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25話 変わりゆくモノ

髭を生やした年配男性は

もう一度思い返して

満足したように頷いて大きな玄関で靴を脱ぎ、少し笑う


家に上がると

先程シン達の対応をした若い男性が神主姿で

巫女装束を着た若い女性と共に頭を下げて

髭を生やした年配男性を出迎える


「明けましておめっとうじゃのぉ」


髭を生やした年配男性が陽気に告げると

若い女性は、エッと小さく声を出して

驚いたように頭を上げるが

もう一度下げて、若い男性と共に


「「明けましておめでとうございます」」

「おう、後でもう一度出かけるでのぉ」


と言って、髭を生やした年配男性は

奥の部屋に行こうとして


「今年から、神事は任せるからのぉ」

「「承知いたしました」」


髭を生やした年配男性が

笑いながら奥の部屋に入って行ったのを感じて

若い男性と女性は頭を上げる


「アナタ、よく驚かなかったわね」

「驚いたさ、しかしすごく機嫌が良かったな」

「新年の挨拶を砕けてされたのは

今まで生きてきて初めてよ」

「余程、孫が神事を納めたことが嬉しかったのか」


奥の部屋の方を見ながら、若い男性と女性は話し合う


確かに娘達が

50年以上も達成されていなかった

中学生以下で行う神事を成功させた

それは我々、親としても喜ばしい事だと思う


「本当にそうだとしたら、これほど嬉しい事はないわね」

「ああ、本当によくやってくれたよ」


巫女装束の若い女性

エル、ヒルの双子の母親は

神主姿の若い男性

双子の父親である夫と笑い合う


笑顔を見せて娘達が達成した偉業と

父親の浮かれっぷりが繋がっている事に

喜びを感じていたのだが

疑問も残った


「しかし、なんであんなお姿なんでしょう?」

「さあな、何か事情があるのだろう」


双子の母親と父親は、喜びとは別に疑問に思う



「あれほど、あれほどよ!

抜けがけは無しと、散々言いました!」

「はっはっは!許してくれんかのぉ」

「あっれっほっど!!

なんで、そういつもいつも!」

「はっはっは!すまんすまん

この通りだ」



巫女装束の年配女性は壁を向きながら、声を荒げていた

その背中に向かって

髭を生やした年配男性は笑いながら謝るが

言葉もさることながら


「なんですか!なんなんですか!

浮かれて、そんな姿で、さぞや楽しかったんでしょうね!

私抜きで!」

「許してくれんかのぉ、はっはっは」


終始ご機嫌な髭を生やした年配男性は

頭に綿菓子とお面、口には割り箸を咥えて

その口周りはベトベトになっている


「いやぁ〜、ふっふっふ

しかし、あれほどたぁな」

「もう!私も紹介してくれるんでしょうね!」

「この後、会う事になっとるのぉ

まっ、悪友ともだがのぉ」

「早く!

その格好をなんとかしてきてください!

