32話 推うものと推われるもの
「楽だなぁ」
シンは部屋で呟いた
6月中頃になった
先月から地区大会が始まり
バレー部は忙しくなっていくはずだった
シンは選考会の後
皆からの拷問に屈してバレー部に所属となっていた
バレー部員からはもう一度見せてとか
ボール上げたいから高さと角度を教えてとか
抱きしめていいとか
寮の部屋はどこ?
とかをしきりに聞かれた
主将からは謝ってもらったし
監督からはよく来たな!シン!とかノリノリで言われたが
「さすがに全国大会常連だもんね〜」
シンが色々と注文をつけても
トスが注文通りに来るから調子に乗ってバカスカ打ってた
段々と部員達も
シンが打つボールに慣れてきて
取れる様になってきたけど
シンが上げてリン打つボールはまだ一回も取られてなかった
「ん〜、層が厚いとこうなるよね」
シンはレギュラーに選ばれたものの
最終兵器だからな!と監督に言われて
ベンチにずっといた
リンが点を取りまくってるし
守りも硬いので
地区大会はなんの苦もなく勝っていく
備え付けの机の前で
椅子の背もたれにもたれながら
何回かキッキっと鳴らす
机の上にある本を眺めると
進学科の教科書が広げてあり
シンの書き込みが何箇所かある
「中学だもんね、そういう事もあるよね」
椅子がギッ!と鳴るまでもたれかかると
伸びをして椅子に座り直す
シンは半眼になって机の前の壁に貼られた時間割りを見ると
「‥‥‥また苦手なのが来る」
そう呟いた
時間は少し遡って
入学式が終わり、クラスが発表となる
進学科は1クラスでシンは
エル、ヒル、ルカ、ウイと一緒のクラスになった
自己紹介で名前を自分から言ったのはシンのみ
後は、原種なのか誰も言わなかったし
シンが名前を言ったのに少し驚いていた
ちなみに全員の名前は1日だけ机に貼られていて
次の日にはなかった
シンは何人かの見たけど
どれも長すぎて覚えられなかった
「私達の名前は別に言っていいわよ」
ウイがシンにそう言う
「名前を教えていたら」
「呼びあっていいんだよ」
エル、ヒルが続けて、ルカがシンの席に座って
「教えてもらってないのに呼ぶのは失礼」
「そうなんだ」
シンはルカがシンの席に座ったので
どかそうと近づいたら捕獲される
「なんでよ、どいてよ、ちょ」
ルカがシンを後ろから抱きしめれるように調整すると
ルカは膝の上にシンを座らして再度抱きしめる
「次、私」
「その次は私よ」
ヒルが手を上げて、ウイが隣の席に座って両手を広げる
「順番待ちが長いよ〜
ウイは席が隣なんだから代わってよ」
ウイの肩に手を置きながらエルが抗議する
「あなた達!自分の席に座りなさい!」
教室のドア付近に立っていたスーツ姿の女性が
叱りつけてくる
「すいません、先生」
「朝のホームルームが始まります
もう中学生なんだから、シャキッとしなさい」
スーツ姿の女性は
そういって教壇に立つと
今日の予定をサッと伝えて出て行ってしまった
「担任がサリの母親とは思わなかったわ」
ウイが言う
「でも、よく怒られるね」
「この短い間で何回目?」
エルとヒルは思い出すように話して
シンを見る
「私達はそうでもない」
「私がいるから?」
ルカの言葉にシンは首を傾げながら言った
スーツ姿の女性
サリの母親にシンは何度も注意された
服にゴミがついていますとか
キチンと服を着なさいとか
ちゃんと席につきなさいとか
しっかり歩きなさいとか
細かいところまで注意され
担当教科では毎回当てられて
前に呼ばれて問題の答えを書かされる
「まるで問題児扱いじゃない」
シンは、ブスっと不貞腐れている
天気が良いので
屋上でエル、ヒル、カヤが作ってきた弁当を
皆んなで食べている
「なんか心当たりあるの?」
ポーは聞くと
「入学して、すぐに何をやらかせんのよ」
シンはミートボールに箸を刺しながら答える
「荒れてないで、コッチもさ
ホラね!美味しいよ〜」
カヤが焼き魚の方にシンを誘導していき
エル、ヒルはコッチもと言いながらシンを誘う
「こういうのは血縁に聞いた方が早いかもね」
ウイがそう言うとサリを見る
「そういう事よ‥‥わかるでしょ
まったく言わせないでよ」
サリの言葉にシンが焼き魚を食べながら
頭に?を出していると
次は口の前へとアスパラのベーコン巻きが持ってこられる
「もうすぐわかるって言いたいんですのよ」
リンは、美味しいっと付け加えながら言う
その横でアヤノ、ルカが
「結構真面目でいい先生なのにな〜」
「私の所もそんなもん」
「アンタらだけわかった気になって
話てんのはなんでなのよ」
シンが抗議しすると
ドードーと言われながら
エル、ヒルにアスパラのベーコン巻きを口に入れられる
「いつか来るわよ」
サリは空を見上げてブッと噴き出して笑う
「いい!ネタバレだけは禁止なんだからね!」
サリが続けて言うと、シン以外は頷く
5月の連休明けからいきなりそれは来た
「シンちゃん、前に出て答えなさい」
サリの母親が教壇からシンに向かって言う
ここは進学科の教室で
今は授業中となるので先生から生徒への言葉のはずだ
「‥‥はい」
サリの母親から訂正の言葉は飛んでこないので
シンはそのまま前に出て答えを書き込んでいき
自分の席に戻る
サリの母親は書かれている答えを見て
「はい、正解
次のページに移ります」
その後の対応はいつもと同じだったので
シンは聞き間違いなのか?
