39話 お仕置きは必要
「お父さん!早く!早くってば!」
「わかっている」
「お母さんは先に着いてるって」
「さっきから落ち着きなさい」
サリの母親はサリの祖父を急がして
狭い道を歩いていく
「しかしだな、すごい面々が集まるもんだ」
「一緒に同窓会もできるし、いいじゃない」
サリの母親はサリの祖父の後ろに行き
背中を押す
「だから、早くってば」
「サリちゃんもシンちゃんも
逃げないから落ち着きなさい」
久しぶりにこういうのもいいなと
サリの祖父は思うが
もうすぐ店に着いてしまう
今日の目的地は【鬼肉】
全国大会で活躍した者たちを祝い
労う会がある
「じゃあ、開けるよ!」
「ああ」
店の引き戸を開け
挨拶をしようと声を出す前に
2人は、その光景にビクッとして
動きを止めてしまう
カウンター席と座敷には
好き勝手に座るサリの祖父の顔馴染み達がいる
その顔馴染みはニヤニヤと笑ったり
杯を掲げて飲むフリをしたり
プルプルと震えたりして
座敷の一角を見ている
引き戸を開けてすぐに目に入った光景
私が主役のタスキをかけて
頭にぬいぐるみを乗せたシンちゃんが
座敷で腕組みをしている
シンちゃんが向いている方向には
3人の子達が正座していた
リン、アヤノ、サリである
「「ああ!サリちゃーん!!」」
サリの母親と祖父は
初めて見る光景に叫んだ
「ねぇ、リンちゃん」
シンの甘い声に聞こえる
だけどコレは罠なのだ
バレバレなのよ、シン!
そう思いながらも
リンは横を向いてシンから目を逸らす
「コッチを向いていつもの可愛い顔をね
じっくりと見せてほしいな」
リンはシンの甘えたような言葉に
思わず向いてしまいそうになる顔を
気合いで横向きで固定する
正座するリンの前にいるシン
駄目よ!お願い!見たいの!
けど、罰が怖い!と
思いながらリンはシンの方を見ない
「ねぇ‥‥リンは私の事‥‥
見てくれないの‥‥
私はこんなに見てるのに」
「そん‥‥ブハッ!フックックッヒ!
嫌!ブッ!お婆様!卑怯よ、こんなの!」
シンの姿を正面から見てしまい
リンは我慢していたのが決壊して笑い出す
「ポー、よろしく」
「あいよん、シン」
リンの様子を見ていたシンは半眼になって
リンの後ろで立っているポーに声をかけると
ハリセンを右手に持ち
左手にハリセンのジャバラの部分を
シターン!シターン!としながら
ポーは返事をする
「アンタ!待って!待ちなさい!嘘よね!」
リンは振り向きポーを見て絶望する
ポーの頭には触角が出ており
力を全開に解放している
「大会で持て余した力を
今ココに!シンの為に捧げちゃう!」
ポーの片目が怪しく暗く光る
「シン!慈悲ッんぅ!!!」
リンはシンに縋りつこうと
ポーから目を離した瞬間に
思いっきりしなったハリセンが
頭に叩き込まれる
バツッ!!と音がして
リンが座敷に倒れ込んだ
「ねぇ、アヤノは‥‥
私の事を見てくれるわよね」
「今日の今は!今だけは許して!
お願い!シン!」
アヤノは天井を見て
シンから目を逸らして
必死になって命乞いをする
アヤノはリンが横で頭を手で押さえて
倒れもがいているのを横目で見る
「誰なの!あのハリセン作ったの!」
「はぁ〜い
シンちゃんが欲しいって言うから
しっかりと心を込めて作りましたぁ〜」
「はぁ〜い
私も心を込めたの〜」
アヤノが叫ぶと
アヤノの母親と双子の母親は
笑いながら手をあげて言っていた
アヤノは見ることが出来ないが
手をあげて楽しそうにしている母親を恨む
「アヤノちゃん」
「ちゃ‥‥シン!待って!お願い!」
アヤノは、シンの珍しい
ちゃん呼びに反応するが
天井から目を逸らさない
シンはアヤノに少し近づいて
「そうなんだ‥‥
嫌なんだね‥‥
ごめんね‥‥アヤノちゃん」
アヤノに言われて止まり
シンは悲しそうに遠ざかろうとする
「違‥ブハッアハヒャ!」
アヤノは思わずシンを見て爆笑する
タスキもそうだが
シンの頭上で揺れているリンのお婆様から
もらったぬいぐるみが駄目だった
「‥‥ルカ
アヤノは熱いのをご所望らしいわ」
「任せて!ヤケドさせてやるわ!」
ルカはテンションMAXで
アヤノの母親と双子の母親が作成したハリセンを
ポーから受け取けとる
シターン!シターン!とハリセンを鳴らしながら
ルカはグラサンをかけた姿で
アヤノの背後に立った
「ねえ、ルカ、私達友達よね
グラサンが怖いわ
外して見せて
まさか‥‥まさかよね」
アヤノは恐る恐る振り向いて
背後に立つルカを見る
「ええ、友達よ‥‥
シンが後でギュッと抱きしめてくれるって!
