27話 続けたくない物語
「おはようございます」
そう言いながら
シンは
体育館の開けっぱなしになっている入り口から
礼をして中に入った
全国大会が行われた体育館なので少し懐かしい感じがする
でも、あの時はこんな落ち着いて見ていなかったなぁと
シンはある意味、新鮮な気持ちで見ていた
「はい、コレ」
シンはキョロキョロしていると
目の前にきた人にゼッケンを渡される
「それを着けたら、アッチに並んでください」
「はい、ありがとうございます」
なんか事務的に言われたので
思わず返事とお礼を返すと
シンは75と書かれたゼッケンを見る
「えっ?コレは何?」
シンはそう言いながら
横を見るとゼッケンを渡してきた人が
アヤノ、サリにもゼッケンを渡している
「整列してだってさ」
「アソコの後ろね」
シンはアヤノ、サリに促されて進んでいく
「アンタ達はさ‥‥またなの」
「私達だけじゃないんだけど」
「アソコとアソコよ、ほら、いい笑顔ね」
シンは、アヤノが見ている方向を見ると
リンがコッチを向いて軽く手を振ってくる
サリが向いている方を向くと2階の観客席で馴染みの顔が
手を振ってくる
「あのね、私はエンジョイ勢で頼んだはずよ」
「そんなのないわよ」
「ウチらはガチ勢」
シンはアヤノ、サリの言葉に
は?って感じの顔になった瞬間に後ろから
サリに捕まえられる
「はなして!マジでガチで絶対に帰る」
「ばあちゃんが、煮物作って待ってるってさ」
「もし、全然バレーしなかったら
もったいない事になるわね」
もがいて逃げようとするシンに
アヤノとサリが涙を拭く演技をして話しかけると
シンは、ピタッと動きを止める
「遊びよね、遊びなんだからね
ガチはないから」
シンはアヤノ、サリと同じ方向に歩き出して
ゼッケンを付ける
「そうそう、いい子ね」
「色々と言いたい事ができたわよ」
「今日の夜に入部祝い会で聞くよ」
サリがシンの頭を撫でて言うと
シンがイラッとしながら答える
その横では観客席に手を振りながら
アヤノが夜の予定を決めてきた
「入学祝いでしょうが!まずは!」
シンが、キッ!となると
2階観客の一部から笑い声が聞こえた
「珍しい事もあるもんね」
「このメンバーが揃うのはいつぶりだっけ?」
「あと1人足らないけど、まぁこんなものね」
エルフ族でスーツ姿の女性は
同じ歳くらいの女性達に向かって言うと
椅子に座っている法被を着た女性はリンの母親に質問する
リンの母親は少し笑いながら
その質問に曖昧に答えていた
「まさかのまさかね」
「集まるなら、もっと静かな所が良かったんじゃない」
アヤノの母親が言うと、ラフな格好の女性が答える
「え〜、ウチは騒がしいよー」
「また肉だらけになるのはね」
「それならパスよ」
アヤノの母親がダラけながら言うと
ラフな格好の女性とスーツ姿の女性は
少し渋い顔をして答える
「あら?お野菜と煮物も出るわよね、最近は」
「えっ?アンタのお父さんって引退したの?」
「代替わりしたって話は聞いてないわね」
リンの母親が言うと渋い顔をしていた2人の女性は
少し驚いた様になってアヤノの母親に聞く
「アソコのやる気のない小さい子をね
お父さんとお母さんが気に入っちゃって」
アヤノの母親は半眼になって
一階のコートに集まる選手の中で一際小さい子を指差す
「エッ!ウソ!じゃあ、煮物って」
「そっ、お母さんのよ
食べにきたら?味は昔よりも美味いわよ」
法被を着た女性が驚きながら聞くと
アヤノの母親は難しい顔をして答える
「何、どうかしたの?」
「急に機嫌悪くなる時は何かを殴る時よね」
スーツ姿の女性とラフな格好女性が
心配そうにアヤノの母親を見ると
別にって言いながら横を向いた
向いた先で法被姿の女性と目が合うと
アヤノの母親は、フンってしていた
「肉じゃがっていう手もあったんですけどね
理由が理由ですものね」
リンの母親はしたり顔でアヤノの母親を見る
「蒸し返さないでよ、怒るよ」
少し赤くなったアヤノの母親を見て
スーツ姿の女性とラフな格好の女性
法被を着た女性は、やれやれって顔をしながら
「まぁた、愛しい旦那さん関係かしらね」
「ラブラブなのはね、良い事よね
ウチの加護いる?家内安全はいいよね
じゃあ、安産祈願?あれ?当たり?」
「ホント、いつまでもベタ惚れよね
それこそ本当に蒸し返さないで欲しいわ」
アヤノの母親は真っ赤になり、女性達の方を振り返って
「文句あんの!それにアンタらもでしょうが!」
と言い返すのが精一杯だった
2階観客席にいるリンの母親達と少し離れた所に
カメラを何台も構える集団がいた
一見するとスカウトマンの様に見えるが
お菓子を食べたり
きゃっきゃっと騒ぐ生徒っぽいので放置されていた
「でさ、その本格的なカメラは何?」
カヤが3脚を立てて
本格的な機材を準備しているエル、ヒルに聞く
「おねだりしたら」
「すごく良いのもらったの」
カヤは、ええ‥‥スゴッと呟いて
横を見ると椅子に座ったルカがカメラを膝に乗せて
「今度は私も」
と言っているのを聞いて
「ルカはパソコンの方がいいんじゃない?
