31話 過ぎて思う事
「来たわよ」
「ああ」
法被を着た男性とウイの母親が並んで
道に並んでいる木の一本を見ながら話している
「おはようございます」
人族の子が走りながらその後ろを通る時に
少し速度を緩めて挨拶をして
「昨日は楽しかったです
ありがとうございました」
「おはよう
こちらこそ楽しかったわよね」
ウイの母親がそう言うと、法被を着た男性の方を見る
「‥‥‥ああ」
その言葉を聞くと人族の子は会釈をして走っていってしまう
「よかったの?」
ウイの母親はそう言うも、法被を着た男性は
「そう急ぐものでもないしな」
2人で並んで一本の木を見上げる
「けど、コレ絶対にお父さんにはバレるわよ」
ウイの母親は法被を着た男性の肩に頭を乗せて言う
「まだ未熟者なんだと思われるだけだ
構わんよ」
法被を着た男性はゆっくりと歩き出そうとすると
ウイの母親が男性の片腕を抱きしめる
「おい、ここは学園なんだぞ」
「もう少しだけ、昨日の事で昔の事を思い出したのよ」
「誰か来たら離れろよ」
「どうしようかしら」
「まったく」
2人は寄り添いながら歩き出し
法被を着た男性がウイの母親の手を握る
「‥‥誰か‥‥そう、誰かが来るまでだからな」
法被を着た男性はそう言いながら
羽根が背中に生えている女性と並んで歩いていった
シンは
朝のランニングをしていると見知った顔を見かけたので
速度を落として止まる
「おはようございます」
「あら、シンちゃん、おはよう」
「はぇな、おはようさん」
ウイの祖母と祖父は、木を見ながらシンに挨拶を返す
シンは2人が見上げている木を見て
「この木、何かあるんですか?」
「いやぁ‥‥なんもねぇよ
そこらにある木となんら変わらんさ」
シンは2人の視線を追ってみたが、わからなかった
「それよりもシンちゃん、昨日の写真良かったわよ」
ウイの祖母に言われて、シンはエヘヘっと笑う
「特に皆が変なポーズが「あの時はハシャぎすぎました」」
ウイの祖母の言葉を遮って
シンが言うと2人は笑い合う
「いいのよ、ああいうのがね
ホント、またちょうだいね」
「もっとちゃんとしたヤツをもらってください」
「それとは別にね」
シンは
そろそろ行こうかとその場で止まりながら
ランニングの足踏みを始めると
「シンちゃんよ」
とウイの祖父に話しかけられた
「アレを見てどう思う」
シンは動きを止めて
ウイの祖父が見る方向
視線の先を見る
さっきは気にならなかったが
整えられた木の外観から少し細い枝が
みょんと出ている
「なんか出てません?」
「ああ‥‥出とるな」
シンはもう一度よく見てから、答える
「なんか枝の先っぽ‥‥蕾がデカいですね」
「そうねぇ‥‥今にも咲きそう」
ウイの祖母が同意する
それほどに他の蕾よりデカくて
今にも咲きそうにも見える
「1番にスゴイのが咲きそう」
「ありがとよ」
シンが呟くように言った言葉に
ウイの祖父が礼を言うと
シンは、?って顔になる
「邪魔しちゃたわね
ごめんね、シンちゃん」
ウイの祖母に言われて
シンは会釈をすると走り出す
「シンちゃん!どんなんが咲くと思うね!」
ウイの祖父は、声を張ってシンに問いかける
「いつもと同じ!だけど大きいの!」
そう言って、シンは走り去っていった
ウイの祖母はシンの背中に手を振ってから
笑顔でウイの祖父の横に並んで1本の木を見上げる
「すごくて大きいそうよ」
ウイの祖父は何も言わず
ただ一本の木を見上げている
ウイの祖母も並んで見ていた
「なんか切るのがもったいないみたいな感じですね」
「アレを切ったらよぉ
確かに、今の見栄えは良くなるんだがなぁ」
「他に合わせて丸く納めてみます?」
ウイの祖父は何も言わなくなる
ウイの祖母は
携帯を取り出し操作してウイの祖父に見せた
画面を見たウイの祖父は笑い出して
うんうんと頷き始める
「アイツに本殿の仕事を任してみるか」
「帰ったら伝えておきます」
ウイの祖父は周りにある木を見てから
もう一度見ていた木を見る
少し不恰好に見えるのは