頑張っちゃうんだから!!」
グラサンをバッと取りながらルカは答える
目の涙袋、クマができるあたりが真っ白になっている
アヤノはテンションMAXなルカを見て絶望するが
慌てて交渉を始める
「ルカ!私もしてあげるかッ!ックヒッグ!」
アヤノが喋っている途中で
ルカが持つハリセンは
しなりながらアヤノの頭に振り下ろしされた
「アヤノ‥‥アナタじゃなくて
私はシンがいいのよ
わかるでしょう」
「友情って複雑よね」
ルカが諭すように言うと
リンの母親が呆れたように言う
周りからは笑いが起こった
笑いが起こる中
瞑想するように静かにサリは集中していた
最悪魔力でなんとか衝撃をと思い
目を瞑って、サリは精神を集中していく
「サリ」
サリの顔にシンの手が触れて
その感触にビクッとして
サリは目を開けそうになる
「駄目よ!駄目なのよ!シン!」
今、アレを見せられたら集中力が切れて
静かに貯めている魔力が霧散してしまう
「そうなんだ」
顔から手が離れる感触がして
シンが目の前から離れる気配がする
「待って!わかったわよ」
おそらく、シンはどんな手を使ってでも
目を開けさせようとしてくるだろう
ならば、足元からゆっくり見ていけば大丈夫
サリはそう思い
長く息を吐いて
ゆっくりと目を開いて
「フッ!ん〜〜〜っ」
サリは顔を真っ赤にして耐えているが
じわっと魔力が漏れ出している
サリの目線の先
サリが座っている前に
良い生地で作られたモコモコの蠍が
持ち前の弾力を生かしてなのか
フヨンフヨンと揺れている
「ああ!駄目よ!蠍ちゃん!
アナタに独り立ちはまだ早いわ!」
シンが小芝居をしながら
置いてある蠍のぬいぐるみを抱き上げる
「キャハッ!なん!クフッ!」
サリは決壊して笑い出し
辺りに魔力が霧散する
「‥‥カヤ
報酬は出すわ」
「ホント!頑張るよ!シン!」
カヤは元気よく立ち上がり、腕まくりをして
ブンブンとハリセンを振り回しながら
サリに近づいていく
「待って!カヤ‥‥
そう!その耳と尻尾
久しぶりに見たけど可愛いわよ」
「ありがとう!
さっきシンにも言ってもらえたから
なんか新鮮さが足らないけどさ」
カヤはサリの後ろでハリセンを振りかぶる
「待って!あのね‥‥
そう報酬って何?コチラも出すわよ!」
「時間稼ぎが丸見えだよ
サリをぶっ叩いて、シンからのハグ!
最高だよーん」
「はぁ?こんッッハオぁグン!」
「ああ!サリちゃん!」
サリの母親は
叩かれて倒れ込むサリに
手を伸ばして心配そうにするが
顔は笑っている
ウイの母親はお猪口で酒を飲んで
フッーーと息を吐いてから笑い
「そりゃまぁね
寮長があんな場所で怒るはずよ」
いつもこんなんだろうと想像して笑った
リン、アヤノ、サリは
なんでこんな目に説明を求めます!
と抗議してきて
納得できなければハグして!
ギュッがいい!ゴロゴロもしたい!
なんならヨシヨシとかもつけて!
