29話 思い違いは多種多様
「ごめん!遅れた!」
ポーが、ルカ達に話しかけるが返事がなかった
「‥‥なんで、どうしたん」
「上手くいった」
ルカがポーに話す
「マジで?私も見たかったぁ〜
怒ってるシンは、レアだもんね
やっぱ部活辞めようかな」
「それは駄目!」
「シンが残影はスゴイって!」
エル、ヒルがポーに抗議すると
少し顔が赤くなったポーは
そっかぁ〜と言いながら
髪の先を指でイジる
「始まるみたいよ」
ウイが、ジッとコートを見ながら言うと
リンの立つ位置をシンが見ていた
「あれってさ」
「たぶんやるよね」
「リンがやりたいって言ってたもんね
まぁ、私達も見たいけど」
エル、ヒルはカメラをシンに向けて覗きこみながら
カヤはそれを手伝って、テヘヘって感じで言う
「最初見た時はね
全然訳がわからなかったもんね
シンが上げてリンが打つ!
想像つかなかったもんね」
「いつもとは逆」
ポーが言うと、興奮気味にルカが続ける
「今回は相手がいるから!」
「すっごく楽しみ!」
エル、ヒルが興奮気味にポーの方を
向いて喋った為にカメラの位置がずれる
カヤが、あっ!ちょっと!とか言って
カメラの位置を戻す時にブザー音が鳴って
コートで選手が構え始めた
「ここまで一緒だとさ
逆に怪しまれない?」
ポーがコートにいる選手達の立ち位置を見ながら言う
「大丈夫」
ルカがコートにいるシンから目を逸らさずにポーに言うと
ポーが何か言う前に
「すっごく怒ってるから大丈夫よ」
ウイが今までを見ていないポーの発言を遮って
笑顔でそう言った
彼女が入れば、絶対に勝てます
雷姫がそう言って、私達を説得していた
去年の全国大会は3回戦負けだった
最近では1番の成績だ
フルセットまで、もつれての敗北だった
相手は前回大会で全国3位の強豪
だから
悔しくなかったとか
そうだから
納得したとかではない
相手は二つ名持ちが2人で完全に機能していた
雷姫が喰らい付いてくれたが
私達が相手の気迫に負けた部分がある
相手はそのまま優勝した
私達が1番苦しめたと言ってもいいが
動画を見返しても雷姫がいた事が大きい
原種の二つ名持ちが頭を下げた
皆が驚いた
雷姫が持ってきた動画を見た時に
知ってる選手だったので、さらに驚いた
小学生の全国大会は
みんなで見ていたから
ある意味で有名なこの選手が
どんなだったかなんて知ってる
それこそ、どういう負け方をしたまで
見て思うが周りが悪いと思うけども
対策されたら手詰まりになる程度の選手だ
所詮はそんなもの
やる気を失ってる小さい人族
そんなもの腐るほど見た
確かに雷姫の本気を受け止めたのは
偶然とはいえ、スゴイ事だと思いながら
主将は
その選手、シン・フジムラをネット越しに見る
向こうのコートからボールが飛んできた
ボールがネット際にいる私の所へと送られて
高く飛んで頭上のボールを相手のコートに打ち込む
それこそシン・フジムラの真正面に打ち込んでやった
と思ったが
ボールはシン・フジムラの真横に打ち込まれる
どうだい?双璧を何度か打ち破ったボールは!
シン・フジムラは雷姫と少し話して
構えると体を左右に揺らし始める
さっきみたいなユラユラとした動きではなく
動画で見たようなリズムをとって規則的に揺れている
それがなんだい!
小学と中学の違いを見せてやるよ!
バレー部主将は
さっきまでシンが本気でしていない事がわかったのか
イラつきながら
さっきと同じ流れでボールを打ち込んでいく
見な!吹っ飛んで‥‥‥
エッ?なんで私達のコートにボールが?
打ち込んだのは雷姫か?どうやって?
何をしたんだ!シン・フジムラ!