行きますよ!」

「まったく、せっかちだのぉ」


そう言いながら

髭を生やした年配男性は立ち上がり

襖を開けて部屋を出て行く時に


「まっ!ワシは最高に楽しかったがのぉ」

「もう!」


サッと襖が閉められて

巫女装束の年配女性が投げた紙のボールが襖に当たって

部屋に跳ね返ってくる


「まったく

そんなのは‥‥言葉を聞けばわかります」


巫女装束の年配女性は

跳ね返ってきた紙のボールを拾い

ふふふっと笑ってから呟いて

色々と思い返す



厳格な人になった


昔は悪童とかで何人かと悪さもしてたらしいけど

仕事が人を作ったのか

伝統を重んじたのか

真面目になった

とても真面目になってくれた


子供が産まれて、育って

孫が産まれて、育って

暇が出来たのか

昔の馴染みと年に数回食事をするようになっていた

帰ってきた時は少し笑うけど

すぐに仕事をする人の顔になっていく

最近、本当に最近の事だけど

珍しくあの人が楽しげに孫達と話していた


あの人は厳格が過ぎたのか

同じ一族に厳しくあたり

より近い親類には、一層厳しいあの人が

孫達と笑顔で話している


孫達は昔なら忌子

今は特殊体質と呼ぶらしい

水と炎の性質を2人が持って生まれた

孫が産まれて、本当に喜ばしい事だったが

水と炎の割合が早ければ1日

長ければ半年かけて変動するとの事だった


生まれた時より力を顕現できる麒麟児が

2人も生まれたと言うのに

力の使い方を間違えれば

自分の中で力の制御を間違えれば自分を殺す

そう言う特殊体質だった


あの人と私は、孫達に修行の名の下で、辛く当たった

孫達に私達が嫌われてもいいから、力の制御を覚えさす

本当に辛い事があっても親達が癒しとなり、2人を甘やかす


そういう形を取ろうとしたが

私はすぐに甘やかしてしまった

だって、あんな小さい子が

生まれ持っただけの力のせいで‥‥‥

あの人に‥‥夫にすぐに謝った


夫は任しておけと言った後は

ますます厳格になって

孫達はあの人を避けるようになり‥‥‥


夫は、去年の秋あたりに馴染みの店に行ったあたりから

孫達と話すようになっていった

でも、私だって知ってますよ

人族の子でしょう

私にも昔馴染みはいるもの

孫達が名前を教えたのはビックリしたけど

動画を見た時には納得もした


けど、もっとビックリしたのは孫達

エル、ヒルが自分から話しかけにいったという事だったわ


本人達は、おそらく無自覚なんだろうけど

2人で話す時は会話になっている

けど、他は駄目なのよね

自分から話しかけた事すらない


神事の練習の時も

他の子達から何も喋らない事をいい事に好きにやられたのか

私の所へ来て、何も言わずに部屋の隅っこで

2人して丸まっていた


そんな子達が去年の夏ぐらいから変わり始めた

おかしな友達から影響を受けたのかって思うくらいに

明るくなっていった

私達には最初、友達の事は話さなかった


でも、夫が先に話しかけたのよ

人族の子‥‥‥シンちゃんって良い子だなって


夫はこういう所がズルい!


悪友がやってみろって言ったからとか言い訳してたけど

本当に許せない!

エル、ヒルは、今年の夏前に暗くなっていたけども

夏を過ぎたら明るくなっていって

神事もずいぶんと上手くなっていった


それでも元旦の夜に行われる成人の部には及ばないかしらね

と思っていたのに、今日の出来事!

何アレ!

公式では54年ぶりなの?すごいわ!


良い年を迎えれそうって思いながら

エル、ヒルにお祝いをしに行ったら

2人とも、もういなかった

はぁ、さみしいわ

最近はエル、ヒルが、昔の夫みたいになっていく


心配だけど、来年からのお役目は

娘達に渡したので、エル、ヒルに構うつもりよ

去年は、役目を渡すために特に忙しかったものね


そしたら‥‥夫のあの声も聞けるかしらね

仕事をしだしてから、厳格になってくれてから

本当に‥‥たまにしか聞かなくなったけど

本当に笑う時にだけ、本当に楽しい時にだけ

語尾を伸ばす癖


エル、ヒルを変えてくれたのは、すごい事よ

本当に感謝してる

でもほら、夫は頑固だから

でもね

けどね

ちょっとだけだけど期待しても‥‥って!

やりすぎよ!シンちゃん!

私まで笑わさないでちょうだい!本当にもう!



