35話 やっぱり痛い成長
「ボール3個分高く
んで、もっと速くして」
4セット目が終わった時に
シンがリンにそんな要求をする
3セット目はシンのアタックも入っていたが
4セット目には、紫尾に取られ始め
シンが急いで戻ろうとするもカウンターで
点を取られる場面があった
「飛べるのはわかりますけど」
「打つ事に集中するから」
シンはリンの方を見ずに言った
紫尾は対応は早く
シンのアタックは早々に上げてくるようになり、4セット目に入ると黄天によるカウンターという形を作ってきた
開法学院も黄天に完全に対応できるのはシンだけとなっている為
そのカウンターは止めきれていない
しかし、紫尾もシンが上がたボールを
打つリンボールには対応しきれていない
シンは、なんか張り切るというよりも
もっと鋭い感じになっているような気がする
アヤノ、サリには悪いけど
今まで誰からも要求された事ないのに
シンだけが私に要求してくる
‥‥悪くない
リンは少し笑いながら、そう思って
顔を叩いて気合いを入れ直す
「わかったわよ
でも私にも譲るんですのよ」
「わかってるわよ」
リンの言葉に、少し不貞腐れたように
シンが答えると
ブザー音が鳴って、5セット目が始まる
デュースはあるが
まず先に15点取った方が勝ちの最後のセットが始まる
「どう思う?」
「私達の娘のこと?
アンタの所が1番スゴイわよ」
「違うの!この状況!」
双子の母親が聞くと
ウイの母親が茶化したので
双子の母親が怒る
「たぶん、くるわね」
「おそらくではなく
まぁ、ほぼ確実よね」
リンの母親が双子の母親が聞きたかった内容に答えて、アヤノの母親が付け加える
「それにしてもシンちゃんたら
気合い入ってるわね」
「そうなの、1発目から本気だったのよ」
ウイの母親と双子の母親が笑う
「アッツいわ!ピンチからの逆転よ!」
「‥‥いつもは1回だけ様子見て
どうするか決める感じなのにさ」
ルカの母親を軽く無視して
アヤノの母親は言いながら、サリの母親を見る
「教師がアレじゃあね
期待までしてるんじゃないの?」
ルカの母親がアヤノの視線の先を見て言う
「アンタは無視すると
いつも真面目になるから面白いわよね」
「そう」
リンの母親がからかうと
ルカの母親は短く答えた
リンの母親は、スッと目を細めてリンを見る
「期待してるのは色々といるんだから
次、失敗したら折檻よ」
リンの母親以外が
お〜怖っ!と声を上げる
勝っていた!勝てたのよ!
いつも通りに2セットが取れて
ストレートに勝って次に繋げる
そう思っていた
そうなるはずだったし
今頃は次の試合のことを紫尾と話し合って‥‥
3セット目が取られて、紫尾が
「シン選手のは早いけど
真っ直ぐだから取れる
やるわよ!」
チームメイト達が
あの人族の事を知っていた
前に見た時には開法学院にはいなかったし
雷姫とあんな形で合わせていなかったとも言っていた
シンと合わせた時の雷姫が止められない
紫尾も悔しがっていた
4セット目が取られて本気で焦った
本当に後が無くなった
5セット目が始まって
明らかにコチラを睨みつけてくる奴がいる
睨みつけてくるソイツが‥‥
目の前で流れが変わった原因が揺れている
次への弾みをつけるはずだった試合
打つ場所を選んでボールを打っても
目線を変えてもバレる、何故かいる
ホラ、今も吹っ飛んだ‥‥
たっかっ!打ち込まれる
ボールが床に叩き込まれる音が
後ろから聞こえた
振り返ると紫尾と視線が合う
紫尾が視線を下に逸らす
悔しい‥‥悔しくて‥‥
私の相棒にこんな顔をさせた原因がまた揺れる
下から睨みつけてくる‥‥
こんなヤツに!こんなヤツなんかに!
私達が約束した2連覇を諦めてたまるものか!
5セット目が始まり
小さい人族が今までより高く飛び上がり点を取り始め、リンも点を取る
そんな一方的な光景が繰り返されていた時
会場の一部は望んでいた光景かもしれない
だが、会場の大半は叫んでいた
こういった大会で
結界自体が破綻する事が稀にある
メインで発動されている結界は数年に1度くらいの頻度で破綻するので
中学では、結界自体の破綻を防ぐ為に
サブでもう1個発動させている
その2つが同時に破綻をするのは
それこそ稀であった
だが、結界を破綻させたとして
そこにいる全員が力を解放されている状態の為
大事には至らない事が大半である
逃げる子も多かったので
怪我をしてもカスリ傷や打ち身程度だった
観客も運営も平均的に
力が弱い種族が団体競技に
出てくる事が稀だったので
油断もしくは
判断をためらった事もあったのだろう
なので、人族であるシンが叫ぶまで
動けなかった
黄天がジャンプした瞬間に
結界が破綻して
実況が叫んでいた
〔なっ!待って!!その先は!!!〕
実況が叫んだ時には
黄天が力を解放させて
太く大きくなった腕を振るい
ボールを小さな人族に向けて叩き込んだ
ギッ!!!