モクは、今起きたのが選手だったら
シンに注目してたらわからないだろうなって思い
ボールがシン側のコートに渡されるのを見ている
2階観客席からも、どよめきみたいなのは聞こえる
しかし、どう理解したものかと言った雰囲気だ
「てっきりシンが打ってくるものだと思ったんだがな」
モクが呟くと再度サーブが打たれて
主将に繋ぐためにボールが運ばれる
「主将以外は見えていたから、警戒しているな」
主将が打った瞬間に
ネットを挟んで前にいた雷姫が飛び上がり
腕を振るうとそこには主将のボールを受けて
吹っ飛んだシンが上げたボールがあった
雷姫の腕を振るう先
力が1番乗るであろう場所で
手とボールが勢いよくぶつかった
ゴッ!
さっきより鈍い音が鳴り
コートにボールが叩き込まれる
今までの雷姫のアタックよりさらに速い
「流石に、アレは欲しくなる訳だ」
雷姫は打つ時にボールを見ていない
相手側の打ち込む所だけを見ている
そこに絶対くるであろうボールを打ち
その通りに相手側のコートに打て込んでいる
「さて、あとは調子のよい彼女を見たいもんだ」
周りからの歓声や拍手を受けながら
ブスっとして
雷姫からハイタッチを求められているシンを見て
モクは呟いた
「エグイ事を思いつくもんだね」
「そういえば
ボールをあげる位置と高さは正確だったものね」
アヤノの母親はリンの母親とふーんって感じで話してる
「アレって出来るもんなのかな?」
「いや、どうでしょうね」
双子の母親とウイの母親がうーんと話していると
スーツ姿の女性はジッーとシンを見てる
その様子に気がついたアヤノの母親はニヤつきながら
「娘達が執着する理由がわかるでしょ」
スーツ姿の女性は、ハッとして
「アレは雷姫あっての結果でしょ
去年とは違って周りに恵まれ始めたって事よ」
リンの母親は少し呆れ気味に
「あのね‥‥まだシンちゃんが動いてないわよ」
双子の母親、ウイの母親、スーツ姿の女性はシンを見る
試合自体は、同じ展開で8点が入る
シンはボールを受けたら後ろに吹っ飛ぶものの一回転して
着地して立ち上がり
ボールを相手コートに打ち込んだ雷姫と
ハイタッチするだけの展開
「やるわね、たぶん」
「エグくなってるかな?」
「たぶんね」
アヤノの母親とリンの母親は楽しそうに話している
「でもさぁ、相手の子達って
心折れてないかな?」
「折れてるわよ、それは確実ね」
「そこまでする必要があるのかしら」
双子の母親、ウイの母親、スーツ姿の女性は
同情寄りの意見を口にするが
「それほどの事をしたのよ」
「それに次からは味方だし、心強いんじゃない」
リンの母親は少し笑い、アヤノの母親はヘラっと笑ってる
「まぁ、あんた達がそこまで言うなら
スゴイんでしょうね」
スーツ姿の女性はコートの方を向く
異様な一団が観客席にいた
無言でカメラを操作して
物の受け渡しも相手も見ずに
相手からの要求も聞かずに動いている
これから起こる事を絶対に逃さない
そんな気迫を感じる集団が、スッと止まり
コートのある一点、ある選手の動きに全員が注目していた
見るからに片方のコートにいる選手の動きは鈍くなった
雷姫の打つボールに反応はするけど、取れない
飛び込んでも無理、真正面に来ても無理だった
シンにボールが打ち込まれて
ボールが雷姫の上に上がる
だが、今回は雷姫は飛んでいなかった
体育館の観客、選手一部を除いて雷姫に注目していた時に
何かが駆け込む音がして
そちらを見るとシンが飛んでいた
「エッ」
誰かがそう呟く声が聞こえて
ボールは雷姫が直線的なトスをシンを狙ったように上げる
ボールはシンの左側上を狙って飛んでいく
シンが左手を振り抜き、ボールを打つと同時に
ド!
相手側のコートから鳴って
ボールがコートの後ろにある体育館の壁に当たる
シンは、着地する時に床でコロンと転がり立ち上がる
2階観客席の一部から拍手がなると
体育館全体から歓声と拍手が鳴った
「ヨシッ!」
シンはそんな声を上げて、リンとハイタッチをする
「また高くなっていませんの?」
「身長が伸びたのよ」
と言って、笑顔でぴょんぴょんと飛ぶシンを見て
「そうね、伸びたのよね」
リンは優しさは必要だと思い、シンの背後に視線を移す
「すまなかった、シン」
モクはシンにそう声をかけた
シンはモクの方を向くと半眼になって
なんか言おうとした瞬間に
シンは脇腹あたりに柔らかくタックルを食らって
体を持ち上げられる
「なになになんなっ!ちょ、やめて!
