26話 変わりゆく景色
2月の終わりに開法学院の三次試験があった
3月半ばの卒業式の日に合格発表がある
シンは卒業式ってあんまり出たくないなっと思っていた
そんな事を母親に言うと、頭を掴まれて
卒業式に行かないと姉達が卒業式で着た服を着て
お出かけ3日!と言われたので
渋々ながら行く事にした
「シン、元気でな」
サライにそう言われて
シンは頭を下げて帰り道を歩こうとして
「クーとハルさんが楽しみにしてると言っていたよ」
言ってきたサライの方を振り返って
再度頭を下げてシンは帰り道を歩き出す
母親もサライに頭を下げてシンの後を追う
「私も楽しみにしているよ」
サライはそれだけ言うと、学校の方に歩いていく
「シン?よかったの?」
「何が?」
シンは家に向かって、母親と並んで歩いていく
「色々と挨拶とかあるんじゃないの?」
「あっちに行ったら会わないんだし、いらない」
シンは言いながら歩く速度を緩めて少し遠くを見る
母親は、シンが見ている先を追うと
そんなに高くない山があり
中腹あたりに建物が建っていた
その昔、シンが兄や姉達とよく遊んでいた山だった
「寂しい?」
母親がシンに聞くと
「別に」
シンは、目線を戻して元の速度で歩き出す
今日は、合格発表の日と卒業の日
2つの区切りが決まる日でもあった
家に帰ると母親は、キッチンに行って
テーブルの上にあるノートパソコンの電源を入れる
ふと、横を見ると携帯が置いてあった
「シン、携帯持って行かなかったの?」
「電池が無かったのよ」
シンは言いながら
玄関からキッチンに歩いてきて
携帯を母親から受け取る
「それより、どうなの?」
「わかったって」
シンはパソコンの前に座ると
開法学院のホームページを表示する
「落ちたら、親子3人で楽しく暮らしましょ」
「私が楽しくない」
「お父さんが泣くわよ」
「お母さんは?」
「今日も元気にニコニコ払い?」
「何それ」
シンは、母親の言う事に適当に答えながら
開法学院の合格者発表ページに受験番号を打ち込んで
暗唱番号を打ち込んでいく
「一旦ストップ!」
「なんで、お母さんが緊張してんのよ」
「ちょっと待ち‥って待ってよ!」
シンは母親の様子に笑いながら
パソコンを操作して次のページへと進むと
画面に合格の文字が表示される
「なに?なぁんか、味気ないわね」
母親は急に冷静になる
「こんなもんよ」
シンは携帯を操作してメッセージを送ると
すぐにスタンプとお祝いのメッセージが表示されてくる
「次は制服かなって、何コレ?」
合格者のページを進むと制服の選択画面が表示されて
S、M、L、LLという選択肢がある
「お姉ちゃん達の時もあったけど
アンタは文句なしのSSSね」
「Sまでしかないし、コレを選べばいいのね」
シンは言いながらマウスを操作すると
パソコンのカーソルはMを目指す
「あなたのそういう所は好きだったわ、シン」
母親は、シンが持つマウスを
シンの手ごとガシッと握って
カーソルをSまで誘導する
「ママは!娘に期待するもんじゃないの!」
「アンタは現実を見て育ちなさい!
大きな‥‥大きくなる夢を見る時代は終わったのよ!」
シンが必死に抵抗するも
母親が両手を使って、Sを選択させる
「あとは寮ね」
「‥‥‥」
母親の言葉にシンは、静かに画面を見ている
「いまさら気にしたってしょうがないでしょ」
「でも、いいの?」
母親はシンの頭を撫でながら
「特待生になってくれただけでも
本当に親孝行な娘よ、あなたは」
シンは、母親の言葉にゆっくりと頷く
「それにね!お父さんが4月から
こっちの本社に戻ってくるから!
アンタの荷作り急ぐわよ!」
「聞いてないわよ!」
「さっき、言ったわよ!
