24話 ヤケクソと自由奔放
シン達は、建物の壁から急いで外へ抜けると
髭を生やした年配男性が背を向けて立っていた
「お?どうだったんじゃ?」
髭を生やした年配男性は、さっきより明るい声で聞いてくる
「ありがとうございます
おかげさまで会えました」
シンはサッと頭を下げてお礼を言うと
来た道を参道に向いて歩き出す
シンの後をなんか気まずそうに会釈をしながら
リン達は歩いていく
髭を生やした年配男性は少し息を吐いて
素早く歩いて、シンの背後から脇に手を入れて持ち上げる
「なに!やめてよ!ちょっと!」
「すまんすまん、驚かしてしまったかの」
そう言って
髭を生やした年配男性は自分の左肩にシンを座らす
「少し口止めをしとかんと思っての」
「いらないから!はなしてよ!」
シンは言いながら
髭を生やした年配男性の頭を掴んで遠ざけようとする
シンは足とかの自由が着物で制限されている為
髪を掴んで引っ張るぐらいしか出来ない
シンを肩に乗せた髭を生やした年配男性の後ろで
リン達はハラハラしながらも
さっきの事もあった為に
どうしたらいいかわからなくなっていた
「焼きそば」
髭を生やした年配男性の言葉にシンは
ピタッ!と動きを止める
「お好み焼き、りんご飴」
「な、何よ」
「口止め料じゃて、さっきの壁のな
カステラ、ホットドッグ、ワタアメ」
「‥‥ダメ!
知らない人に奢ってもらったら駄目って言われてんのよ!
おろして!」
「おや?シンちゃんは知らんでも
後ろの子らはどうじゃ?聞いてみい?」
シンは髭を生やした年配男性の髪を引っ張りながら
リン達に
「アンタ達は知ってんの?この変なお爺さん」
リン達はうんうんと頷いている
髭を生やした年配男性は笑い出して
「確かに変じゃの、今のワシは」
シンはズッと鼻をすすって
掴んでいた髪をはなして
髭を生やした年配男性の肩に座り直す
「どうしたんじゃ、風邪か?」
「お腹が空くとこうなんのよ、いつも」
「では、たっぷりと食ってみるかの」
「めっちゃ空いてるから、沢山食べていい?」
髭を生やした年配男性は笑って、歩き出す
「破産してしまうかもしれんのう!」
髭を生やした年配男性が歩くのが早いのか
もう参道の近くにいた
シンは本当に幸せだった
昨日の夜からお腹空いてんのに
楽しい想像が膨らんで止まらなかった
今年は嫌な事ばかりだった
試合は最悪だし、その後は地元で無視された
開法に行く事を言ったら
陰口とかメッセージで変な事言われ始めた
なんて言おうと無視されたり
変な意味で取られたりしたから
迷ったけど、メッセージグループから抜けた
母親や姉達からは
勉強ばっかしてたら駄目って言われて
地元のクリスマス会に連れていかれた
同級生から無視されてんの知らないから
遊んでこいって言われるし、雪ダルマの格好させられた
それでもすごくいい着物をもらって着た時
鏡の自分を見てドキドキが止まんなかった
スゴイのもらったって想像よりスゴイって思ったのに
笑われた
泣きたくなったけど
初めてだったから
泣きたくなかった
文句言おうとしたけど
楽しい雰囲気を壊したくなかったし
今日だけはと思ったのでやめた
やけっぱちの気持ちで
ご飯食べたら少しはマシになるかと思ったけど
駄目だって止められた
確かに、この格好だし、汚しちゃ駄目だよね
お腹空いた
写真を見たかったって言われた
悩んだけど、悩んだけども
もしかしたらと思って見せた
また笑われた
もうお腹空いた!なんで!もういい!
変なお爺さんが奢ってくれるって言ったから食うし
知らない!汚れても知らない!
でもさ!でもね、でも‥‥でもさ
「持ってけ」
「ありがとよ、後払いでよろしく頼むわ」
髭を生やした年配男性は
そうやって受け取った物をシンの膝に置いていく
「ホットドッグも食べるんだ!」
「おいおい、剛毅だね!慌てちゃいけねぇよ」
シンが喉を詰まらせようとした時に
スッとフルーツジュースを
髭を生やした年配男性が差し出した
シンは
フルーツジュースを一気に飲むと
残りのお好み焼きを食べ尽くし
今膝に置かれたホットドッグに齧り付く
「どうだい?美味しいかの?」
髭を生やした年配男性に聞かれて
シンはうんうんと頷きながら
ホットドッグをモグモグと口の中に押し込んでいく
髭を生やした年配男性は
シンの揺れている頭の側頭部あたりに
お面がくるように付ける
「次はどうするねぇ!嬢ちゃん!」
「たこ焼きが食べたい!」
「合点承知よ!わははは!」
髭を生やした年配男性は
行列ができている店の調理している前までくると
「おう!大将!頼んどいたのはできてるかのぉ!」
「わかってますよ、1番良いとこです」
「嬢ちゃん、いいやつをもらったでのぉ!