技術と経験がついたからなのかと少し思い返す
本心を隠す為に色々とした
堂々と嘘もついたし
周りも傷つけた
ガキだったんだろうと
周りは微笑ましく思ったんだろう
宥めてきた
それがまた頭にきた
段々と同じ事をするたびに失敗は少なくなった
違う事をすると失敗をするという経験を得た‥‥
のかもしれないと達観した
だが‥‥なんでだろうな
この年になるとこういう時に少し惜しくなる
惜しいと思いながら
技術と経験が正しい方へ導いてくれる
手は澱みなく動き続け
思考も次の事を考えながら出来るようになっていった
いや、していった
次を歩く者に叱咤、激励
時には慰めもした
こうじゃない
ああじゃない
自分がした失敗を繰り返さない様にと
願いと期待を込めて
「なんでだろうなぁ
‥‥こうもっと
ん〜‥‥だけどなぁ」
「なんですか?ソレ?」
ん〜と悩むウイの祖父にウイの祖母は微笑みながら言う
気になる部分を見ながら思う
澱みなく動き続けていた手が止まる瞬間がある
技術や経験からは取り除いた方がいいと考えるが
何故か惜しくなる
本当にそうかと
それでもやってきた事に失敗はなかったと思いきかせて
手を動かし続けてきた
「細い枝ですけど、今にも咲きそうですね」
「‥‥‥‥」
ここまでわかる様にせんでも良いと思った
惜しいのはわかる
わかるんだよ、わかるんだが
もうちょっとやり方っていうものがある筈だ
‥‥しかし、これはこれで味がある
他の枝や蕾に合わせとけば楽なもんを
ここまで出来るんだって伸びんでも
出る杭は打たれてもしょうがないのになぁと
微笑ましく思う
そういや‥‥もう、そういう年か
ワシもそうなんだったんだな
ワシの親方もこういう事をしていた
こういうのをワシがやったら怒られたが
親方のを見つけると照れくさそうに笑っていた
お前もやる様になったがな
見つけて得意になる様じゃまだまだと
「いいんですか?」
帰ろうと歩き出すウイの祖父にウイの祖母は聞いた
「まぁアレだ
あれがあるから
次を任せたんだよ」
ウイの祖母は短く息を吐いて、歩き出す
「今まではちょっと見つけると怒っていたのに」
そういえば
親方はなんて言って照れやがたんだっけな
頑固で偏屈なジジイが
たまにやる失敗を照れながらいい様に言った‥‥
あの言葉があった
失敗じゃねぇんだよ
こういうのがいいんだよって
まぁアレだ
‥‥オメェもそのうちにわかるようになるぜって
‥‥鬱陶しい笑顔で
「まぁ、こういう遊び心がないと楽しめませんものね」
ウイの祖父はウイの祖母を振り返って見て
吹き出すように笑い出す
「どうしました?」
「いやぁな
俺も偏屈な‥‥
まぁ、頑固なジジイになっちまったなっと思ってな」
いつもこんな時に欲しい言葉をくれる
まったくこれだから女ってのは、かなわねぇ
「もう一度、さっきの写真を見せてみな」
「はいはい、もうどうしたんですか」
ウイの祖母は携帯の壁紙にしていたので
サッと、笑っているウイの祖父に見せた
10人の子達が切られた枝を持って同じ方向を向いて
お揃いのポーズを決めている写真を優しく見て
「まったくよぉ
もったいねぇ笑顔じゃねぇか」
10人の子達が持っている枝には
いくつかの小さい蕾がついていた
ウイの祖父はもう一度振り返ってあの木を見る
「どんなんが咲くのかよぉ
楽しみじゃねぇか」
「きっといつもと同じ、すごい花よ」
「まったく、ちげえねぇな」
ご機嫌になって、歩くウイの祖父を見て
「男って、いつまで経ってもこうでなくちゃ」
ウイの祖母は呟くとウイの祖父に追いついて腕を組む
「オ、オイ!」
「いいじゃない、たまには」
「まったく誰かくるまでだぞ」
ウイの祖母は手を握られる
ウイの祖母は一瞬驚くも
ニヤ〜とした感じでウイの祖父を見る
「ったく偶然だ!ぐうぜん!」
ウイの祖父は向こうを見るが
「ったく、よく似てるわね」
「なんだ」
「なんでも」
2人は笑いながら
年配の女性と背中から羽根の出た年配の男性は
並んで歩いていった