聞いてなかったの?親子の会話を」
「は?なに?3人って、そう言う事だったの!」
シンはカーソルを動かしてマウスを連打した
シンが、3月終わりに寮に引っ越すと
前にも会った寮長が管理するH棟に入寮が決まった
「アンタかい!まったく、問題を起こすんじゃないよ」
シンは起こした気は無いし
これからも無いはずなんだけどと思いながら
とりあえず、はいっと言う
寮長から部屋の鍵と
大まかな施設の利用時間が書いてある紙をもらう
「んで、アンタらも入んのかい?」
シンの後ろに9人が荷物を持って並んでいる
「入っていいの?」
「アンタは住んでんだろうが」
ポーは、あははっと笑いながら、階段の方へ歩いていく
「何階なの?シンの巣は」
「教えない」
「3階だよね」
「昨日片付けといたよ」
「301」
シンがカヤの質問に答えないでいると
エル、ヒルが階段に向かいながら
サラッとすごい事を言ってきて
ルカが具体的な番号まで言う
「早く行くわよ」
サリはそう言いながら、シンから荷物を奪って持っていく
「そっちの荷物軽そうだね」
「たぶん、服とかだと思うな」
カヤ、アヤノが荷物の中身当てをしている
「浴場は大きいですのね」
「時間を選べば皆で入れるわよ」
リン、ウイは施設案内のプリントを見ながら
寮内を進んでいく
「あんまり騒ぐんじゃないよ」
「プライバシーとかは」
「まぁ、アンタの努力次第だね」
寮長に言われて、シンはゲンナリとする
寮の部屋は、少し時代を感じる作りだけど
いい感じの広さと1人部屋っていうのが
また良いのだが、10人も入ると手狭になる
「シンってさ、制服着てみた?」
カヤの言葉に、シンは動かなくなった
「みんなで見せ合いっこしょうか?」
カヤ、ポーがへへへっと笑いながらシンを見てくる
「アンタ達も持ってないでしょ」
「私とヒルとルカは明日引き取りに行くんだよ」
「生地を変えたんだよ」
シンにエル、ヒルが教えてくれる
「シンは何か変えたの?」
「人族は別に無し」
「まあ、そうよね」
カヤ、ウイがシンと喋っていると
「じゃあ、今持っていますの?」
リンの質問にシンが再度止まる
「持ってるんだ」
「見せてよ」
アヤノ、サリの言葉にシンは答えなかった
「制服関連って」
「書いてる箱があったよ」
エル、ヒルの言葉にシンは少し動いて
「みんなが揃ってからでいいでしょ」
「それもそうですわね」
リンが、あっさりと引き下がりそう言うと
アヤノとサリが
「明日さ、バレー部に呼ばれてんだけど」
「シンも来るわよね」
シンは頭に?を出していると
「だいたいどの部でも
入学する前に顔合わせがあるんだよね」
「ウチの部も明日あるから、その後に遊ばない?」
カヤ、ポーが説明とその後の予定を入れてくる
「明日は制服」
「引き取ったら、どっかで集まる?」
「ここでいいと思う」
ルカ、エル、ヒルが続いていく
「明日は荷物が多いわ」
「ここで着替えるんだから置いとけばいいわよ」
「決まりね、部活が終わったらここに集合ですわね」
ウイ、サリが相談してリンがまとめると
シン以外から肯定の返事が返ってくる
「あのさ、私がここの部屋の主なんだけど」
シンが呟くと
「運動着はあるの?」
「たぶんそっちの箱」
エル、ヒルがダンボールを開けようとしている
「だから聞きなさいっての!」
シンが叫ぶと皆が笑った
シンはその日のお風呂の時に寮長から
「静かにしな!」
と頭をペシっとされる
「初日からコレはないわよ」
シンはスリッパをペタペタと音を鳴らしながら
お風呂に向かった
寮に入った次の日
シンは
明るくなってきた時間帯にジャージ姿で寮の前にいた
軽く柔軟を始めていると
「おはようさん」
後ろから声をかけられて
「おはようございます」
シンは振り返りながら挨拶をすると
ホウキとチリトリを持った寮長がいた
「早いね、いつもかい?」
「だいたい」
寮長は、寮正面から真っ直ぐに伸びている道
遠いが学園の門に向かう道を見て
ホウキでその方向を指す
「コッチの方がもうすぐいい感じになるよ」
「ありがとうございます、行ってみます」
軽く会釈して真っ直ぐ伸びた道を走り出す
「まぁ、まだ少し早いけどね」
そういうと、寮長は日課の掃除を始めた
「コッチはどんな感じでいくの?」
背中に和の文字が書かれた法被を着た女性は
同じく法被を着た男性に尋ねる
2人は道の脇に並ぶ木を見上げながら話していた
「少し落とすか」
「そうね
じゃあ、私は朝から行く所があるから
昼過ぎくらいになるかしらね」
「お前だけ卑怯だぞ」
「ちょっとした付き添いとプチ同窓会なんだから
卑怯も何もないでしょ」
軽いやり取りをしながら
乗ってきた軽トラに2人並んで向かう
そんな時に
軽トラが向いている方向から誰かが走ってきた
「へぇ、こういこともあるのね」
「‥‥‥」
法被を着た女性は
長い髪を揺らしながら走ってくる小さな子
おそらくこの学院生徒を見て言う
法被を着た男性は、ジッとその生徒を見ている
「おはようございます」
「おはよう」
「‥‥ああ」
その生徒は
2人の近くを通る時に挨拶をして
そのまま走り去って行く
その背中を法被を着た男性と女性は見ながら
「ほらね、来てよかったでしょ」
「‥‥行くぞ」
法被を着た男性が
軽トラの運転席の方に向かうのを見ていた法被を着た女性は
ん〜っと伸びをして空を見る
「にしても、今日はいい天気になりそうね」
そう言って法被を着た女性は軽トラの助手席に乗り込んだ