新年明けましておめでとうございます


寒いけどもピリッとした空気の中

着物を着てハシャぐ9人の子供達

色とりどりの着物に包まれているが

魔術に長けたものほど、感心し

新年良いものを見たという感じで見ていく


場所は本殿前の鳥居の下

54年ぶりの快挙を成し遂げた宗家の紅鱗と氷鱗

赤を基調とした着物で青く薄く光るは紅鱗

淡い青を基調とした着物で紅く薄く光るは氷鱗


そんな2人が選んで最後に撮りたいと

呼び込んだのは8人の友人達

ほうっと周りの人達が歓声を上げる

ハシャぐ9人に機嫌を取られているのは

一際目立つ着物を着ている子だった


一際目立つ着物を着た子は

ブスっとして

拗ねたように口を尖らせたり

ため息をついたりしていたが

何かを言った後に紅鱗と氷鱗に抱きついていた


10人の子達は手を繋いで、本殿を背にして横一列に並ぶ

周りを囲む人だかりは段々と大きくなっていく

その誰もが

それぞれが目立つ10人の中でも一際目立つ1人の子に

何故か注目していた


横一列に並ぶ子達の正面には

古いカメラを3脚で立てて

覗き込み位置を合わせるお面を被った男女がいた


お面から髭が出ている男性はカメラを覗き込み

お面で隠れていてもわかる笑顔で何度か頷いた後に

光が出るストロボを持つ


「良い年になりそうじゃのぉ」

「ホントに、もう今からね!」


小声で女性とやり取りをした後に、男性は声を張り上げて


「では、撮りますよ!」


繋いだ手を上に上げたり下げたりして

わちゃわちゃやっている子供達に男性の声が届く

子供達は、ハタッと止まって

くっつきながらカメラを見て真顔になった


お面の男性は、シャッターのスイッチを女性に渡し

ストロボを持っている右手を大きく掲げ

持っていない左手でお面をサッと外して


「さいっっっこうかのぉ〜〜!!!」


両手をあげて、笑顔で声を張り上げる

周りの人も子供達も呆気に取られていたが

シンは繋いだ両手を振り上げ

お面の女性は笑いながら


「「さいっこうだのぉ〜〜!!!」」


2人が叫ぶとストロボの眩しい光があたりに漏れ出した



元旦に号外が神社より出された

54年ぶりの快挙を祝うものだった

号外の表は宗家の紅鱗氷鱗初出場で

快挙を達成と書かれており

2人が並んで写っている写真が掲載されている


裏を見ると何個か記事が書かれてあったが

裏面の4分1くらいを使って

髭を生やした年配男性が

肩に乗せた子供を驚いたように見ている写真が

掲載されていた


その子供は、頭には龍のお面を横に被り

両手に持ったワタアメとりんご飴を

誇らしげに天に掲げている

周りの人は子供を見ているというか

睨んでいるように見える


子供は、まるでワタアメとりんご飴の間を飛ぶ矢が

これからする事を祝うかのように

大きく両手を掲げて我先にと祝福していた

おそらく、この子供は笑顔だろう


写真は矢を強調するため少し暗くなっていて

わかりずらいが

この子供は今年惜しまれながら代替わりした

神主の近しい子だろう


なんせあの神主が肩に乗せていて

暗くても綺麗だとわかる着物を着ている子供

あの厳格で知られた神主が

神事が行われていると言うのに

そっちを見ずに隣のハシャぐこの子を驚くように

しかし優しく見ているのだから



掲載された写真の題名は

「サキドリッコ」

誰もが祝う事が起きる前にこっそりときて

先に祝って驚く人達を見て笑う

そんな意味の言葉らしい



「まったく、僕も1つ言い忘れていたよ」


リンのお爺様は、少し難しい顔をしながら

目の前に座る2人の女性に向かって言った


「作り方は子供の祝い事にする魔術を使用する」

「はい、そう見えましたわ」


リンのお婆様は、そう答えて続ける


「けれど全部が揃って、初めてわかるものもある」

「今回の事、勉強になりましたわ」


リンのお婆様の後に、リンの母親はかしこまって言った


「怒っているわけではないよ、ただ」


リンのお爺様は、そこまで言うと

3人の間に広げられた数十枚の写真の中から

1枚の写真を手に取って、難しい顔になった後にため息を吐く


「まさか寝てしまって

こんな事態を見逃してしまうとはね‥‥不覚だよ」


そんなリンのお爺様を見て

リンの母親とお婆様はふふっと笑う


「しかし、アイツがこんな風になると思わなかったよ」

「よく撮れてるでしょう

後何枚かありますが、なんかソレが1番良い絵なのよね」

「何回かお会いした事はありますが

こんな方だったんですね」