試合のもそうだけど
ホラ、正月の写真を動画にしたヤツ良かったし」
「そうね、エルとヒルのおじいちゃんがまた良かったわよ」
カヤがルカを褒めて
ウイがリンの母親達の方を見ながら言った
「私達もあんなおじいちゃん」
「初めて見たの」
エル、ヒルがウイの見ている方向を見ると
ラフな格好の女性と法被を着た女性
スーツ姿の女性がアヤノの母親を覗き込んでいた
「私達のお母さんって仲良かったのね」
「ね!私達のお母さんは普段ラフだから」
「あれは‥‥サリのお母さんもいるのかな」
エル、ヒル、ウイの言葉を聞いて
ルカもリンの母親達を見て
難しい顔をしながら、ため息を吐く
その様子をカヤが不思議そうに見て
「どうしたん?なんか足らない?」
カヤがルカの口元にお菓子を差し出すも
ルカは首を横に振って
「あれに私のお母さんがいたら」
ルカは少し下を向いて
「とんでもなくどころじゃなくて
本当に恐ろしく手を焼いたって
おじいちゃんが愚痴ってた」
ウイ達が見守る中、アヤノの母親の叫び声が聞こえてきて
続いて笑い声が響き渡った
「はーい」
シンはのらりくらりとかわしたり
たまに正面にくるボールを返したりしていた
私はエンジョイ勢♬
バレーをすればいいだけ♪
そうしたら、美味しいご飯が食べられる♩
シンは自分にそう言い聞かせて
ダボついたゼッケンを付けて
センパイ達が打つボールをたまにポーンと返していた
ドッ!
音がする方をシンが見ると
リンがゼッケンを付けた子達がいるコートに
ボールを打ち込んでいる
「取る気が無いなら、帰りなさいな!!」
うわぁ〜、リンちゃんってば、こっわ!って思いながら
バツン!
次の音が響いて、シンがそちらを見ると
アヤノ、サリが、センパイが打つアタックを防いでいた
「いいよ、双璧!もっといけるかい!」
「「はい!お願いします」」
なんで、ガチ勢しかいないんですか?っと思いながらも
シンは目の前のコートにいるセンパイが気合いを入れて
「コッチもいくよ!」
と言う声に
自分のコートにいるゼッケンを着けた選手が返す返事
「はい!お願いします」
をシンは口パクで合わせて、体を左右にユラユラさせていた
早く、早く帰りたいのにな
なんでコートから出してくれないの
ていうか、なんでおねだりするの?
次のボールなんて要らないから
さっきから全然ボールに触れてないし
他の子達もどんどん交代していくのに
私だけが、最初から入っているのに交代させてくれない
てかさ
なんなのさっきから早く見たいなって目で見てきて
わかりやすすぎだっての!
絶対にやんないわよ!
それにやっても、相手は中学生だから
通じないって、全員が私より大きいんだから!
コートの隅で
ボールを磨きとかボール拾いとかめっちゃするのもいい
小学校の頃1人で練習してる時にめっちゃしたから
苦じゃないし!
ウイ、エル、ヒル、ルカが髪をしてくれた時に
完全体って言われた時に
全力で逃げればよかった
もう嫌だ!絶対になんか失敗してやる