小さな人族は、ボールに接触すると
後方へと吹き飛ばされていった
体育館全体から悲鳴が上がるも
すぐにどよめきに変わる
ゴーレム族
原種が解放した力を込めたボールが打ち込まれたのは人族だったが
その光景が先ほどから見た光景とよく似てる
ボールは雷姫の方に上がっており
人族は後方に吹き飛ばされながら
空中で素早く1回転して
着地した低い姿勢から
弾かれたように飛び出した
〔えっ!なんで!〕
人族は今までの距離より
長い助走を付けて飛び上がり
1番高い場所で腕を振り抜こうとしている
左腕の振り抜く軌道の手が通るであろう場所
人族の左頭上に雷撃が走る
〔キレイ‥‥〕
音がいつ鳴ったかはわからないが
ボールは相手側から
ネットに突き刺さり回転して
シュルシュルと音が鳴っている
おそらくは宗鳳のコート
床の黒くなっている部分に
人族が打ち込んだボールが叩き込まれ
コートから少し距離がある壁に当たって
弾き返ってネットに突き刺さったのだろう
宗鳳の選手達は
結界が無く、力が解放された状態にあっても
誰1人として動けていなかった
ネットの下で、小さい人族がうずくまっていたが、いきなりガバッと上体を起こして
膝立ちで左手を掲げて
右手は左手首を掴んで
静まり返った会場に
「いったぁ〜〜〜!!!」
と叫んだ
ボールがネットから滑り落ち
トンっと音を鳴らして床にぶつかった
「アンタねぇ!
‥‥はぁ?何よ!ちょ!離して!離‥‥」
シンは、リンに抗議しようと
立ち上がって、リンに歩み寄ろうとしたが
コートの外から来た数人の大人に抱き上げられて、体育館から連れ出されて行く
担ぎ上げられたシンが体育館を出て行く途中から、拍手と歓声が鳴り響いた
しばらく、拍手と歓声が鳴り響いた後に
〔先程の事を協議しますので
しばらくお待ちください〕
というアナウンスが響き
ざわつきとどよめきが会場内に響く
リンは、自分の手を見て
2階にいる母親の方を見上げる
リンの母親は、リンと目が合いながら
笑顔で口を動かす
完璧よ
声は聞こえないものの
リンはそう言われた気がして
笑顔で母親に小さく手を振る
アナウンスを待っていた体育館にいる人達から大きなどよめきが上がり
リンの母親達は驚き、少し渋い顔になる
「コレって大丈夫なの?」
双子の母親は驚いて周りに聞くと
聞かれたリンの母親達は
渋い顔をしながら、耳にあるイヤホンを
少し押さえて、叫んでいる実況をよく聞いた
〔もう一度見てみましょう!!
力を解放させた黄天が打ち込んだボール!
それを吹っ飛んだと見せかけて
完璧にボールの威力を殺して
ボールをあげる!!
自身は後方に1回転しながら着地!
そして!ココ!ココです!見てください!〕
おそらくはテレビには画像が出ているんだろう
〔くくった髪の先端が顔の前にきて
低く構えて睨む姿!そして形は!
ヤリやがったな!!後悔させてやるぜ!
っていう感じからの早い飛び出し!
高く!速い!上からの一撃!
構えから攻撃までのすべてが!
そう!蠍!マジで言います!蠍なんです!〕
その後も実況は興奮気味に叫んでいる
「この実況しているヤツってさぁ」
ルカの母親はイヤホンをはずして
渋い顔になる
「ったく、そうよ
やられたわね」
「それほどすごかったけどさ
さすがにコレはね」
リンの母親は目を瞑って、ん〜となり
アヤノの母親は頭の後ろで手を組んで体育館の天井を見る
「でも、もう訂正はできないわよ
何度も言ってるもの」
ウイの母親は腕組みをして渋い顔をしている
「最大の賛辞でしょうけど
このタイミングで言うのは熱いけど
アッツくないわね」
「どういう理屈かわかんないけど
まぁ、わかるわ」
ルカの母親が言った事に
アヤノの母親はなんとなく頷いた
シンは数人の大人に掴まれ
持ち上げられて保健室に直行していた
運ばれている最中は、なんでかわからないが
不思議と振動や不快感は無く
文句を言うのはやめていたが
「いったぁい」
と言うと
運ばれる速度が上がった気がした
速度はそのままに保健室に入ると
シンはベットに寝かされる
「先生!よろしくお願いします!」
「了解よ、任せておいてください」
ドレッドヘアーで真っ赤な目の女性は
シンが寝ているベットの横にある椅子に座って
「いらっしゃい、シンちゃん
今日は失神していないのね」
「はい!なので
今回は先にアイツに文句言ってくるから」
シンはベットから降りようとすると
ふらついた
「興奮してるの?駄目よ
連れてこられたんだから仕事させてね」
シンは、ドレッドヘアーの女性を見ると
ドレッドヘアーの1本がシンの頭に伸びている
「な‥‥なに?なん‥‥の?」
「あらら‥‥ホントに頑丈な子
何?あなたも咬みたいの?大人気ね」
ドレッドヘアーの女性が自分の頭を触ると
ドレッドヘアーの1本が、蛇に変化してシンに伸びていく
「な‥‥なにする‥」
「さ、お仕事させてね」
シンは、ベットに倒れ込むように寝た後
体がベットに沈み込んでいくような
どこかに落下した感覚になる
「今回‥‥左手だけ‥‥いわね‥」
聞こえてくる声も途切れ途切れになって
頭にチクっと痛みが走ると
目の前が一気に暗くなっていった