リンのお婆様は、写真の束を畳にスッと広げ

リンの母親はそれらを見ながら言う


「僕のやりたい事とかを理解していたんだろうが

それにしても、はしゃぎすぎだよ」


リンのお爺様は写真を畳の上に置いて言った


置かれた写真は集合写真で

全員の真ん中よりの所で

笑顔で映る髭を生やした年配男性がいた


「でも、私はこの時が1番面白かったけどね」

「この時は、いきなり来てこれをやられたんですもの

ビックリしたわ」


リンの母親が笑いながら

1枚の写真を手に取るとリンのお婆様と一緒に見て

思い出し笑いをする

リンのお爺様は、どれだいっと言いながら

写真を受け取って笑い出す


「これは‥‥この後どうなったんだい?」

「バリバリと噛んで美味かったでしたわ」

「美味かったのぉでしたわ」


リンのお爺様は2人の言葉を聞いて

一瞬止まって、大きく笑い出す

2人は特に面白い事を言った覚えは無いので

リンのお爺様が笑っている姿を2人は不思議そうに見ていた


「ああ‥‥そうだった、そうだったよ!

そういうヤツだったよ!オマエは!」


リンのお爺様は、少し涙を流しながら

持っている写真をもう一度よく見る


写真には踊っているのか

手足を動かしている髭を生やした年配男性が

肩に乗せた子供の事を忘れてハシャいでしまったのだろう

肩に乗る子供は、完全に姿勢を崩しており

髭を生やした年配男性の頭を掴もうとしている


左手のワタアメがついた頭のてっぺんあたりに

右手のリンゴ飴は

大きく空いた口に突っ込まれようとしている

周りの人達は笑ったり、心配して手を伸ばしたりしている


「新年からスゴイものを見させてもらった

本当に悔やまれるよ!寝過ごしたのは」


リンのお爺様は、もう一度写真を見て笑っている

姿勢を崩している子供を見ながら


「それに‥‥そんなに楽しみにしてくれていたのに

寝過ごしてしまったのは悔やまれるね」



リンのお爺様が話を聞いた時

シン達が帰って来て、着替え終わった後だった


リンのお爺様は頭を下げて説明をしていなかった事と

妻達がからかったのではなく

作り方が一緒だったので勘違いした事も伝え

何かしたいとも言うと



「新年から注文が殺到していますのよ」


リンの母親が言った言葉で

リンのお爺様は引き戻される


「値段もつけていないし

在庫も無いと言っているのにお金ならいくらでも払うし

物も仕上がるまで待ちますので

よろしくお願いしますばかりですのよ」


リンの母親が言う言葉を聞いてから

リンのお爺様は目を瞑って

あの日、あの子が言った言葉を思い出す


そんな事ない言葉

よくある言葉だが

昔に、よく聞いた言葉だった



「どんな事があっても、本当に嬉しかったの

初めてだったし、本当に綺麗で、少し汚れちゃたけど

‥‥ごめんなさい

でもさ‥‥本当に、この着物が良くて‥‥

この着物もらっちゃダメですか?」



リンのお爺様はスッと奥の部屋の襖を開ける

奥の部屋の壁際に並んで掛けている和服を見る


どれも心を込めて作った私の最高作品だ

どの子も綺麗になるように

その日の主役になるように


けども1つ、皆には言ってない事をした

アイツらは見抜いていたようだし

自分の孫が引き立て役になっていると

不機嫌だったかもしれない


全員が揃うと1人だけ目立つ様に

何故か、吸い寄せられる様に見てしまうそんな小細工をした


あの日に1番良い着物を選んで渡そうとした

けれども、それを孫に譲ってくれたあの子が輝ける様にと



「新年はゆっくり休むとしよう」


リンのお爺様は、襖をそっと閉めてそう言うと

立ち上がって、2人の前を横切るように歩き出す


「いやぁ、うるさくってね、悪友共が」


そう言って、歩く速度を速めて、部屋を出て行ってしまう

リンのお婆様と母親は


「去年は、シンちゃん効果でカッコよかったのに」

「寝食を忘れてた期間が長かったから

お休みしても良いんじゃないの」


2人は呆れた様に笑って

立ち上がり、奥の部屋の襖を開ける


部屋の壁際に十枚の和服が

仲良く並んで掛けられている

何度見ても変わらない光景のはずなのに

毎回、必ず変わって見える光景があった


「まるで子供の成長みたいね」


リンのお婆様はそう呟いて襖を閉じる



奥の部屋には、そう何度も着れないけども

それでも、その時間を切り取った写真の様な

そういう時間が飾られていた


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