」
「あなたが持ってきたものは
大事にしまってますよ」
「エッ!嘘!なんだったっけ?」
ルカの祖父が言った言葉を皮切りに
そこやかしこで昔話に花が咲いた
シンの母親は膝上にある蠍のぬいぐるみを見て
少し突くと、何よ?って感じで
フヨンフヨンと蠍の体全体が揺れる
それが愛しくて!誇らしくて!
可愛くて!また泣き出してしまう
「アナタの子もスゴイけど
ウチの子達もスゴイの!」
「私の所だって、頭はアレだけどいい子よ」
「サリちゃんが可愛さで負けるわけないわ
頭はアレだけど」
「頭がアレばかりね
私のとこもだけど」
「私の子は熱くなると見境が無くて困る」
母親達は子供自慢と同時に
相談の様な事を始める
「ねぇ、アナタも入ってくれない?」
「常識人が少なくて困ってんのよね」
「誰に言ってんのよ」
シンの母親はタオルで鼻と口を覆って
グスっとしていると
「ホントに‥‥ふふっ
こう見るとシンちゃんにそっくりね」
誰かが言った言葉に皆が笑う
泣いて笑うものもいた
そこで店の引き戸が開いて
ポーの祖母が入ってくる
周りを見渡してから
「おや?もしかして
いい所を見逃しちまったのかい?
頼むよ!もう1回やっとくれ」
ドッと皆が笑い
いやいや、実はなと語りだす
著名人が食べに来る予約必須な店がある
そんな店内の1番奥には
何も飾られていない棚が最近まであった
そんな何も無かった棚に
今は全国大会で
優勝したであろう生徒達の集合写真と
仲良くポーズを決めている少女達の写真が
数点飾られてある
今後はもっと写真が増える予定だ
飾っていなかった期間が長かったものだから
こういうものは飾り出すと
増えに増えるものだろう
そんな棚の上段で
もっとも目立つ場所には
空いているスペースあり
小さい和紙が置かれていた
〔蠍ちゃんを飾る予定地〕
と和紙には達筆で
そう書かれてあった
そして今
その和紙に二代目という文字と
製作中が書き足されていった
あんまり飾りっ気のない部屋の壁に
飾られたコルクボードには
色々な写真が貼られていた
そのコルクボードの右上あたりに
少し斜めに貼られた写真がある
写真には母親と娘が写っていた
娘はアグラをかいて座り
後ろから抱きしめてくる母親の首に
手を回している
母親は娘のアグラをかいている所にいる
蠍のぬいぐるみの鋏を掴んで
上にクイっと向けていた
まるでどうだ!スゴイんだぞ!
と言わんばかりの格好に仕立てている
写真の中で母娘共に笑顔
背景は透き通るような快晴である
そんなお気に入りが集まったコルクボードが
寮の飾りっ気のない部屋に飾られていた