それとも単純にサリの母親だったから言い間違いかな
だとしたら
突っ込まない方が良い方がいいかなっと思っていると
「まぁ、そうよね」
隣の席に座るウイがシンの様子を見て頷いて呟いた
「なに?」
「そこ!お喋りは後にしなさい!」
サリの母親から叱責が飛んできた
いつも通りなので、シンは頭を下げて教科書に向き直る
そこからは
段々とシンとサリの母親との距離感がおかしくなっていった
注意される時に
「もうシンちゃん、何度も言いましたよ」とか
「シンちゃん、駄目でしょ、そんなんじゃ」とか
言い出したらと思ったら
「シン・フジムラさん、何度も言わせないでください」とか
「シン・フジムラさん、制服をキチンと正しなさい」
となってきた
シンはわからなくなってきて、サリに聞くと
「お母さんはね、推しとの距離感がおかしいのよ」
「意味がわからないですので
しっかりと教えてください、サリ先生」
シンはギブアップなので、サリに答えを急がせる
「先生として距離感を保たないと駄目な生徒
でもね推しがいるのよ
手の届く距離にいるのよ推しが
心が保てなくなるのよ
触りたい!近づきたい!でも‥‥ああ!駄目!
ああ!それでも!でも!ってね」
サリは笑うのを我慢しながら言い続ける
「お母さんの推しは、昔も今も私なのよ
小学生の時にこうなったから
お母さんは自分から避けたのよ私を
わざわざ、進学科を希望してね
でも、今回はもう1人の推しが進学科に入ってきたのよ」
一気に言い切って、サリはブハッと笑う
「‥‥どうすればいいのよ」
シンは困惑気味に、下を向いて爆笑しているサリに聞くと
「ママァって抱きついたらどうにかなると思うわよ」
そう言ってサリは笑い続ける
「あのね、あの時は大変だったんじゃないのよ」
ウイは呆れて笑っているサリを見る
サリは笑いながら言う
「だから、どうしたらいいのよ」
「ファンクラブでも作る?」
「それで納めたらどうかな?」
ウイに続けてエル、ヒルは
シンに手を上げて言った
「そうね、それが一番ですわね」
「うん、おさまるかもね」
「アンタらはちょっと考えて言いなさいよ」
リン、アヤノがうんうんとしながら言ったので
シンは半眼になって見ながら言う
「いや、いいかもよ」
「グッズ作りもしようよ」
ポー、カヤはシンの肩を掴みながら言った
「‥‥‥認めないわよ」
キャッキャッと笑いながら
先の予定を話す友達をシンは睨みながら言う
「先生がファンって何よ!ねぇ!」
シンが叫んでも、友達は話すのをやめなかった
六月の初め頃にとあるファンクラブが結成した
初期の会員数は20人ほどになる
グッズの作成を始めていて
会員ナンバーの1桁にはとある先生と
その血縁、顔馴染みがいるとシンは聞かされた
シンは認めなかったが
これで良くなるからと押し切られた
サリの母親はその後、安定したのか
「シンちゃん、大正解よ」
授業の際に前に出て黒板に書かれた答えを見て
サリの母親は笑顔で
シンにそう言ってくるようになった
周りからクスクスと笑われるも
サリの母親は堂々としていた
シンは、どっち側に安定してんのよ!と思いながら
「もういや‥‥‥もうやなの」
もうすぐ暑くなる季節
シンは苦手なものがひとつできていた