わはははは!」
シンはお面と髭を生やした年配男性の顔が邪魔で
誰からもらったとかは見えなかった
それ以上に食べるのに必死でわからなかった
全部美味いし、全部食べる、シンはもうヤケクソだった
「アイツがああまで上機嫌とはな」
「肩に乗せてた嬢ちゃんはシンちゃんだったな」
ん〜〜っと、アヤノの祖父とウイの祖父は難しい顔をして互いにキセルを持ち出して、火をつける
「どうしたって言うんですか」
ウイの祖母がその様子に疑問を投げかける
2人は顔を見合わせて、ん〜〜っと唸ると
「なぁ、聞くがよ」
「なんですか?」
ウイの祖父はウイの祖母に難しい顔のまま尋ねる
「今日のシンちゃんはどうだった?」
「見てないんですか?すごく可愛かったですよ
それこそウイが小さい時みたいに!」
興奮気味に語るウイの祖母を見て
「だよな」
「しょうがねぇよ
こればっかは、アイツもそうなんだろうさ」
呆れ顔になった2人は、フーッと煙を吐き出す
ウイの祖母は
「どう言う事なんですか?」
2人は難しい顔をして
「作ったヤツに聞いてくれ」
「来てないのか、アイツは」
「もうそろそろ起こすとは言ってましたよ」
ウイの祖母が言うと
ますます難しい顔になった男性2人は煙を吐き出した
「ははは、よく食ったかのぉ?シンちゃん」
「うん」
人通りの多い参道を少し外れた所で
鼻をすすらなくなったシンは
落ち着いた様に髭を生やした年配男性に答えた
「ちょっと行ってみたい所ができたんだがの?
ついて来てもらっていいかのぉ」
「りんご飴と綿アメ」
髭を生やした年配男性は
はっはっはと笑いながら後ろを向いて
「で、手打ちにしてくれるってよ
ちっとここにいるから持って来な」
後ろからついて来ていた子達は
うんっと言って、走って行く
その後ろ姿を少し懐かしむように見ながら
髭を生やした年配男性は優しい声でシンに話す
「まぁ、そのなんだ
取ってつけた事で誤魔化さんでも良いじゃないか
良い子達なんだがのぉ
その、なんだ、ちょっと浮かれただけだのぉ
嬢ちゃんもあの子達も、んでワシものぉ」
「わかってる」
シンは再度鼻をすすって
側頭部についていたお面を顔に被る
「本当に良い子だのぉ
うちの子になってくれんかのぉ」
と言って
髭を生やした年配男性は、お面を被ったシンの頭を撫でる
「嫌に決まってるのぉ〜」
少し語尾が伸びて、肩を小刻みに揺らし
髪を引っ張ってくるシンに
「はっはっは!振られたのぉ!」
と笑い、髭を生やした年配男性は少し大きめに肩を揺らした
「ふむぅ、混んどるのぉ」
ワタアメを左手にりんご飴を右手に持って
お面を頭の左側につけたシンを肩に乗せ
立ち止まった髭を生やした年配男性を
周りの人達は少し間をあけて立っている
「シン、笑って」
「コッチ向いてよぉ」
「笑顔が見たいよ」
ルカ、アヤノ、ウイがシンに向かって言うも
ブスっとむくれたままのシンが
「手打ちって言われたでしょうが」
ワタアメにパクッと食いついて言う
「焼きとうもろこしも買ってこようか?」
「カステラボールとか」
「なんでも買って来ますわよ」
「もう一回、焼きそばだよね」
カヤ、ポー、リン、サリがシンに話しかけても
むくれたままで、シンはりんご飴をかじって
「ウッサイ!」
とりつく島もないような答えを返す
「はっはっは!次が始まるからのぉ
そろそろ静かにのぉ」
髭を生やした年配男性が言うと
シン達が見ている先の左側に水に浮かぶ舞台がある
その舞台の上で2人の女性が
礼をして、矢を持たずに弓を引く構えを何度もして
頭を下げてから矢を持ち、弓で矢を引いて
シン達から見て右側に矢を放つ
矢はシン達の見ている左側から右側に飛んでいき
見えなくなる
すぐに、ドォーンと太鼓が鳴り
あ〜〜という声が、シン達の周りや会場から上がる
「どうなったら勝ちなの?」
シンはワタアメにパクッと食いついて
髭を生やした年配男性に質問する
「勝ち負けはないのぉ
だだ、2人同時に矢を放って的に当てるだけじゃしのぉ」
「ふぅ〜ん、誰も当てる気なさそうだったから
そんなもんなんだ」
その言葉が聞こえた周りの人はシンを見るも
髭を生やした年配男性を見て目を逸らす
「はっはっは、勝ち負けが無いとそうなるかもしれんのぉ」
笑ってはいるが、少し声色が変わっていた
「シンちゃんはわかるんかのぉ」
「なんとなく、そんな感じがしただけ」
髭を生やした年配男性は
顔を動かさずに肩に座るシンを見ている
「あれ?あれって‥‥なんで出てんの?」
水に浮かぶ舞台によく見る人影が登場すると
シンが声を出す
「知らんかったんかのぉ
今年初めての出場じゃしのぉ
緊張しと「ウッサイ、黙って!」」
シンが髭を生やした年配男性の言葉を遮ると
周りの人がそれを聞いて、シンを睨む
髭を生やした年配男性がニコニコとしていたので
周りは目を逸らして舞台の方に目を向ける
水に浮かぶ舞台の上では
エル、ヒルが弓を構えている所だった
「わぁ、怖」
シンは呟いて笑っている
エル、ヒルが頭を下げて、矢を持って、弓を引き始める時に
「そのまま、そのまま」
シンが小声で言うので
髭を生やした年配男性はシンが気になって
肩に乗るシンの方を見るその瞬間に
エル、ヒルが矢を放ったと同時に
「やったぁ〜〜〜!!!」
両手を上げて、シンは叫んだ
静まり返った静寂の中
シンが叫ぶ声だけが周りに響き渡った
矢がシン達の右側の見えない所へ飛んでいく時に
シン達の周りにいた人達はシンの方を見るというか
睨んでいた
が、すぐに太鼓がドドーンと鳴り
続いてドン、ドドーンと鳴って
会場全体から、ワッと歓声が上がる
シンを見ていた人達は驚いてから、歓声をあげ始める
空には大きな花火が何発も上がって
水に浮かぶ舞台が
空と水に映る花火の中心にあるように見える
こうして年が明けた