擦り付くな、やめて!
無言は怖いから!わかったから無言はやめて!」
シン達の相手側にいた選手や
コート外にいた選手がシンを持ち上げて撫でたり
シンに身体を擦り付けたり、頭をシンにグリグリしていた
体育館は笑いに包まれていたが
2階観客席の一部からは悲鳴が上がる
「申し訳ない、シン」
床に下ろされたシンに主将は頭を下げていた
「何に謝ってんのよ」
主将は、?ってな感じで頭を上げてシンを見る
「だから、何に謝ってんのよって聞いてんの」
聞き間違いではなかったのかと思い
主将は怒っていますみたいな態度をとっているシンに
「シンの友達を侮辱した「違いますぅ」」
主将の言葉に、ちょっとむかつく感じで
シンが言葉を被せてきて続ける
「どうせ
アイツらがアンタ達に言ってくれって頼んだんでしょ」
主将は、雷姫を見るが小さく首を横に振るし
次に双璧を見ても横に振っている
「前と同じ展開だったし
乗るのが嫌だったから黙ってたけど!
何を馬鹿にしてんのよ!」
主将は少し狼狽えて
「だから謝ってるだろう
シンの友達を馬鹿にした事を」
「違うって言ってるでしょうが!二つ名よ!
アンタが馬鹿にした!
程度とか言った二つ名に謝れって言ってんの!」
シンが怒鳴るように喋っていると
静まり返っている体育館に
「二つ名ってのはスゴイんだからね!!」
シンの怒りの叫びがこだまして
爆笑が沸き起こった
「またなの!また笑うの!!なんでよ!!」
シンが騒ぐもリン、アヤノ、サリに抱きしめられて
体育館の外へと連れ出されていく
「だから、謝れって言ってんの!」
シンの叫び声は笑い声にかき消されていった
「どうよ‥‥
ウチのお父さんと旦那をノックアウトしたシンちゃんは?」
笑いながらアヤノの母親は言う
「少し待ってあげなさい
もがいてるわよ」
リンの母親が見ている先では
3人が、しゃがんで下を向いて震えている
「私のお父さんがああなったのもわかる気がする」
双子の母親は立ち上がりながらウイの母親に手を貸す
「コッチのお父さんとお母さんも絶賛ハマってますよっと」
「私はどうしたらいいのか」
スーツ姿の女性は
まだしゃがんで下を向いていた
「どうにかなるんじゃない?」
「馬鹿言わないでよ
娘は絶対に無理だから進学科を選んだのに」
「その娘とコッチの娘達は早々に片付けて
追っていったわね」
「少し怒ってたの、ウチの娘達はだいぶお熱だから」
わちゃわちゃと話し始めた4人の横で
ウイの母親が椅子に座ってフッと息を吐く
「どうしたの?」
双子の母親はウイの母親に話を振る
「‥‥最近ね
旦那がシンちゃんの動画ばっか見てるのよ」
「嫉妬だ」「嫉妬なの」「嫉妬ね」「それは嫉妬よ」
4人に同じ事を言われて
ウイの母親は、鬱陶しいと言わんばかりに睨みつけて言う
「あのね!いい?お父さんも見てるんだから
そういうのはいいから
それにね!
私の方が先にお母さんからシンちゃんを教えてもらって
先にハマってました」
「旦那にシンちゃんを奪われての嫉妬なの?」
「もうやめなって、んで」
双子の母親が、少しからかうように言ったのを嗜めて
アヤノの母親は話を先に進める
「シンちゃんの準決勝負けをずっと見てるのよ
お父さんと一緒に」
リンの母親は、ん〜っと伸びをすると
「さっ、帰ろっか」
「ひさびさに学生に戻った気分」
「私は年がら年中なのに」
「でもまっ、たまにはいいんじゃない?」
ウイの母親以外は
リラックスして帰ろうとしていた
ウイの母親は4人を追いかけて
「ちょっと聞いてるの?」
「あのね、便利な言葉を教えてあげるわ」
リンの母親の言葉にウイの母親は立ち止まって聞く
「男ってそんなもんよ」
ウイの母親は短く溜息をついて呆れながら言った
「なにそれ‥‥聞いて完全に損した」
笑いながら、5人は仲良く歩いていく




