15話 色々な話③
開法学院のデカい体育館でバレーの全国大会準決勝が行われている
2階観客席の角に座るリンのお爺様はゆっくりと立ち上がる
「最後まで見ませんの?」
隣に座っていたリンのお婆様は尋ねた
「最近は涙脆くてね」
それにと言葉を続ける
「1年前から覚悟していた事だろうしね」
リンのお婆様はその言葉を聞いて、スッと立ち上がる
「いいのかい?見ていかなくて」
「今年も良いものが思い浮かびましたので
早く帰って絵にしませんと」
リンのお爺様は尋ねた事への返答が
自分の思っていた事と一緒だった事に驚くも
「そうか、では帰るとしよう」
「ええ、夜までには仕上げないといけませんから」
2人が応援席から立ち去った時に
3セット目が終わり、開法小の2セット連取が決まった
「そうなると思っていたけど‥‥
コレはあんまりよね」
アヤノの母親はフッ〜と息を吐くと
リンの母親もは〜と息を吐いてから答える
「去年に散々大暴れしたからマークされるのは当然としてもコレはヒドイわ」
アヤノの母親とリンの母親は咲川小のベンチを見る
4セット目が始まる所だが、選手達は立ってるのがやっとという感じの子が多かった
「覚悟が決まったって言っても
これじゃあ、途中でヘシ折れそうなもんだけどね」
アヤノの母親は去年の夏にシンが言った言葉をアヤノから聞いて悲壮感が先にきた
アヤノは気合い入ったとか言ってるけども‥‥そんな言葉を使うって事はわかってるんだろう
頭のいい子だけに
‥‥周りからも恨まれるだろう事もわかってるんだろうね
‥‥仲良くなりすぎたんだろうね娘達と
不器用だけど友達の願いを叶えようとして
‥‥出した助けてを聞こえないようにして
「娘は言葉の意味をわからずに悔しがっていたけどもここまでハッキリとしたらわかるかしら」
リンの母親は娘がどうしてやれないのって悔しがっているのを見て、友達がこれから挑む地獄もわからない子だったのかと思った
ふと自分の母親と父親を見るとコチラを微笑ましく見ていた
少し恥ずかしくなる
私もおそらくこんなんだったんだと
‥‥おそらく娘は気づくだろう
シンちゃんは自分が言った言葉を守る為に
なりふり構わず挑んでくる
‥‥その時の娘の成長を願うばかりだわ
「1セットやってくれたのは情けでしょうね
それ以降を見ればわかるわ」
1セット目は接戦の末に咲川小が取ったが
2セット目、3セット目はほぼストレートで開法小が取った
ブザーの音が鳴り
開法小の選手はコートへと向かうが
咲川小の選手はベンチから動こうとはしなかった
シンは立ちながら頭から大きいタオルを被って下を向いている
「‥‥よくやったわね
こういう結末もあるとは思っていたけど‥」
「ホント‥‥本当に経験したくないわ」
アヤノの母親は、娘が困惑気味にシンを見ているのを見ながら言い
リンの母親はゲンナリしながらそう言った
咲川小は4セット目を危険し
開法小の勝利が確定した
大きな庭園のある家の居間で羽根の生えた年配男性がキセルを咥えながらテレビを見ていた
背後から年配女性が近づくと
音もなく羽根は身体に吸い込まれてなくなり
背中に和と書かれた法被が見えるようになる
「職人さん達が待ってますよ」
年配女性に話しかけられた年配男性は動こうとはせずにテレビを見ていた
年配女性はハッーと息を吐いてテレビを見る
「そんなに気になるなら、仕事を休んで
見に行けばよかったでしょうに」
テレビから実況の声が小さく聞こえてくる
年配男性が小さくしているのだろう
〔去年の台風の目!
対策を練られても打ち破り、噛みちぎって
ここまできましたが無念の危険!