エル、ヒル、ウイまで混じって要求し始める
シンは溜息混じりにわかったわよと言うと
「まずはリン!」
「ええ!聞きますわ」
受けて立つといった感じでリンが答えると
シンは左手を見ながら
「痛かった‥‥」
リンは、うぐっと呻く
「あんな全力はないんじゃ無いって」
「でもアレでシンは‥」
「保健室の女医さんが言ってた」
「‥‥理解できましたわ」
シンの言葉に
リンは降参するが
「麻酔って言ってね
合計で4回も噛まれたのよ
頭をカプッとね
まぁ、1回は麻酔を覚ます為だったけども」
シンが追い打ちを掛けていくが
頭が動くたびに蠍ちゃんがフヨンフヨンと動く
それを見たリンの顔は少しずつ歪んでいく
「だから、りか‥‥理解できましたわ!」
リンは色々とギブアップといった感じで叫ぶ
シンはそれを聞いてから
不機嫌そうに半眼になり
アヤノ、サリを見る
「次は双璧!」
「「はい!蠍ちゃん!」」
アヤノとサリが声を合わせて元気よく返事をする
シンはピタッと動きを止める
シンの頭上にいる蠍ちゃんは
反動で動きが少し大きくなって
ハサミと尻尾をフヨンフヨンと動かす
「‥‥アンタ達はなんでそんななのよ」
アヤノ、サリは頭に?を出して
頭を傾げる
「シンちゃ〜ん
その子ははっきり言わないとわからないわよ」
「サリちゃんもテストと察しは
極めて悪い方よね」
「はぁ〜、私の所もなのよね
シンちゃん頑張って!」
アヤノの母親、サリの母親、リンの母親が
シンにエールを送ると
アヤノ、サリは、お母さん!と抗議する
「誰が私を誘ったのよ!
そして、なんでアンタ達は2階にいんのよ!」
「そうよ!左しか」
「そうなの!使ってなかったんだから」
シンがアヤノ、サリに怒った様に言うと
エル、ヒルが続けてくる
シンは驚いてエル、ヒルを見ると
なんか気合いが入っているようだったので
「待って!何を言う気なのよ」
シンがエル、ヒルに待ったをかけるも
なんかわかってますみたいな顔をしていた
「そうよ
全国大会で1回も右で打って無いんだからね」
「練習の時は
アンタ達が上げるボールを
左右交互に打っていたのにねぇ〜」
ウイ、カヤが呆れたように
アヤノ、サリを見ながら言うと
「途中から‥‥
ううん!全国大会の初めから
シンが取られたのは右で打ってないから」
ルカはうんうんと頷いて
「そうだよ
真っ直ぐの左だけでイケたのもすごいけど
変化する右が無いとさ」
ポーはサリを見て言った
「ほう
そうだったとは気づかんかったのぉ」
「私は気付いていましたのよ」
双子の祖父は感心したように言って
双子の祖母は言った後にエヘンとしている
「「だよね、シン!」」
エル、ヒルは揃ってシンを見る
少し顔が赤くなったシンが
「‥‥決勝の前にアンタ達が
言ってきた事の答えがコレよ
‥‥練習し過ぎたのよ、アンタ達と‥‥
タイミングとか高さとかが
リンでも違和感を感じるくらいになったのよ」
アヤノ、サリはシンが言う事を
ジッと聞いている
シンはリンの方をチラッと見ながら
「宗鳳と‥‥紫尾とやった時に
リンに要求したでしょ
高さと速さをって‥‥
結構無理したんだけど、アイツとやるなら
あれくらいないと駄目だったのよ
案の定、準々決勝より先は対応されたし」
話していたシンにアヤノ、サリが
優しく抱きついて言う
「そうとは知らずにごめんね」
「来年こそは」
そこにリンが3人に抱きついて言う
「最後の年は最強ですわね」
不意にシンは3人の腕の中からスルリと抜けた
アヤノ、サリ、リンが
シンになんでと声をかける前に
3人は背後から殺気と力を感じる
「どさくさに紛れて」
「反省無しの上に抜けがけ」
ルカ達が持つハリセンが3本に増えており
ブンブンと振り回されている
3人は涙目になりながらも
「「「いーじゃないのよ!これくらい!」」」
「「「「「「問答無用!!」」」」」」
力を解放してワチャワチャとじゃれ合う
「お〜、こわ」
シンは少し離れた所で呟き
皆と笑い合っていると
シンの後ろからポーが抱きついてきて
上から睨むように見てきた
「話に出てきたけど‥‥
宗鳳の紫尾とは仲良くやってみたいね」
ポーが暗く言うと
シンの目の前にルカが携帯の画面を見せてくる
画面には宗鳳学院の改造制服を着た
ギャル姿のシンが映し出されていた
ルカが画面をスライドさせて
何枚も何十枚もシンに見せてくる
アヤノの祖母達は
興味深く見ていて、後でちょうだいっと
言っていた
「なんで‥‥こんなに持ってんのよ」
「紫尾に連絡したらね」
「ノリノリでくれたの」
シンが怯えたように言うと
エル、ヒルがシンのお腹辺りにしがみついて
下を向きながら言った
シンは握り拳を頭にコツンとしながら
「‥‥てへ♡メンゴッんぐ!」
シンは言ってる最中に
持ち上げられてワチャワチャしてる中に
放り込まれていった