1セット目を奪い、今年も開法小に傷跡を残して、勢いに乗るかと思われましたが、無念の失速!
そして最後はコートに戻ってきませんでした!
しかし!個人的には感動しました!
拍手を!惜しみない拍手をお願いします!〕
タオルを被っている選手をアップで写しながら、実況がそう語る
「誰が見てもシンちゃんだけが異質だものね」
タオルを被っていても顔は隠せても長い髪は隠せていないのですぐわかる
「‥‥まったくよ‥‥なんつー顔しやがる」
年配男性はキセルを口から外してグチる
年配女性はそんな年配男性を見ながら思い出す
昔、ウイは本当に屈託なく笑い
何度も旦那や私に羽を見せてとせがんだ
背中に羽を見せると
『綺麗!大きい!絶対に私もそうなる!』
本当に宝とはこの世にあったんだと思わすような笑顔と言葉だった
羽が出せるようになった孫が怪我をした
バレーをやっている時に1番恐れる怪我をしてしまった
その後、孫は‥‥ウイはあまり笑わなくなってしまい、代わりに勉強をよくするようになった
良い事なのかもしれないが、世の中を少し斜めに見るような発言をするようになっていった
そんなウイが去年の夏ぐらいに久しぶりに可愛らしい笑顔を見せてやってきた
動画を見たいと言って
居間のテレビで再生すると
映し出された画面を見て私は絶句した
ウイと同年代ぐらいがバレーをやっている動画だったのだ
旦那がいなくて本当によかったと思いながら、ウイを見ると
『これ!ここがスゴイのよ!』
と言って興奮しながらテレビを指差す
絶句って何度もできるものだと後で思う
画面越しに見ているせいか合成を疑ってしまう
麒麟の娘さんが力を解放して打ったボールを上げて、上げた小さい子は吹っ飛ばされながら一回転して、獣みたいに構えている
『コレはホント‥‥』
次に飛んだ先の空中で
力を解放している鬼の娘さんが出したボールで狙撃されていた
もちろん絶句した
その後は試合の動画を見て笑顔のウイが興奮気味に語る
本当にね!本当に幸せだったの!
でも、こんなウイが見れたというのに
旦那に言うのはバレーの動画であった為に抵抗があった
そんな旦那が月1で行く馴染みの店で悪友から
『1回だけでいい、騙されたと思って最後まで見てみろ』
と言われて、動画データをもらってきた
居間のテレビで再生するとウイが持っていた動画と同じだった
あの旦那がグッと我慢しているのがわかる
『あの野郎共め!後で覚えておけ!』
キセルを咥えてシャグを入れてなかなか火をつけなかった
私が何度も味わった絶句を味わっていた
ウイが来た時は、この動画を見ては家族で会話をする
あーだこーだと、旦那も娘も娘の旦那も含めて笑いながらね
本当にシンちゃんには感謝しているのよ
ウイとこんな風に喋るのは久し振りだから
それにしても、シンちゃんの覚悟を決めた話を聞いた時に
旦那は馴染みの店に行って、千鳥足で朝帰りしてきた
ずいぶんと盛り上がったみたいです事!
夏の終わりだから、水をぶっ掛けてやったわ!
「覚悟の上でしょうね」
年配女性が言うと
テレビの中で場面が切り替わり
3位決定戦は中止の発表と予定通り午後3時から決勝開始の発表をしている
その画面を見ながら年配男性は少しイラついた仕草でキセルを咥えて吸う
「火、ついていませんよ」
イラついたようにフッーーと鼻から息を吐くと
「仕事に出てくる」
そこで、年配女性は旦那を呼びに来ていたんだって気付いた
年配男性がキセルを箱に片付けて足早に居間を出ていく
年配女性はテレビを消して居間を出ていく時に真っ黒な画面のテレビを見て
「今夜、会うのを楽しみにしてるわよ
シンちゃん」
ゆっくりと居間を後にした




